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カカの天下  作者: ルシカ
527/917

カカの天下527「祭りの前に、ひと踊り」

「カカ、珍しいもん手に入ったぞー」


「なになに? ご飯?」


 ご名答、そろそろ夕飯の時間なのです。用意するのはもちろん僕、トメです。笠原家の食事係とか洗濯係とか掃除係とかカカ係とか姉係とか役職の多い人間です。誰か給料くれ。


「今日の夕食は――これだ!!」


「……おじゃまたくし?」


「違う!」


「あ、おたまじゃくしだ!」


「そもそもそれが違う」


 ちょっと似てるけどな。僕がカカに見せた、ボールの中でうようよ泳いでる細長いのは――


「どじょうだよ。踊り食いって知ってるか?」


「なにそれ。踊りながら食べるの?」


「いんや、活きたどじょうをそのまま食べるんだよ。そしたら口の中でどじょうが踊ってるみたいになるだろ? だから踊り食い」


「……え」 


 さすがのカカも、コレを口に入れるのはビビるらしい。ちょっと絶句してる。


「試しに一匹つまんでみ」


「……ええ! このまま食べるの?」


「だからそう言ってるだろ。あ、ちなみに噛まないで飲むもんらしいぞコレ」


「お腹の中で育ったらどうするの!?」


「胃液さんが活躍してくれるから大丈夫だよ」


「万が一生き延びたらどうするの!!」


「胃液さん、ちゃんと仕事してくれるってば。給料は出ないけど」


 僕だって給料なしで働いてるんだから。


「そのうちお腹の中からケロリンが出てくるんだよ!?」


「だからおじゃまたくし違うっつーの」


 まさに「おじゃまします」とお腹をたくしあげるわけか……ってダジャレにしては怖いな。


 まぁそれはともかく、カカは軽くパニックになってるな。いくら小生意気でもお子様か。


「んじゃ僕が軽く食べてみるから」


 別に初めてじゃないしな。不安を取り除いてやるためにも軽くひょいっとつまみ、口の中での踊りを楽しんでからつるんと飲んでみた。


「あぁ……」


 なんか壮絶な顔してカカが見てるけど……おお、食道とかが愉快な感じ。暴れてる暴れてる。


「どじょうがトメ兄の胃の中に……」


「おう」


「そして抜け道を発見」


「おう?」


「細い隠し通路を辿っていくと、やがて脳へとたどり着き」


「おうい?」


「がぶっ」


「殺す気か!?」


「トメ兄はそんなものを食べたんだよ!?」


「そんなもんじゃねーよこれは!! 心配ないから食べてみな。慣れれば楽しいから」


 うぅ……とカカは嫌そうな顔をしつつ箸を持つ。


 そしてどじょうを摘もうとして……失敗。失敗。なかなか摘めない。


「どじょうすくい難しい」


「それ踊りのことな」


 意味としては変わらないかもしれないが。


「ほっ、よっ、はっ、やた、掴めた」


「よし、それじゃ口に――」


「ちょっと待ったぁ!!」


 ……あん? 


 聞きなれた声がして振り向くと、そこにはいつのまにか仁王立ちしている姉が。


「カカちゃん! どじょうを食べる前にはね、どじょうすくいという踊りをするのが習わしなんだよ!」


 どこの宗教の話ですか。


「そっか!」


 しかし喜んでどじょうを手放すカカ。こいつ、実は怖くて「食べるの先延ばしにできて助かったー」とか思ってるな。


「よし、ではあたしと一緒に踊ろう。よっ、ほっ、はっ」


「よっ、ほっ、はっ」


 そして仲良くどじょうすくいを始めるアホ姉妹。なんだか姉がカカに拳法教えてたときのこと思い出すなー。


「いいねいいねー、脚でもすくうよ。はい脚あげてー。ワンツー、ワンツー」


 なんか違うもんになってきた。


「はい、くるっとターン」


 どじょうって激しいしな。


「ここでコケる」


 ああ、どじょうって滑るしな。


「はい、埋まった感じで静止」


 それは土壌。


「ヘイユー、アイマイミーマイ!」


 ああ、ド・ジョーさんか。誰か知らんけど外人な……よくわかったな僕。


「よし、ウォーミングアップおしまい! さぁ食べるよ!」


「う、うん」


 なんだコイツ。食べたかっただけか。


「……えと、カカちゃん先どうぞ」


「え!」


 そしてこいつもビビってる、っと。そういや食べたことないのか姉は。


「お姉こそどうぞ!?」


「いやいや、ここは姉の言うこと聞けやコラ」


「姉なら見本を見せるべきでしょ! たまには本気見せてよ!」


「どじょう食べるだけで本気見せてどうすんの!?」


「じゃ、いつなら本気だすの!?」


「そ、それはほら……空から隕石が降ってきたときとか」


 止めるんかアンタ。


「よ、よし! じゃあ一緒にいこう?」


「い、いいよ?」


「せーの、でいくからね!」


「う、うん!」


「せーの!!」


 ここにサエちゃんとかいたら間違いなく自分だけ食べないんだろうなー、なんて思いつつ。同時にどじょうを口へ入れる二人を眺める。


「む、むむむんむ!!」


「むんむんむん!!」


 口の中で暴れてるみたいです。


「むんむー! むんむー!」


 そしてなぜかワンツーワンツーと踊り始める姉妹。


「んぐん! 飲んだ!」


「んぐ! あたしも! な、なんかまだ踊ってるよ!」


「じゃあ踊らないと!」


「そだね! よっほっはっ!」


「わんつー! わんつー!」


 おー……ほんとに踊り食いしてるよこいつら。


 アホだなー。


 でも……なんか楽しそうだな。


 ……んと。


 どじょうをすくって、ぱくっとな。


 んー……


「わん、つー(とても小さい声)」


 ……はっ!


「じー」「じー」


「こっち見んな!!」


「にや」「にやにや」


「こっちくんな!!」


「はいご一緒に」「わんつー!」


「踊らすなー!!」


 べ、別に楽しくなんかないんだからな!!


 ……はい! 皆さん一緒にくるりと回って、ワン、ツー、どじょう!


 た、楽しくなんかないんだってば!!




 夏祭り系の話ばっかもあれなので、まったく関係ない話をはさんでみました。

 そう、どじょうの踊り食いです。なぜその話を持ち出したかというと、最近うちの職場で話題になったからです(めっちゃ私事

 踊り食いもいいですが……活どじょうの天ぷらとか、揚げるときすごいですよ。ものすごい踊りますから。油飛び散りまくりですから。

 どじょう、楽しいですよね。

 揚げられたり飲まれたりする身としてはたまったもんじゃないでしょうが^^;


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