カカの天下55「家族会議、そのに」
トメです。
「じゃ、次は食糧事情について話し合いましょう」
でもコレを言ったのは僕ではありませんのであしからず。
姉は何を理由に偉そうにしているのかはわからないが、いつもどおりにふんぞり返っている。
「えっへん」
うざい。
そんな姉を妹のカカとぼんやりと見ながら、僕はため息をついた。
姉曰く家族会議、第二回目の始まりである。一回目はなんの結果も残さない雑談となってしまったため、もう一度開かれたのだ。
「とりあえず……そうだね。最近、野良犬少なくなったよね」
「はい、待った。なんでそこで野良犬が出てくる。食料の話だろう」
「ええ、そうよ?」
何を当然のことを、と姉が首をかしげる。
ここで思い出した。先日の会話でカカが「姉が野良犬を食べる」みたいなことを言っていた気がする。
「……おい、まさか野良犬は食べものとか思ってないだろうな」
「思ってるわよ」
「なんでやねん」
思わずストレートにツッコミしてしまった。
「なにさ、当たり前じゃない。野良犬なんて放っておいたら害にしかならないんだから」
そこは同意する。
「だから食べちゃったほうがいいでしょう」
そこは断固として否定する!!
「前も聞こうと思ってたんだけど、野良犬っておいしいの?」
「犬、おいしいよ」
「うそつけや!!」
「うそじゃないよ。ビールに合う珍味だよ」
「そりゃ珍味かもしれないけどさ」
なんせ野良犬を食べる人間なんて珍しいったらありゃしない。あ、これだと珍味じゃなくて珍人か。
「弟君はうるさいなぁ。じゃさ、カカちゃん。昨日あげた干し肉おいしかった?」
「ん、そこそこ」
「そういうことだよ」
「食わせたんかい!?」
うちの妹になんてことを!!
「あれ野良犬だったんだー」
「あの、妹さんや、得体の知れないもの食べさせられたんだから、もっとこう、リアクションないんすか」
「え、だっておいしかったし、野良犬」
「あ、ごめん。あれ野良犬じゃないの。見つかんなくてさ」
「なんだ……冗談か」
「だからサカイちゃんとこの飼い犬を」
「まてやコラ!!」
そのとき、唐突にうちのドアが開いた。噂をすればサカイさんだ。
「あの、すいません……うちの犬、見ませんでしたかー」
「え!? まじで、いや、うあああ」
なんということだ……
まさか「そこの姉と妹の腹の中です」なんて白状するわけにもいかないし……それにあの種の犬って結構高かったんじゃなかったっけ……ああ弁償するにはどうすれば。
こんなとき、童話のなかのように腹をかっさばいたら犬がそのまま出てくればいいのに。ああそうだ、そうしよう。とりあえず姉の腹をかっさばこう。
「トメ兄。なんで包丁持ってハァハァしてんの」
「…………」
「あ、あのさ弟、ごめん、ちょっとした冗談。サカイちゃんにも協力してもらって驚かそうと思ってさ」
聞こえない。
なんか腹をかっさばく理由が増えた気がするけど気にしない。
なんかね……疲れたの。
だから――
「トメ兄……」
目の前にカカが立ち塞がる。
「ふぁいと!!」
かと思いきや「どーぞご自由に」と道を開けてくれた。妹よ、ナイス開始合図。
さて……やったるか。
珍しく狼狽する姉に向かってひとっとび。
で、今回も結局会議じゃなくなりましたとさ。
姉かい?
死ななかったよ。
しぶといねぇ。