カカの天下511「あそこの花屋」
こんにちは、カカです。
今日も今日とていい天気! 特に目的もなく、一人で商店街を散策なんかしています。
さぁ、何かステキな発見でもないかな!
おお、あそこに見えるはお花屋さん。綺麗なお花に囲まれて、なんだか見たことある人が――
「……?」
「あれ、カカちゃんじゃん。やっほー」
「…………?」
「どしたの。変な顔して」
「……………………?」
「おーい。お姉さんの顔忘れちゃったの?」
お花屋さんに。
お姉?
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
「どういう意味だ!?」
逃げろ! 逃げろぉぉ!!
「殺されるうううううううう!!!」
「なんでだー!! おーい、戻ってこーい!!」
私は泣きながら逃げ出した。
――そして、急いでトメ兄を連れてきてみた。
「あら、カカちゃん。よくわかんないけど落ち着いた?」
「……?」
「そしてどったの弟君。さっきのカカちゃんと同じ顔して」
「…………?」
「もしもし? 暑さにやられちゃったのかな……ジョーロの水でよければ飲む?」
「……………………?」
トメ兄は大きく息を吸って――さん、はい!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
「あんたもか!?」
「こ、殺される、殺されるぞカカ!!」
「だよね!?」
思いっきり頷きあう私たち!
「だからなんでさ!?」
「見てはいけないものを見てしまった!!」
「まったくその通り!」
「あんたらは姉をなんだと思ってるんだ!?」
私とトメ兄はもう一度頷きあい、同時に言った。
「「少なくともお花とは合わないモノ」」
「なんて失礼な!! あたしとお花のどこが合わないってのさ!」
どうやらお姉は身の程をまったくわかっていないらしい。ここは思い知らせてやる必要があるみたいだ。
私とトメ兄はアイコンタクトを交わし、三度頷いた。
「答えろカカ! 花といえば再生の象徴! 姉は!?」
「破壊の象徴、大怪獣」
「花を女の子に例えるなら、姉は!?」
「ムキムキまっちょのスキンヘッド」
「花を見ると笑みがこぼれる! 姉を見ると!?」
「泣き叫ぶ」
「花は癒される! 姉は!?」
「疲れる」
「花は可愛い! 姉は!?」
「つえぇ」
「花は素晴らしい! 姉は!?」
「ヤベェ」
パン! と片手を打ち合い、ビシッと同時にお姉を指差す!
「「どうだ、まいったか!?」」
「あっはっはー、素晴らしくムカつくコンビネーションだなあんたらコノヤロ」
だって……ねぇ? わかるでしょみんな。
「あんたらがなんと言おうと、あたしがここで働いてる事実は変わんないよ」
「くそう……世界の終わりか」
「言いすぎだよあんたら……」
妥当なことしか言ってないと思うけど?
「あら、トメさんにカカちゃんじゃないですか」
――と、騒いでるうちに花屋さんの中からサラさんが?
「サラさん! 姉が、姉が花屋です!! どうしましょう!?」
「トメさん。気持ちはわかります。私もショックでした。でもいくら残酷でも真実は真実なんです。受け入れましょう」
「「サラさん……!」」
そうだよね! サラさん良いこと言う! 私とトメ兄は泣きながら頷いた。
「むぅ……あたしが花屋さんだとそんなに変かなぁ」
あ、言いすぎたかな。落ち込んだ?
「ま、いいや。サラちゃん、仕事しよー」
余計な心配だったみたいだ。さすがはお姉。恐竜に踏まれてもビクともしない頑丈さだ。身体も心も。
「はーい。何しましょうか?」
「そこの花材切っといて。フローリストナイフそこに置いてあるから」
「わかりました」
「あたしはさっき出た分のリボン、作り置きしとくね」
おお……なんか普通に仕事してる。
「姉とサラさん、か。よくよく見るとベストコンビだな」
「そう? 凸凹にも程があると思うんだけど」
「いいか、カカ。サラさんはいろんな職を転々としてきた。それは多分、生来のドジと運の悪さ、不器用さによるものだろう。でも――よく見てろカカ」
見る? サラさんを見てればいいのかな。
ナイフで、えっと、切り花してるのかな? でも手つきがなんだかあやし――あ。サラさんの手が滑っ――
「ぱし、っとな」
「ふぇ、カツコさん?」
「気をつけなー」
「あ、ありがとうございます」
滑った手を、お姉の手が受け止めた? で、でもお姉――
「よし、できた! これを」
あ、サラさんが転ぶ――
「がし、っとな」
「おとと」
「気をつけなー。水撒きした後だから滑るよ」
「はーい」
転びそうになったサラさんを、お姉が腕を掴んで支えた。でも、でもお姉――
「見たか? あの通りサラさんはドジだ。ナイフが滑ったときは手を切るとこだったし、転んだときはあのまま傍に置いてあるでかい鉢に激突しただろう。見た感じ、あの鉢を倒せばドミノ倒しのように店中の花が倒れる」
「それを、お姉が防いだ?」
「そう。サラさんはドジだ。しかし姉の運動能力はそれを遥かに凌駕している」
「……お姉。さっきから離れた位置で仕事してるのに、いざという時は一瞬でサラさんの隣に移動してるよ?」
「ああ。あんなフォローは姉にしかできん。だから言っただろ? ベストコンビだって。これなら致命的な失敗はまずしないだろうな」
おお……職を転々としていた生活もついに最後になるのかな!?
「それにしても……つくづくお姉ってバケモノだね」
「毎度思うことだがな」
「なのに、なんでトメ兄は普通なの?」
「姉がああなる原因になった訓練を、僕が受けてないだけ」
「なんで受けなかったの」
「そこは僕の意思とは関係ない話だよ。今度母さんにでも聞いてみな」
「ふーん」
そういえば私も普通だよね。お姉に色々教えてはもらってるけど、あんなにバケモノじゃないし。
アレはああいうもんだと思って気にしなかったけど。
お姉はどうして、ああなったんだろう?
今度、聞いてみよう。
前回の続き、ですかね。端から見た二人の花屋さんはどんな感じか……ぎゃー! って感じです笑
でもコンビ的にはご覧の通り、最適な組み合わせだったりします。サラさんはドジを。姉はその修正にかまけて暴走を抑えることができます。
でも、まぁ。
カカたちにバレた以上、この花屋さんでも何かやるらしいですけどね、姉は。