カカの天下517「2000円問題」
「……はぁー」
いきなりため息なんかついてすいません、サカイですー。
「あむあむ……どうしましょー」
困ったことになりましたー……え? そう言いつつ何を食べてるのかって? そ、それは、その、ストロベリーのミニパフェですけど、違うんです! 本当に困ってるんです! ただ、その、これにはワケがあってー……
「食べ終わってしまいました……」
「お下げしますね」
「あ、はいー」
店員さんが食器を片付けてる……今よ、今だわ、今しかないの。言うのよー!
「あ、あの!!」
「はい?」
「あのー……」
「いかがなさいましたか、お客様?」
「えっと、実は――チョコのミニパフェも追加で!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
うう……言えませんでした。
何をしているのか? もう、鈍いですね、見てわからないのですか?
……お財布を忘れてきたんです。ええ。
それにも気づかず、このファミレス東治の『新作マンゴープリン!』のチラシを見て「あーコレ、サエがこの前食べてたんですよねー(サユカちゃん情報)」と店に入ったのが運の尽き……気がついたときにはすでにアイスを平らげた後でした。
それから何度も店員さんに言おうとして……恥ずかしかったり「この後、私はどうなるのー?」とテンパったりして結局言えないので、とりあえず注文してしまうのでした。すでにアイス、ミニパフェは制覇です……
携帯で助けを呼ぼうとしたんですけど、頼りになりそうな三人はみんな圏外か電源が入ってませんでした。他にお友達なんかいないしー、どうしよー。
「はぁ……」
「お待たせしました」
「どうもー」
もうヤケになってパフェを食べつつ、窓の外を見ていると――
「あー!!」
思わず大声を上げてしまいました! 知り合いが歩いていたのです! あれは間違いなくサユカちゃん!!
「さ、サユカちゃーん」
助けを求めないと! でも大騒ぎして目立つわけにはいきません! 静かに気づいてもらうため、さりげなく窓をコンコン……
気づかない!
じゃーもっと大きな音でー!
「あ、眩暈がー」
他のお客さんや店員さんへのカモフラージュで、フラついたフリして窓へとタックル!
ドゴン!!
「いだっ!!」
ず、頭突きしてしまって予想以上の痛さでした……あぅ、額が痛くて涙目です……でもサユカちゃんは気づいてくれました! 声は聞こえませんが手を振ってます!
「さ、サユカちゃん、こっち来て、お店に入ってー!」
そしてお金を貸してくださいー! と身振り手振りで手話とか駆使して伝えます!
さー届いて私の思いー!
……あら?
サユカちゃんはにこやかに笑って、そのまま去っていきました……
ケロリラリン♪ あら、この音は携帯のメール音……
開いてみると、そこにはサユカちゃんからのメールが。
『おもしろかったですっ』
そんな感想いりませーん!! あ、でも近くにいるんならメールを……『二千円くらい貸してー』っと。
「失礼いたします、お客様」
「は、はいー?」
まずいです、踊りすぎて気づかれたのでしょうか?
「おもしろい踊りでした」
だから感想なんかいらないんですってばー!
「いいものを見せてもらったサービスです。グレープフルーツジュースをどうぞ」
だからそんなものいらな――やっぱいります。
あーおいしー。
「どこの国のフシギな踊りですか?」
「ええとー……美味しいものを食べたときに踊る、サカイ共和国のサエ教の踊りです」
「ぷ」
「笑いましたねー!?」
「はい」
「認めましたねぇぇー!」
「じゃあいいえ」
「なんなんですかあなたはー!」
「しがないバイトでございます」
変な人です……けど後々食い逃げ犯として捕まる可能性を考えると邪険にもできません。
……はっ! その手があったかー。
「ねーねー、おにーさん」
「はい、なんでしょうか?」
「おにーさんは、どんな女の人がタイプー?」
必殺、人妻の魅力で色仕掛けー!
「そうですね、こういう人が好き、というよりも……」
「いうよりもー?」
「すぐにお金を借りたがる人だけはダメですね」
ば、ばばば、バレてますかもしかしてー?
「それでは、失礼いたします」
い、言えないー……
あ、そういえばサユカちゃんにメールしたんでした。どれどれ、返信は……
『そんな大金持ってませんっ』
小学生ですもんねー。二千円は大金ですよねー。
「はぁ……はっ!?」
気がつけば目の前に人が!
「何してるんですかサカイさん。フシギな踊り?」
「さ、サラさんじゃないですかー!!」
なんという運の良さでしょー! 正直言うとこんな人に弱味を見せるのは気に食わないですけどー、もう背に腹は変えられません!
「サラさん、お金貸してくださいー!」
さーバカにするならしなさい!
「いきなりバカにしてくれましたね!?」
「えええええ? なんで? どうしてー!?」
「サラだからって……私はサラ金なんかじゃありません!」
「おーうまいー、じゃなくて! わたし、そんなつもりじゃ」
「いつもいつもバカにして……でもこんな言い方でバカにされたの初めてです!」
「誤解ですよー! 私も気づかなくて――」
「失礼します!」
「あああー、待ってくださいサラさーん!!」
い、行ってしまいました……なんて被害妄想なんでしょー。これだからあの人はダメなんですよ。ぷんぷん。日ごろの行いのせい? 誰ですかそんなこと言ったのは。わたし、日ごろの行いはいいですよー? ゴミの分別きちんとしてるしー。
「はぁー……」
ホント、どうしましょう。ここまで知り合いに立て続けに会っただけでも珍しいのに、さらに他の人に会うなんてことは――
「あれれ? おかーさんがいます。クララびっくりです!」
「……え?」
『お母さん』という単語にビックリしたものの、サエの声じゃない。でもどこかで聞いた声。振り向くとそこには――いつかのフシギな女の子。
「おやおやクララちゃん。知り合いですか?」
「はいキリヤ。なのでクララが奢ってしまうのです!」
「わかりました。支払いは済ませておきますね」
私は唖然としてました……
「あ、あの? クララちゃんでしたよね。どうして」
「おかーさん、お金ないんですよね。見ればわかります。あなたたちの血統はクララと相性がいいので――」
「そ、そうじゃなくてー。その、おかーさん、って?」
「サエおねーちゃんのおかーさんですよね。おねーちゃんのおかーさんはクララにとってもおかーさんです」
おかーさん……その響き。
嬉しくて泣ける!!
「あ、ちなみに今のお金はどこからー?」
「サエおねーちゃんにお小遣いでもらいました」
娘に奢ってもらうおかーさん……
情けなくて泣ける!!
「うううー。今度はあなたたちにご馳走してあげますからねー!」
「はい、クララもサエおねーちゃんも楽しみに待ってます」
こうしてピンチを乗り切った私でした。本当に大人なんでしょーか私……と肩を落としつつも、いい話を聞きました。
「ではでは! 今度のお祭りのときに奢ってくれませんか?」
サエたちが何やらやるみたいです。気になるので行ってみたいと思います。
そんな軽い気持ちで行ったお祭りが、あんなことになるなんて……私は想像もしていませんでした。
珍しく意味ありげな終わり方をしました。
本当に意味があるのか?
……さー(ぉぃ
まま、ともかく。サイフを忘れないように気をつけましょう。私はよく忘れます(だからコレ書いたと言えなくもない。