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カカの天下  作者: ルシカ
546/917

カカの天下546「おやすみキリヤン」

「……おい」


「……はい?」


「……誰だおまえは」


「……キリヤですけど」


「そ、そうか? なんか48時間逃げ回った末に吸血鬼に血を吸われた人みたいな顔してるぞ」


「……アハハ、ええもうなんか燃え尽きましたハイ」


 ど、どうもトメです。今日は久々にキリヤとラーメンでも食べようと誘ってみたのですが、その、今のやりとりでわかるように「誰!?」てな感じの死にそうな顔をしてます。


「48時間……ハハ、お盆の48時間は普段の時間に換算するといったい何時間になるのでしょうか。時給はいかほどに?」


「何を言っとるのだおまえは」


 いつもの余裕ある表情はどこに行った?


「いえですね、説明しますとですね……飲食業というものは、お盆がもっとも忙しい時期でして」


「あ、そなのか」


「ええ。お盆休みに里帰りする人も多いですし、お墓参りで親戚が揃うことも多く、単純に連休ということでお食事、宴会の機会が多いわけです。そんな中――いえそもそもこの八月、私はあの夏祭りの午後以外はずっと働いてまして……」


 ……あ、そういや漫才大会の打ち上げのときすら働いてたなコイツ。 


「そうです。気づきました? その542話では一言も喋ってませんよ私ゃ」


「お、おい。何を言ってる」


「ああすいません。つい口が滑りました。疲れてるんです」


「そ、そうですか。お疲れ様です」


「お盆最終日、そう日曜日ですよ。私ゃファミレス東治で働いた後に病院に行きましたよ。診察的な意味ではなく、もちろん居酒屋のほうへ働きに。そうしたら疲れ果てた人たちがダウンしてましたよ。むしろ本物の病院行けって感じでしたよ。そんなわけで……その日にシフトに入れる人が少なかったんですよ」


「は、はぁ」


「わかりやすく言いましょうか? 病院はですね、満席になると店員さんが8人いても忙しいんです」


「な、なるほど」


「お盆最終日、満席でした」


「て、店員さんは?」


「4人でした」


 は……半分……!


「死ねますよ。店の中を全力疾走ですよ。後半からおかしな笑いがこみ上げてきますよ。でもノークレームでこなしましたよ」


「おぉ……さすがパーフェクト店員」


「もっと褒めてください」


「スペシャル店員! バイトの天才!」


「もっと!」


「一人で二人分の働き! つまりは一粒で二度おいしい!」


「もっともっと!」


「よくやった。ラーメン食え。奢りだ」


「最高のお言葉です!!」


 ちょうどきたとんこつラーメンを怒涛のごとくすすりあげるキリヤ。ちょっと泣いてる? なんていうか……本当に疲れてるんだなこいつ。


「うう……うまい、うまいです……」


「お疲れ様だよ」


「ええ……そしてお盆最終日がやっと終わって、やっと休みだと深夜に騒いだ次の日の朝に電話かかってきて『やっぱ今日出てくれ』と言われた日にゃーあなた、その場で叫びますよ? いえ叫びましたけど」


「言われたんだ……ちなみになんて叫んだんだ?」


「はい喜んで!!」


「喜ぶの!?」


「そうでも言わないとやってられないんですよ!!」


 無理やり自分を奮い立たせて……うぅ、泣ける!


「ビール飲むか? 奢りだ」


「いただきます!! 最高です!!」


 僕って友達想いだなぁ。いいや、ついでに僕も飲もうっと。


 間もなくビールがやってくる。


「乾杯の前に一言!」


 若干壊れ気味にキリヤが言う。


「私の好きな言葉は、『お勘定』です」


 うわーお……


「もっと聞かせてくださいその言葉! 早く聞かせてくださいその言葉!! 要約すると金払ってとっとと帰れおまえら――」


「キリヤ、キリヤ落ち着け!」


「次に好きな言葉は『ラストオーダー』です! 早くやってこいその時間! 120分飲み放題とか飲んでるほうはいいだろうけどこっちは地獄なんです!! ちったぁ注文自重してください! せめて注文するならまとめてしろ! いちいちいちいち呼ぶんじゃねぇ! あと手元のグラスに酒があるのに追加注文するんじゃねぇ――」


「キリヤ! キリヤ壊れてる! キャラが壊れてる!!」


「お、おっと私としたことが……疲れのせいで思わず昔に戻ってしまいました」


 昔どんなんだったんだろ……


「とにかく私はやりました! やりきりましたよ!!」


「おう、お疲れ!!」


「ありがとう友よ!! カンッパイ!!」


 ラーメン屋で盛り上がりまくる僕ら二人。いいじゃないかいいじゃないか。頑張ったんだよこいつは。こんくらい、いいじゃないか。


「はぁ……おいしい」


「そりゃよかった」


「ええ……よくやった私、よくやった皆。なんだかんだでお客様の前では笑顔でしたよ。あと漫才大会のときはちゃんと一歩引きましたよ。頑張る余裕がありませんでしたから。でもKYでGJでしたよね? トメテンファンの皆さん」


「誰に喋ってんだ?」


「空気を読む。いいことです。夫婦の邪魔しちゃいけません。グッジョブな私。サイコーです」


「おーい、もしもーし? キリヤ君だいじょぶー?」


 それからもキリヤは壊れ気味だったけど、最後は清々しい顔をして別れた。瞳に涙を溜めてお礼なんか言われてちょっと気恥ずかしかったが、心から『お疲れ様』と言いたい。


 そして、お盆に忙しかった人の分まで。


 休んだ僕らは、頑張らないとな!




 キリヤ君のお疲れ様体験談でしたー!

 え? これが全部実話だって?

 作者自身の話だって?

 あっはっは、そんな馬鹿な。

 そんな馬鹿な(泣

 

 ……思うままにわずか10分で書き上げたのは内緒(笑

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