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カカの天下  作者: ルシカ
533/917

カカの天下533「夏祭りだよ、株式会社アヤ」

 こんにちは、司会です。名前はありません。


 僭越ながら今回の漫才大会の進行と説明を担当させていただきます。どうかよろしくお願いします!


『株式会社と名乗る五人の小学生は果たしてどのような漫才を披露してくれるのか!? エントリーナンバー一番、“株式会社アヤ”張り切ってどうぞー!!』


 カカカッ! カカカッ! カカカカカカカッ!! と意味不明な三三七拍子と共に登場したスーツ姿の五人組。小さいスーツ、可愛らしいです。おっと、まずは女子三人が前に出ましたよ?


「えー、みなさんこんにちは!!」


 リーダーっぽい女の子が元気に挨拶! いいですね!


「アヤです!」


「糸です」


「……針です」


「裁縫か!?」


 自己紹介でいきなりかましました。アヤと名乗った少女がツッコミを入れています。


「説明いたしますと、綾というのは裁縫において斜めに交わる模様のことを」


「説明しなくていいのイチョウさん!! まったくもう、自己紹介くらいちゃんとやるよ!」


 こほん、と一つ咳払い。


「言葉の」「アヤです」


 ちーん。


「どういう意味よ!?」


「説明いたしますと」


「しなくていいわよそんなの!」


 おとなしそうな顔してやってくれますインドちゃん。え、何で名前を知ってるか? 私はあらかじめ出演者の名前確認してるので本名知ってるんですよー。


 ……本名じゃない? え、だって登録名簿にはたしかにインドと。


 今気づきました。どう見てもこの子は日本人でした。


 ま、いーや。


「進まないわね……こほん。今度は君から自己紹介やって! 私とイチョウさんは最後! ほら、さっきから黙ってる男どももするのよ!」


「……えっと、インドです」


「中国です」


「ソ連です」


「ユーラシア大陸か!?」


 男性陣もしっかりボケる。どうやらツッコミはアヤちゃん一人のようです。


「しかもなにソ連って。ニッシー、今はソ連じゃないでしょ?」


「え……じゃ、ソ連2?」


「なんでシリーズ化してんのよ! ゲームじゃあるまいし」


「ダブルソ連」


「増えてるじゃん!! 今はロシアよ」


「ロシア……ソ連と名前の繋がりないよ?」


「ないわよ」


「新作が店頭にあっても気づかないじゃん!!」「ゲームじゃないっての!!」


 なんだか夫婦漫才みたいな感じになってまいりました。


「おもしろそうだよ、ロシアクエスト6」


「なんで6なのよ」


「幻の大地だから」


「ロシアは幻でもなんでもなく普通の大地よ! なに、その大陸が沈んだみたいなタイトルは」


「反省しろよエニック――」


「おまえだよ!!」


 ちょっと危ないネタできましたね。幻の大地というのはドラク○6のサブタイトルです。お客さんはピンときたのでしょうか。あやしいです。


「もういいわ。自己紹介は進めながらやっていきましょう! こほん……ごほっ、ごほっ!!」


 何度も咳払いしてたらむせたようです。


「けほ……えっと、皆さんようこそ、株式会社アヤへ! えー、今回はですね。臨時で新入社員を募集しまして、希望者が面接するために集まっていただいたわけです!」


 ふむふむ、そういう設定で話を進めるわけですね。ちょっと展開が強引ですが、そこは小学生だから仕方がないか。


「さて、それでは一人ずつ面接していきましょう」


 ステージ隅に寄って一列に並ぶ四人。それとは別に真ん中に用意されていた椅子に座り、足を組むアヤちゃん。


「考える人」


 ポーズを決める。ちょっと頬が赤いその姿に観客から「カワイー!!」との声援が飛びます。


「えー、それでは最初の方どうぞー」


「こんこん、がちゃ」


 口で言いながらドアを開けるマネをして、一人目が入ってきます。この子はタケダ君ですね。


「失礼します」


「はい、そこにかけて」


「ぴ、ぽ、ぱ」


「どこに電話かけてるの!?」


「警察」


「なんでよ!! そこ! そこの椅子に座りなさいってこと」


「それはできない」


「なんで?」


「俺の、尻が……」


「痛いの?」


「くさい」「みんなそうよ!!」


 おお、テンポがよくなってきました。


「くさくないお尻の人なんていないでしょ?」


「いや、それは臭いをかいでみないとわからな――」


「かぐな!! 捕まるわよ警察に……だから電話してたの?」


「先を読んで行動する男、タケダ」


「じゃあ、これからあんたが人のお尻の臭いをかいでまわるのは決定済みなわけ?」


「……俺だってな、こんなネタやりたくなかったよ!!」


「あの、ちょ」


「大勢の前で笑いを取らなきゃならないからって頑張ってるのに! なんだよその言い草は!?」


「タケ――」


「帰る!!」


「おぉーい……あ、行っちゃった」


 これは……果たして漫才のうちなんでしょうか。面白いですけど。


「仕方ないか。次の人どうぞ」


 次の方は……イチョウさんって書いてありましたね確か。


「失礼します」


「はい、どうぞ。そちらにかけてください」


 言われたとおり、アヤちゃんの向かいにある椅子へ座るイチョウさん。


「すごい失礼します」「なんでもう一回言うの?」


「ほほほ」


「しかもすごいって。なんか今からすごい失礼なことするみたいな言い方やめてくださいよ」


「ほほほ」


「え、えっと。面接始めますよ? えーと、あなたはこの会社に何を求めてきましたか?」


「漫才です」「正直すぎ」


「ダメでしょうか」


「ダメですよ……この会社にきた理由ですよ。志望動機ですよ」


「……鬱で」「それ死亡動機」


「あぁ、死にたいのです。絶望した! とか言ってみるのです!」


「なんでそんなに死にたいの? 何かあったの? 私でよければ聞くわよ」


「……実は」


「うん」


「わたくし、個性がないのです」


「そんなことないと思うけど」


「いいえ、全然ないのです。周りの人と比べて」


「はぁ、周りの人と」


「ええ、わたくしの周りは異常に個性的な方ばかりなのです」


「……へぇ」


「とてつもなく何かが飛びぬけているのです」


「そ、そう」


「普通なのはわたくしだけ、みんながみんなバカばっかりで」「ケンカ売ってんのか!?」


「いえいえ、そのようなつもりは」


「まったくもう……とにかく死にたいなんて言っちゃダメよ?」


「はい、人に話したらなんだか元気が出てきました」


「それはよかった」


「では」


「うん、気をつけてね……ってあれ? いつの間に悩み相談所になったのここ!? もう帰っちゃったし……ま、いっか。次の人!」


 ……おお! かなりいい勢いだったので見入って感想を言うのを忘れていました。楽しかった! 観客の皆さんも笑ってます。えー、次はインドちゃんですね!


「失礼します」


「うん、そこにかけて」


「はい……」


「それで、今日は」


「はい。私、悩んでるんです」


「面接どこいったー?」


「あの、実は私、あることを伝えたい人がいまして」


「話聞いてないっすねーあなたも。はいはいもういいよ、ここは株式会社アヤ。仕事は悩み相談よ。それで?」


「は、はい……その、タケダ君に伝えたいことがあって」


「タケダって、さっき出てった?」


「……はい」 


「お尻のくさいタケダ?」


「……はい」「素直に頷くな!!」


 おっと、帰ったかと思われたタケダ君が裏からツッコミました。


「で、何を伝えたいの?」


「えっと、ですね」


 しかしスルー。


「私、言います! あの、私、タケダ君のこと……」


 おお! と観客と一緒にどよめく。これはまさか、みんなの前で勢いに任せての告白か!


「…………」


 しかし言葉が続かない。おやおや? なんだか誰にも聞こえないほど小さな声で何かぶつぶつ呟いているような……ここは私の必殺技、超! 耳をすませば!


「……どうしよう言えない言えないタケダ君にお礼言いたいだけなのになんで言えないのなんで言えないのタケダ君がタケダ君のことタケダ君のせいでタケダ君が悪いのそうタケダ君が悪いタケダ君め……」


 耳を、すまさなければよかったかもしれません。


 人前という緊張もあるのでしょう。ただお礼を言いたかっただけのはずの彼女はここにきて――こんなことを言い放ちました。


「私は……タケダ君のことが憎い」 


 シン、と静まる会場。


 ひっ、と小さく漏れるタケダの怯えた声を聞いて、インドちゃんはようやく自分が何を口走ったか気づいたようでした。


「……あ……あの……わた、し……違うんですぅぅぅ!!」


 泣きながら去っていくインドちゃん。ぶっちゃけ会場の皆さん、何がなんだかわからず呆然としています。それはステージ上のアヤちゃんも一緒だったようで。


「な、なんだったのかしら……タケダのやつ、なんかやったの? インドちゃん去っていっちゃったし……大丈夫かしら」


「これから一体どうなってしまうのか? 続きはインド2で」「おまえはもういい!! いいかげんにしろ」


「「「ありがとうございました」」」


 は? あ、ああ! 漫才終わったんですね……今のがオチ!? え、ええと……とにかく拍手! 拍手!


 ――遅れて沸いた歓声が収まったところで司会の仕事をさせていただきます。


『いやぁ……なんだかどこからどこまでがネタあわせされた漫才だったのかわからないところでしたが……審査員の方々、採点をどうぞ!』


 審査員の頭上に設置された電光掲示板が音楽と共に一斉に数字を表示した!


『85点、83点、88点、92点、90点、80点、合計は――518点! これはいい数字ではないでしょうか……どうですかアヤさん』


 おずおずと前に出た五人のうち、リーダーとしてツッコミとして頑張っていたアヤちゃんにインタビューしてみました。


「え、あの?」


『コメントをどうぞ』


「は、はい……き、緊張して何が何やらわかりません!」


 初々しいですねぇ。これでよくあのような漫才ができたものです。立派です。


『それでは審査員の方々にも聞いてみましょう。え、一番高い点を入れた校長先生、どうでしたか?』


 マイクを向けると、校長先生はおほほと朗らかに笑って答えてくれました。


『前半に少し緊張が見え隠れしていましたが、後半からは勢いに乗ってテンポがよく、楽しませてもらいました。このような生徒を持つ学校の校長として、誇りに思いますよ』


『素晴らしいコメントありがとうございます……それでは、ゲンゾウ家の長女、ミナミさん。どうでしたか?』


『いやぁ、小学生とは思えないね! ちょっとグダグダ感があったしオチが弱いけど、よくやったと思うよ。あたいが現役だったときに対決したかったもんだ。ところでそこの、カレーばっか食べてそうなその子』


『ええと、インドちゃんのことでしょうか』


『ああ、その子。伝えたいことはちゃんと伝えなさいな。このステージに出る勇気があるならちょろいもんさね』


 おっと……なにやらいいこと言ったご様子。インドちゃんが深々と頭を下げています。さすが校長と並ぶ年長者!


『ああ、そういえば私からも一つ聞きたいことがあったのですが。アヤちゃん?』


『なんでしょうか司会者さん』


『ニシカワ君だけ面接がなかったようですが……』


『あんなやつ始めからクビです』


『なるほど! さぁ疑問も解けたところで次に参りましょう! エントリーナンバー。二番! 根暗な人形館の皆さんです、どうぞ!!』 


 次回に続きますよ!




 今回は漫才特有の素早いツッコミを再現したかったので「」の改行をいじってみました。うまくテンポよく書けてればいいなーと思います。


 それにしても調子に乗って書いてたら予想外に長くなりました笑

 この調子で明日も書けるのでしょうか……カカたちのネタ、まだ考えてないんですよねぇ……怖い怖い。

 相手が小学生ということで審査員さんたちは優しい点数ですが、読者様からの酷評がこないことを祈ってます^^;

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