カカの天下52「お肉を食べよう」
「お腹すいた」
「……はぁ。そうですか」
さて、もう寝ようとベッドにダイブしようかと思ったとき。
わざわざ僕の部屋までやってきた妹、カカはそんなことを言いました。
「なんか食べたい」
「……こんな時間にですか、お姫様」
ちなみに僕が寝ようとしていることからもわかると思うが、もう時刻は深夜といってもいいくらいである。
そんな時間に何をおっしゃるかね、このお子様は。
「あのね。肉が食べたい」
「お姫様……っぽくないワイルドなものをご所望ですな」
「なんか妙に油っぽいもんが食べたくなっちゃって」
「なんでだ。夕食が味気なかったか?」
「その通り! 納豆ご飯スペシャルはおいしいんだけどさ、子供にはもっとお肉が必要なの」
「男の子みたいなことおっしゃりますね、姫」
ちなみにどの変がスペシャルな納豆ご飯だったかというと、卵とひじきとネギとそばを納豆に掛け合わせてご飯にのっけたヘルシー&お手軽&安いというスーバラスィ一品だ。
「苦しゅうない! 面をあげい! そしてなんか作れ!」
「眠いんでそんなことしたら苦しいです。あと、もう何か作れるような材料ないですし」
「じゃあ買ってくるのじゃ」
「もっと苦しいでーす」
「ええい、役立たずめ。おまえはクビじゃ」
「クビかぁ。んじゃ何も作らなくていいね。おやすみ」
そう言って布団に潜ろうとした僕の肩をぐわし、と掴むカカ。
「トメ兄ー……おなかすいた」
「いきなりそう弱気に出られてもな……」
「だってさー、ワ○ピース読んでたら無性にお肉食べたくなって」
ああ……たしかにあの漫画にはよく肉出てくるな。
「そう言われてもな、ないもんはないし」
「無いなら作ればいいでしょー」
「肉を?」
「……どこかに野良犬とかいないかな」
「食べるんか、それを」
どんな野蛮人だ。
「お姉は食べたことあるって」
あれは野蛮人だ。
「とにかく、だ。こんな時間に食べるのも身体によくないし。さっさと寝てしまえ」
「むーむー」
何か唸りながらも、一応は観念してくれたらしくカカは部屋を出て行った。
さて、寝るか……と布団に潜ろうとしたとき、再び勢いよく部屋のドアがバーン! と開いた。
「ねえ、お肉食べないと!」
「……だからー」
「ちゃんと理由があるの」
「……なんだよ」
「今日は二月九日だよ!」
「……だから?」
「にく(29)の日だよ!」
「…………」
「食べないと」
「おやすみ」
適当に追い出して、僕は寝た。
……数分後、三度部屋のドアがババーン! と開いた。
「トメ兄、お肉見つけたよ!」
「……どこに」
「トメ兄のお腹」
「そうそう、最近ちょっと気になって――出てけやおまえ」
「可愛い妹の言うこと無視するの?」
「可愛いからってやすやすと食われてたまるか」
「お姉はチャンスあったら食べちゃえとか言ってたけど」
……なんちゅうことを言うんだあの野蛮人。
「あんなのの言うこと、別に本気にしてないだろ」
「うん、遊んでるだけ」
「じゃほんとにもう寝ろ」
「うん、まぁ満足した。疲れた。眠い。おやすみ」
妹の相手も疲れるわぁ。