カカの天下522「おまえなんかこうしてやる」
「こんにちは、お邪魔しまーす」
「ようこそ我が家へ!!」
「ど、どうしたのよ。ヤケにテンション高いわねっ」
ええ、うちに遊びに来たサエちゃんとサユカンを迎えた私はちょっとヤケです! カカです!!
なんでヤケか? それは気にしないでください!
「ささ、上がって上がって」
「う、うんっ」
「んー」
いつものように居間へと通して麦茶を振る舞い、ちょこんと座って三人で「んぐんぐ」と喉を鳴らして一気飲み。や、最近暑いから喉渇くよね。
「それで、カカちゃんどしたのー?」
「え、なにが」
「んー……なんか」
「なにさ」
「何かを誤魔化したくてムリに空元気を出そうとしてる感じがするー。怖いことか悲しいことでもあったー?」
さ、サエちゃん鋭い……! 実は最近怖いこと続きでどうにも元気がないんだけど、でも! そんなこと説明したら余計に元気なくなっちゃうし! 昨日見たモノなんか忘れて、清々しく夏を満喫するんだ!
「別になんにもないよ。それよりさ、夏祭りに何をするか決めようよ!」
「あ、そういえばそんなのあったわねっ」
「カカちゃんがそう言うならいいけどー。何かあったら相談してねー」
サエちゃんに相談したら、また夜にトイレへ行けなくなる話が出てきそうだから遠慮しときます。うう、ごめんね。気持ちは嬉しいんだけどね。
「そのイベントってたしか、ステージの上に立って何かするのよね。なんでもいいとか言ってたけどっ」
「そうそう! それでさ、せっかくだしここは三人で手芸部の成果を発揮すべきじゃないかな!」
結局一学期はいろいろ試してみたけど『これ!!』と言える結果は出せなかったからね。
「手芸部ね……一学期で作ったものといえば何かしらっ。ビーズのアクセサリと、演劇もないのになんとなく例年に倣って作ってみた衣装……は作りかけだったかしら」
作ってみたというか、残ってた衣装を改造してただけなんだけどね。
「あとは簡単に作った人形だねー」
……人形?
呪?
「ナンカ思い出したぁぁぁぁぁ!!」
「ど、どうしたのよカカすけっ」
助けて神様ホトケさま!
「のどぼとけが見えるほど叫んだよー今」
え、ホトケさまは喉にいるの!? じゃあ助けてホトケさま!!
「ちょ、なんで口に手を突っ込んでるのよカカすけっ」
助けてホトケさまー! と手を、というか指を口から喉に伸ばしてみた。
吐いた。
「おぇぇぇぇぇ」
「カカちゃーん? 飲みすぎ?」
「はい、ゴミ箱っ!!」
うぅぅぅ……死ぬかと思った。私がホトケになるとこだったよ。
「みゅぅ……そういえば飲みすぎたトメ兄がこうやって吐いてるの見たことあるような」
「吐いたら楽になるらしいからねー」
「あ、ドラマの警察も犯人に向かって言ってたわね、それっ! どこでも共通なのね」
でもこの気持ち悪さのおかげで一瞬思い出した怖いのはどっか行っちゃった。よかった。
「それで、人形の話に戻るけどー」
う、どっか行ったと思ったらまた……いいやもう。逃げるから怖いんだ。こうなったらあの人形を頭の中で改造してやる!
「あの人形をどうするのよっ」
「えっとねー」
――私の脳裏にポン! とあの着物姿の人形が登場。お札はなくて顔が丸見え。とりあえず額の『呪』の字を『肉』にしてやった。顔は……タケダでいいや。うわ、なんて変な人形。
「じゃあ、人形を動かすのねっ!」
「うん、おもしろおかしくー」
――タケダの顔した『肉』人形は激しく腰を振りまくって踊り狂い、スピンターンをキメて『おぅいぇい!』と呟いた。
「さらにセリフをー」
「それもおもしろおかしくするのねっ」
「うん、変なセリフでいこー」
――タケダ人形はおもしろおかしく叫んだ。『シャイニングおならBooooooooo!!』
「それを続けてー」
――続けて叫んだ。『2ndシャイニングおならBooooooooooooooo!!』
「いろいろと話の波を作りつつー」
――波を作って叫んだ。『まだまだBoo!! たまにはBon!! 終わりと思えばもいっちょBoooo!!』と、すでに叫ぶだけじゃなく、おならで空を飛んでいる。
「最後には、どかーんと」
――タケダ人形はお尻をどかーんとさせて、どっか消えた。
「どう? カカちゃん」
「うん、おもしろい」
怖いの消えたわ。どかーんと。
「よしっ! じゃあ夏祭りは、人形劇で漫才! で決まりねっ」
「へー、そうだったんだ」
「へーって……何聞いてたのよ、カカすけ」
「しゃいにんぐおならぶー」
「はぁっ!?」
「光り輝くおならぶー?」
「もしくはボン」
「何言ってるのー?」
「や、気にしないで。それにしても漫才かぁ……」
どんなのがいいかなぁ。
ニュースをお伝えします。
本日未明、脳内でどかーんさせた人形の顔に武田を使った件について、香加さんはこう述べています。
「誰でもよかった。たまたま頭に浮かんだから使った。カッとなったわけでもなくなんとなくやった。反省はしていない」
警察は「何も反省する必要はない」と判断し、今後も武田を放置していく旨を明らかにしているそうです。




