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カカの天下  作者: ルシカ
521/917

カカの天下521「開けちゃった間」

「開かずの間に入りたい?」


 こくこく! と激しく頷く妹を前に、ちょっと困った顔のトメです。


「どうしたんだよ、いきなり」


「……怖いの」


「は?」


「怖いの!! 開かずの間ってなに! 何があるの!? なんか不気味で、昨日なんか夜におトイレ行けなかったんだから!」


 あー、昨日見た変な文が原因か。そういうのがそこそこ平気な僕ですら怖かったもんなぁ……あれで怖がりモードに突入したんだな。このモードに移るとなんでも怖がるんだよな。


「開かずの間って言ったって、ただの両親の部屋だぞ? まぁ母さんは帰ってきてもカカと寝るし、ずっと入ってないからほとんど父さんの部屋になってるけど」


 む? 父さんの部屋だから大丈夫、というのは理由としては弱いか。怪しいしな、あの人。忍者だし。


「とめにぃぃ」


「……わかったよ。中を見ればいいんだろ?」


「いいの!?」


「ま、別にいいだろ――いいよな? 父さん!!」


 一応適当に声を張り上げてみる。


「……反応ないね」


「出かけてるのかな? そうそういっつも僕らのストーカーしてないか……いいや、無断で入ろう」


「ど、どうやって入るの?」


「いいからいいから」


 自分で言っておいてビクついてるカカの背中を押して……問題の部屋の扉の前に。


「うう、そこはかとない威圧感が」


「まぁ、あのクソオヤジの部屋だし。どんな部屋になってることやら」


 時代劇にありそうな武器が並んでたりする可能性もある。


「に……人形あるかな」


「は? 人形ってなんの話だよ」


「なんかね、サエちゃんが、この家には呪いの人形があるって」


「……そんな話、初めて聞いたぞ」


「だ、だから! その開かずの間の中にあるんじゃないかと思って!!」


 なるほど。怖がりモードにしたってなんでここが怖いのかと疑問に思ったけど、そういうことね。


「確かめればわかるさ。んじゃカカ、ここ立って」


「へ、ここ?」


 適当に扉から離れた地点にカカを誘導する。


「どうするの?」


「はい、扉に向かって。適当に僕の言葉に合わせて」


「う、うん」


 よし、準備完了。


 ではいきましょう。


「さん、はい!」


 僕が言うとカカの身体がぴくっと動き、


「わん」


 ワンステップ。


「つー」


 ツーステップ。  


「きっく」


 リズムに弾んでカカキック炸裂。見事に扉を吹っ飛ばした。


「あ。ノリでついやっちゃったけど、いいの?」


「いいのいいの。前からぶっ壊そうと思ってたんだよ」


 なんでここが開かずの扉になってたと思う? 父さんが鍵を失くしたからだよ。それでも「俺様は入れるからいんじゃね?」とか言って放置されてたんだよね。


「よし、入るぞ」


「う、うん」


 そしてついに。何年かぶり(鍵があったときは入ったことがあったはず。覚えてないけど)にその部屋へと入った。


 ――そして、絶句した。


 百以上の無機質な目に見つめられ、僕らは石化したように固まった。所狭しと並べられた小さな人の形をしたソレら、壁にべったりとついたソレら、天井から見下ろすソレら、よくよく見れば床も、机も、扉にまでソレが――


「な、なに、これ……」


 震えた声でカカが呟く。ああ、僕も震えてる。


 いくらなんでも、こんな……


「ここが封印されていた意味が、わかったな」


「うん……」


 そう。


 この部屋だけでいくつあるのかわからない、ソレは――


 全部、母さんのグッズだった。


 女優だけどアイドルみたいなもんだからね。所狭しと並べられたのはフィギュアか。そんなもんあったんだなぁ……壁やら天井やらそこらじゅうに敷き詰めて貼ってあるようなポスターは結構見るけど。あ、机や椅子に貼ってあるのは生写真とポストカードか。


 いやぁ、入った途端に母さんだらけでびっくりした。


「これなら怖くないだろ」


「別の意味でお父さんが怖くなったけど」


 ああ、またもや父娘の溝が……


「そう言うなって。あの人、母さんと一緒になる前は普通にファンだったらしいし」


「ふーん……この押入れの中にもこんなのがあるのかな」


 さっきまで怖がっていたのがこんなモンで強気になったのか、カカはずんずん進んで押入れなんぞを開けてみた。


 するとそこには予想通りにうちわだのハッピだの様々なグッズと一緒に――まったく関係なさそうな人形が一つ、置いてあった。


「あれ、これだけお母さんじゃない」


 押入れの真ん中に安置されていたのは綺麗な日本人形だった。造りの細かい菊の花柄の着物、長い黒髪……表情は見えない。額に貼られた大きなお札のせいで。


「……なぁ、カカ」


「トメ兄、なんだろねこれ。すごくおっぱい大きい人形だよ。揉んで遊ぶのかな」


「それ、さ。もしかして……」


「ほら、トメ兄も触ってみて」


 カカに促され、押入れに近づいてみた。


 おそるおそる押入れの中に手を伸ばす。


 そして、その人形に貼られたお札を、少しだけ持ち上げてみた。


 すると見えたのは。


 人形の美しく穏やかな表情と。


 額に書かれた一文字。


 『呪』


 バタム!!


「僕の腕がカニばさみっ!? いっでぇぇぇ!!」


 いきなり猛スピードで押入れを閉められた! 中の人形に手を伸ばしていた僕の腕は吹っ飛ぶ寸前だった! 


「何すんだカカ!!」


「だ、だだだ、だって、いま!!」


 見たのか。ならこの怯えようも仕方ないか。


「書いてあったよ!? 『呪』って書いてあったよ!? 『トメ兄を呪う』を略して『呪』だよ!?」


「なんで僕!?」


「私だったらイヤじゃん!!」


「この正直者!!」


「どういたしまして!!」


 なんかパニくりながら無意味な言葉の応酬を交わしたあと、やがて落ち着いた僕らの結論は――


「やっぱりあれが、サエちゃんが言ってた呪いの人形?」


「多分な……でもお札が貼ってあったから、多分大丈夫じゃないかと」


「放っておこう」


「賛成」


 見なかったことにした。


 ……でも、気のせいだろうか。


 何もかも忘れて鮮やかに部屋を後にする寸前、押入れからガタっと音がしたような。


 きっと気のせいだ。うん。





 昨日に引き続き、怖い話もどきです。もどきですので怖くはありません。たぶん。

 

 ちなみにユイナさんは昔、歌を歌ってたのでうちわとかはそのときのモノだったりします。

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