カカの天下51「赤ずきんトメ……や、狼か」
「ねえ、トメ兄」
「……なんだ、カカ」
「どうしてトメ兄はそんなに布団かぶって寝てるの」
「寒いから」
「どうしてトメ兄はこんな時間まで寝てるの」
「具合悪いから」
「どうしてトメ兄はトメ兄なの」
「……ダメなの?」
なんとなく童話の赤ずきんっぽい会話をしてから、僕はちょっと苦しくなって二、三度セキをしました。
トメです。なんだか今日は身体の調子が悪かったので、会社を休んだのです。
「むぅ。赤ずきんの狼みたいに襲い掛かってきてほしかったな。ひどいこと言えばそうくるかと思ったのに」
「そんな元気ないもん……」
「まさか普通に落ち込むとは」
「落ち込んでなんかないやい」
……そして、学校から帰ってきたカカに絡まれているというわけだ。落ち込んでないよ? ほんとだよ? しくしく。
「撃退用の木刀もちゃんと用意したのに」
「病人に無茶さすな……それ、血みたいのついてるの気のせいか」
「姉から受け継いだやつだから」
「受け継ぐな……そんな物騒なもん」
「これね、『蒼い蠍特攻隊長、死剣上等!』って殴り書きしてあるんだよ、すてき」
「あー、すてきね。ところで死闘とかじゃないのな。しけん、ってなに?」
「高校試験に向けて勉強を頑張ってる時期に使ってたらしいよ」
マジメなのか不良なのかわからんやつだ。それにしてもだるい。
「とにかく……僕はまだしばらく動けないから、ご飯は適当に済ませてくれ」
「えー……いま家になんもないよ?」
「んじゃサカイさんとこにたかりにいけ」
あー、だるい。だるくてぶっちゃけたことしか言えない。
「わかった」
そうして部屋を出て行ったカカを僕は止めなかった。
ようやく静かになった……と布団を被って。
「ほら、こんな状態なの」
「あらー、それは大変ですねー」
「うん、だからなんか恵んで」
「では、ビタミンをとってもらうためにレモンをあげましょー」
「ほら、こんな状態」
「あっはっは、なさけねーな我が弟!」
「だからなんかちょうだい」
「んじゃ食べかけのビニ弁やるよ」
「ほらこんな以下略」
「わ、お兄さん大変。死んじゃうの?」
「うん」
「大変……じゃ、これあげる」
「……なんでこんなの持ってきてるの?」
ふと、目を覚ますと。
ベッドの枕元に、レモン丸々一個と食べかけの弁当と、焚かれたお線香が置いてあった。
えと……なんのイヤガラセですかこれは……
お、なんか置手紙っぽいのがある。
なになに……
『このたびは誠にご愁傷様でした』
死んでねぇよ。