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カカの天下  作者: ルシカ
551/917

カカの天下551「藪を突いて狸を出す」

 よう、テンカだぜ。


 今日はオレたちお馴染みの三人で集まる日だ。とは言っても今日は飲むわけじゃなく、喫茶店でお茶をするんだが……


「サカイさん、おせぇな」


「んだねーガツガツガツ」


「なかなか連絡取れなかったし、ようやく取れたかと思えば今日のこの時間しか空いてないたぁ……なにやってんのかね?」


「さぁねーガツガツガツ」


「姐さんは何も知らねぇのか」


「んーガツガツガツ」


 聞いてるのかね、この人は。


「ごくん……よし」


「喋る気になったか?」


「おにーさん、パスタランチのDを追加!!」


 やっと口を開いたかと思えばそれかい。しかもこれでA〜Dまでのパスタセットを全部制覇だ。


「なんでそんなに腹減ってんだよ」


「ちょっとエネルギー使うことがあってねー……お、サカイちゃんきた」


「おお、本当だ」


 店に入ってきたサカイさんはすぐにオレたちを見つけて寄ってくる……あれ。


「ひさしぶりー二人とも」


「サカイさん、ちょっと痩せた?」


「あらそうー? ふふ」


 いや、痩せたというよりやつれた? 


「なぁ、姐さん」


「いただきます」


「久々に会った友人を前に開口一番がそれかい!!」


 くっそー絶妙なタイミングでパスタランチを持ってきやがって……空気読めよ店員。


「DセットーDセットー♪ あ、知ってる? サラちゃんの胸ってDカップなんだよガツガツガツ」


「んなこと関係ね――ねぇけど、でかっ!?」


 着やせするタイプかあの人!!


「ね、びっくりだよねーガツガツ。あ、サカイちゃんチッス」


「ちっすー。ふふ、相変わらずだねー」


 姐さんのマイペースっぷりにも全く動じず、店員にコーヒーを注文してオレの隣にゆったり腰を下ろすサカイさん。


「しかしほんと久しぶりだよな。飲みじゃないのが残念でならねぇんだけど」


「そうだねー、飲みたいねー、でももうちょっと待ってね。今は私、サエと一緒になるために大忙しだからー」


 ……なにぃ?


「一緒になるって、できるのか!?」


「んー、邪魔するクソジジィに許しさえもらえればねー」


「もらえそうなのか?」


 愚問だ。簡単にもらえるなら今みたいに離れ離れな関係にはなっていないだろう。


 しかしサカイさんは笑った。


 許しがもらえそうだからじゃない。もらえないと認めつつも笑ったのだ。


「それがね、会ってすらもらえないのよー。なにせ大きな財閥の会長さんだからねー。忙しいから、の一言で追い払われちゃうの」


 そう言って、サカイさんはゆっくりとコーヒーを口にする。


 表情は穏やかな笑顔。前のような弱々しい笑みじゃない。どこか強い意思が滲みでているような……何かあったのか。この人を強くさせる、何かが。


「ガツガツ……で、そんな会長さんにサカイちゃんはどうしたんだっけ?」


「うお、姐さん。ちゃんと話聞いてたのか」


「口は食べるのに忙しいけど耳はあいてるからね。すいませーん、とんかつ定食追加」


 この人……店の定食全部食べる気じゃ……


「ふふ、それでねー。私は頑張って抗議中なのですよー。サエに会う許可をよこせー、そもそも話に応じろーってね。抗議文送ったりいろいろやったりー」


 ……すげぇ。あの無気力だったサカイさんがそこまでやるとは!


「それでも仕事が忙しいって取り合ってくれないのー」


「そうか……財閥の会長だっけ? そんな偉い人だったら本当に忙しいんだろうな。ちなみになんて財閥なんだ?」


 ――と。


 後ろから『財閥』という言葉が聞こえて振り返る。


 そこには一台のテレビ。この喫茶店に置いてあるものだ。ちょうどニュースをやっていた。


『空読財閥――』


「はは、まさかな。忙しいって言ったって、そこまで有名な財閥が出てくるわけないよな」


「あははー」


「日本でも有数のバケモノ企業団体だぜ? 企業の範囲が広すぎて把握できてるんだか怪しいくらいなのに、そこの会長なんて――」


「ねー。せっかく仕事を減らしてあげてるんだから、さっさと応じればいいのにー」


 ぴたり、と脳が一旦停止。


 そして身体は再び振り向く。


 そのニュースを見る。


『空読財閥――またもや末端の会社にて不正発覚か』


 こんな記事、最近多い、よな? 末端のこと故に致命的にあらず、しかしニュースにはなる程度の不祥事が続いて明かされて……


「忙しい忙しいって言うから望みどおりに減らしてあげてるのにねー」


 さっきこの人なんて言った。


 抗議文を送ったり、“いろいろ”やったり――


 ……なんか怖くて、サカイさんの方、振り向けないんスけど。


「あ、でも不祥事が続いたほうが忙しいのかー。あはは、だったらこれ以上忙しくしてほしくなかったら早く私の要求に応じればいいのにねー」


 頷けない……怖くて頷けないっス!!


「あ、もうこんな時間だー。ごめんね二人とも、私ちょっと用事あるからー……二人はゆっくりしてって。今度また三人でゆっくり飲もうねー」


 そう言って、多すぎるコーヒー代を置いてサカイさんは店を出ていった。


 取り残されるオレと暴食姐さん。


「ぷはー! 美味しかった。やっぱシメはとんかつ定食だよね」


 シメなんだかメシなんだか……いや、そんなことは置いといて。


「なぁ姐さん。サカイさんさ、なんであんな全開なの」


「あ、サカイちゃん? うん、こないだサエちゃんと会ったらしいよ。そしたら燃え上がっちゃってさ」


「あのよ……空読財閥とサカイさんって」


「お察しの通りだよ。今朝あたしもちょこっと手伝ったのよ」


「ああ、それでそんなに疲れてエネルギー補給してんのか」


 話の内容が興味なさげだったのは、すでに知ってたからか。


「そゆこと。でもあたしがしたのはそれだけ。ほとんどあの人が一人で財閥の不祥事を暴いてってるよ。聞くところによると“きちんと狙うべきところに脅迫状や暴露状でも送れば、それが事実だろうが虚言だろうが何かしらの埃が出る”だそうな。すごいよね、匿名でしか情報操作してないのにしっかりマスコミに暴かせてんだから」


「……黒い黒いとは思ってたが、ナニモンだあの人」


「母は強し、ってことでしょ」


 姐さんの言葉が胸に突き刺さる。ああ……そういえばうちの母親も、あんな気弱なくせして一人でオレを育て上げてくれたんだっけ。


 母親……か。なったことはねぇから、わからねぇが。


 そんなに頑張れるもんなのかね。だったら……


「あれ、何してんのテンちゃん」


「サエにメール」


「なんて?」


「んっとな、『番号変えました、試しにかけてみてくれ』ってな」


 すぐに意図を悟ったのか、姐さんが楽しそうに笑う。


「なにそれ、嫌がらせ?」


「まさか」


 さっきまでそこにいた人の番号をメールにのせて、


「応援さ」


 送信した。


 頑張ってる友人にオレができるのはこんくらいだ。あとは自分で頑張れよ、母親さん。




 カカラジの意味不明だったCMがここに繋がります。

 で、次は何編か……もうおわかりでしょう。


 サカイ親子編、多分そんなに長くならない……はず。

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