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カカの天下  作者: ルシカ
544/917

カカの天下544「とある元気の充填方法」

「ただいまー」


 買い物から帰ってきました、トメです。お盆なせいか、お昼どきのスーパーはスーパーすごかったです。くだらないこと言ってすいません。


「「おかえりー」」


 あれ、なんか二人分の声が聞こえたような。


 首を傾げながら居間へと入ると――


「ぱりぽりぱりぽり」


 せんべい食べてる人がいた。


「ぱりぽりぽりぽり」


 二人も。


「母さん、帰ってたのか」


「ぱりぽり。うん、さっきね」


「ぱりぱり」


 母さんとカカはなぜか体育座りでテレビに視線を向けている。二人でぴったりと寄り添って……仲の良いことで。少しはこっち向いてくれたっていいのに。


「そんな熱心に何を見てるんだ?」


「夏祭りのときのトメ君の漫才」


「DVD版」


「いますぐ消せ!!」


「やだよん♪」


 素早くリモコンを確保して意地悪げに言う母さん。しかし視線はテレビからそらさない……あーもー恥ずかしいな。小学生のときに書いた作文でも読まれてる気分だ。


「パパ君が撮っててくれたんだよね」


「あの野郎……」


「いいじゃないのトメ君。ママさんはお祭りに参加できなかったのだよ? 少しくらいそのときの気分を味あわせてくださいよ」


 そう言われると頷くしかない。


「お母さん、仕事忙しかったんだ」


「うんうん、こっちも夏祭りだったの。でもそれはテレビ番組の内容でね、収録が大変でなかなか帰ってこれなかったんだよ」


「楽しかった?」


「お祭りといっても、あまり楽しくなかったかな」


「なんで?」


「カカ君が隣にいなかったから!」


「お母さん!」


「カカ君!」


 ひしっ、と抱き合う二人。最近こんな光景どっかで見たな。


「私もね、夏祭りは楽しかったんだけど寂しかった」


「どうして?」


「お母さんと手を繋いでまわれなかったから」


「カカ君!」


「お母さん!」


 ひしっ、と抱き合いながら手を握りあう二人。


「このせんべい、おいしい」


「ママも思った」


「お母さんと一緒に食べてるから!」


「カカ君と一緒に食べてるから!」


「お母さん!」


「カカ君!」


 ぱりっ! と見つめあいながら同時にせんべいをかじる二人。なんだこいつら。CMか?


「トメ君もしたいの?」


「いい」


 何をどうすりゃいいのかよくわからんし。


「それよりさ、母さん。秋から新しくドラマやるんじゃなかったっけ?」


「そうだよー」


「……休み、とれたのか?」


「とったの」


 あっさりと言う我らが母親ユイナさん。


「とったって……大変だったろうに」


「そりゃあ大変だよ。やることは盛り沢山、一日休んだだけで地獄を見るのは間違いないね♪」


「地獄を見る予定のわりには明るく言うね」


 ちっちっち、と余裕ありげに指をふる母さん。


「人間ね、そうなんでもかんでも詰め込めるようにできてないの。頑張ったら休む。そして休みの中で元気を充填して、また頑張る。そういう風にできてるの。これができないと元気がどんどんなくなって、結局何もできないし何も楽しめなくなっちゃうんだよ」


「へぇ……でも世の中には休んじゃうと堕落しちゃう人もいるみたいだけど」


 ふと近所にいる、頑張ろうとしているけどダメダメな誰かのお母さんのことを思い浮かべてみる。


 僕は事情を知ってから、ずっと心の隅で力になってあげたいと思っていた。あの人は姉の友人でもあり、僕の友人でもあるのだから。でも僕には何もしてあげられない。せいぜい愚痴を聞いてあげるくらいしかできないのだ。


「休みすぎて堕落する人かぁ。それはきっと、元気を使うきっかけを見つけられない人だね」


「……なにそれ」


「んー、これママさんの持論なんですけどね。人ってね、元気が出たらすぐ頑張ったほうがいいんだよ。元気って賞味期限あるから、それが過ぎるとダメになっちゃうの。そしたら新しい元気がくるまで何もする気が起きなくなるの」


「む。じゃあ賞味期限が過ぎるまでに、頑張ることを何か見つけなきゃいけないってことか?」


 それも結構難しいような……


「そうだよ。でも難しくなんかないよ」


 僕の心を見透かしたように母さんが言う。


「だって頑張る内容はなんでもいいんだもの。今日は散歩して、綺麗な何かを見つけよう。今日は料理をしてみよう。今日は誰かに優しい言葉をかけてみよう。今日はお手伝いしてみよう――なんでもいいから思いついたことを頑張ればいいの」


 なんでも、思いついたことを……?


「やるべきこととか、やったほうがいいことがあるなら、それを優先すべきかもしれないけど……そんな難しいことを考えてたら疲れちゃうものだよ。やりたいことをやってみるの。やってみようと思ったことをやってみるの。そうすれば元気は長持ちするし、日々が楽しくなるし、元気をもらえることも増えるはずだよ」


「やるべきことを置いても、やりたいことを?」


「心に余裕と元気があれば、少しくらい遅れたって大抵のことはなんとかなるものだよ。人って意外と強いんだよ?」


 そう言って微笑む母さんは誰よりも強く見えた。そして恥ずかしながら……少し、その微笑に見惚れてしまった。


「……お母さん」


「なに? カカ君」


「難しくてよくわかんない」


「ん、そうだねぇ。親の元気の元は、やっぱり愛する子供ってことかな♪」


「お母さん!」


「娘よ!」


 飽きずになんかしてる二人は放っておいて。


 母さんの言葉を聞いて、僕は自分の日々を振り返ってみた。


 あなたはどうだろう?


 元気をくれる誰かがいますか? 


 何かを頑張っていますか?


 ……あの人も。


 周りからダメ人間扱いされてるあの人も、娘と触れ合ったりしたら元気が出るんだろうか? 案外元気が出すぎて“思いついた小さなことから頑張る”なんて通り越していきなり本題を解決してしまったりして……それはないか、いくらなんでも。


「お母さん!」


「カカ君!」


 まだやってるし。


「トメ君!」


「……え」


「トメ君!」


「僕も? や、それはなんか恥ずかし――」


「こい♪」


「……はい」


 赤面しながらも元気が出た。やっぱりこの人には敵わない。


 さて、差し当たってはこの元気で美味しい夕食でも作りますかね!




 最近、元気ない人が周り多いなぁーと思ってたらユイナさんがこんなことを仰いました。

 ちょっとくらい遅れてもいいから一休み。心を元気にさせてから頑張ろう、と。

 ちなみに私の元気の基は読者さんの感想です笑

 もらってすぐ返信する余裕ないのが心苦しいのですが^^;

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