カカの天下512「この夏は熱い?」
「んじゃホームルームはこれで終わりだな」
はいはい、さっさと号令してよ――おっと、いきなり汚い言葉でごめんなさい。カカです。
テンカ先生が今言ったとおり、今日の学校はもう終わり。楽しい楽しい放課後タイムが待っているのです。
「っと、忘れてた。もう一つ伝えなきゃなんねぇことがあるんだ」
だというのにこの先生は……何を言い忘れたのか知らないけど早く、早く!
「んっとな、てめぇら知ってるか? 隣街で毎年八月に大きな祭りやってんの」
それなら知ってる。多分みんなも知ってるだろう。私たちの街のお祭りよりもかなり賑やかなものらしい。私は毎年地元のお祭り行くから、そっちはあまり行かないけどね。それがどうしたんだろ。
「今年のオレたちんとこの祭りは、やたら長い梅雨の天気のせいで中止になったよな? だから隣街の祭りに行こうと思ってるヤツらは多いと思う」
あ、それいいかも。やっぱり年に一度はお祭り見に行きたいしね。みんな誘って行ってみようかな。
「で、だ。その祭りではな、一般人が自由に参加できるイベントがある。ステージに上って、制限時間内なら歌でも何でもやって構わないってヤツだ。てめぇらの中で三組、これに出ろ」
へー。
ふーん。
……は?
「あんだよてめぇら、みんなポカンとして」
「せんせー。意味わかりませんよー」
私たちを代表してサエちゃんがツッコんでくれた。そうそう。唐突すぎて何が何やら。
「意味っつってもなぁ。参加者募集のやつに適当に送ったら枠が三つも取れちまったからよ、てめぇらを出させようと思っただけだぞ?」
「えっと……なんでそんなの送ったんですかっ」
「なんとなく」
「なんで三つも取れるのよっ」
「確実に取りたかったから周りのヤツの名前を借りたんだよ。ほれ、懸賞とかでよくやるだろ? そしたら三つとも取れた」
「なんとなく送るのに確実に取りたいってどういう意味ですかっ!」
「なんとなくってそーゆーもんだろ。意味なんてねーよ」
うーん……私が言うのもなんだけど、先生って本当に自由だよね。
「それで話を戻すぞ。てめぇらの中で適当に三組、チームを作れ。そうだな……とりあえずカカサエサユカは出ろ」
命令系なのが気に入らなくて、私は席を立った。
「なんでですか」
「オレが見てーから」
「そんな理由じゃ納得できません」
ただちに私が逆らえない、もしくは面白い理由を言いなさい。
「んじゃ、三人ともが期末テスト悪かった罰ってことにしよう」
「職権乱用だ!」
「職権も金も使うためにあんだよ」
なんつー教師だ。
「せんせー。私はテスト悪くなかったと思うんですけどー」
「あぁ、たしかにサエは全教科、平均点は超えてたな」
「でしょー」
「あぁ……全教科77点だなんてふざけるにも程がある。てめぇ点数欄を見ながら狙ってやっただろ? 本気でやれば100点とれたな? ふざけた罰だ、おまえも出ろ」
「ラッキーセブンなのにアンラッキーとはこれいかにー?」
「7が一つ足りないからだろ。さて、一組は……そうだな。イチョウ。おまえ出ろ」
「わたくしですか!? で、でも期末テストは」
「全部100点取られるとなんかムカつくんだよ、教師としては」
「そ、そんなぁ」
「ついでに他のクラスだが、タケダも全部100点だから命令しといた。100点仲間同士、イチョウとチームでいいだろ」
「うぅ、先生の命令とあらば致し方ありません。わかりまし――あ、あら? どうしましたインドちゃん?」
おや、インドちゃんがイチョウさんの胸倉掴んだ!? なに、ケンカ?
「じー……」
「え、ええと? インドちゃん?」
「じー…………」
「もしかして……一緒に出たいのですか?」
「こくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこくこく」
「そ、そんなに首を振ると取れますよ!? わ、わかりました。一緒に出ましょう? えっと……アヤさん?」
「ハイハイ、私にも出ろって言うんでしょ? わかったわかった、あんたら二人放っておけないもんね。ニッシー?」
「僕もか……やっぱし」
どうしたんだろインドちゃん。人前に出るのとか苦手そうなのに……なんかあったのかな。
「さて、順調に二組決まったわけだが……もう一組どうすっか」
はーい、と私は手を上げた。
「ん、カカ」
「テンカ先生が出ればいいと思います」
「あん? なんでだよ」
「私が見たいから」
「……あんな。そんな理由じゃ納得できねぇぞ。ただちにオレが逆らえない理由、もしくは面白い理由を言え」
さっき私が思ったのと同じこと口にしてる。なんか似てるのかな私たち。
「テンカ先生がこの前、お見合い結婚を回避できたのは誰のおかげですか?」
「んぐっ……い、いや、あれはトメのおかげであって」
「そのトメは誰の兄ですか?」
「それは」
「そもそもトメ兄だけだったら危なかったんじゃありませんでしたっけ?」
「……あぁもー、やりゃいいんだろ、やりゃ」
かくして、八月にあるお祭りのイベントステージに参加する三組がここに決まったのだった。
「何しよっかー」
「わ、わたしはするなんて一言もっ」
「まーまーサユカン。手芸部の一環だと思って――あ、それいいかも」
こんな私たち。
「ところでインドちゃんさ、あんだけ勢いよく頷いてたからには提案あるんだよね」
「……………………うぅ」
「提案じゃなくて眩暈があるみたいですね。頷きすぎて」
「うまいなイチョウさん」
こんな三人。
「しっかし一人で出るわけにもなぁ……またトメにでも頼むか」
こんなテンカ先生。
何をするかは、まだ全く決まっていない。
サブタイトルの通り、果たして熱くなるのでしょうか。
変になるのでしょうか。
グダグダになるのでしょうか。
すべては私の八月の気分次第!(いつものこと)
夏祭り編、ちょこっとずーつ進めていきます。