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カカの天下  作者: ルシカ
507/917

カカの天下507「ファミレス東治の繁盛記」

 いらっしゃいませ!!


 おっと、突然申し訳ありません。忙しくてつい営業スマイルをかましてしまいました。私ですか? ええ、キリヤです。


「キリヤさん、Aの三番テーブルお願いします!」


「了解しました」


 騒がしくてすいません。私のバイト先、ファミレス『東治』はいまや戦場なのです。それというのも――おっと、愚痴っている場合ではありませんでした。Aの三番、と。


「失礼いたします。お客様、どうかなされましたか?」


「どうしたもこうしたもねーよ!! 見ろよこれ!」


 頭の悪そうなおっさんが指差す先には、先ほどお出ししたスープ。その中に……


「虫が入ってんじゃねぇか!?」


 ふむ。たしかに小さくて黒いのが浮いていて、虫に見えなくもないですが……


「いいえ。お客様ご安心を。これは虫ではありません」


「あぁん? だったら何だってんだよ」


「これはスープの隠し味に使う海草の一種です。おそらく手違いでひと欠片だけスープに入ってしまったのでしょう」


「……本当かぁ? 羽みたいなの付いてるんだが」


「その海草というのが珍しいものでして、光合成を活発にするために薄い透明な膜のようなもので葉を覆っているのですよ。ほら、ビニールハウスとかあるじゃないですか。あの要領で光を強めて吸収するんです。その羽のように見えるのは、おそらくそのビニールがはみ出てしまったのでしょう」


「へぇ……で、これは食べられるのか?」


「ええ、もちろん。栄養補給、滋養強壮に最適で、さらにお通じまでよくなります」


「そうなのか。悪かったな、あんちゃん」


「いえ、こちらこそ。無害とはいえ異物を混入させたのは事実ですし。本当に申し訳ありませんでした」


「いやいや、無害ならいいさ。じゃあこれは食っちまおう」


 パク。


「……へぇ、結構うまいな」


「なにせダシに使うくらいですからね。では、失礼いたします」


「おう、すまなかったな!」


 ふぅ、意外と良い人でしたね。


 いやーしかし。


 本当に食べるとは思いませんでした。まぁ本当にお通じは(必要以上に)よくなるかもしれませんし、いいでしょ。


「キリヤさん! すいません……Bの一番にいってもらえますか?」


「はいはい、ご随意に」


 今度はなんでしょう。


「ちょっとお兄さん!! この料理、塩辛すぎるわよ! あたしったら高血圧なのに! どうしてくれるの!?」


 なら塩辛い可能性があるこってりした料理なんか頼むなクソデブババァ! と言いたいのを必死に堪え、私はあくまで営業スマイルをペッカペカ!


「失礼ですがお客様。その料理、塩分はほとんど含まれておりません」


「はぁぁ? じゃあこの辛いのはなんなのよ!」


「それはですね、カレーに似た調味料です」


「カレー? そんな味はしないわよ」


「ええ、味は塩とほとんど変わりません。しかしその実、含まれている成分はカレーと同じ! その名もカプサイシン! 脂肪を燃やすカプサイシン! 食べたら痩せるカプサイシン! 女性の味方のカプサイシンです!! なので、塩辛いというのならそのカプサイシンが、カプサイシンが!! あぁすいません。大事なことなので二回言いました。ともかくそのカプサイシンが多く含まれていたということ……しかし塩辛いことには変わりませんね。今すぐお取替えを」


「これでいいわ」


「え、いや、しかし」


「これでいいのよ! あたしは痩せたいのよ! そろそろヤバイのよ! 旦那も目をそむけるのよ! 娘は口聞いてくれないのよ!! さっき転んだのよ! だからおかわり!」


 まだ食べるのですか!? い、いるんですよね、これを食べれば痩せやすいと言われ、それを食べ過ぎてカロリー取りすぎる本末転倒な人……ああ、だから転んでるんですね。転倒だけに。


「かしこまりました」


 しかしこっちは商売ですし、黙っておこ。


「ふふ……カプサイシン……カプサイシン……ばくばくばく!!」


 いやーしかし。


 本当にそうだったらいいですよね。


「キリヤさーん!!」


 はぁ……今度はなんでしょうか? いくら私がスペシャルバイトだからって疲れるものは疲れるんですよ? それというのも料理長が風邪で寝込んだりするから……あの人がいれば料理で文句なんか出ないんですけどねぇ。


「失礼いたしま――あら」


「よ、キリヤン。元気してるー?」


「あんまり元気なさそうだな」


 なんだかホッとしてしまいました。


「カカちゃんにトメ君! いや、お恥ずかしながらちょっと疲れてますね。料理長がいないもので」


「トウジのおっちゃんが? それで皆バタバタしてるんだね」


「やっぱ料理長って大事なんだなぁ」


「確かにあの人はすごいですけど、もうちょっと他の料理人も見習ってほしいと――ああ、すいません。ドリンクでもサービスしますね」


「あ、いいよ。忙しいだろ?」


「忙しいからこそ、です。少々お待ちを」


 飲食業ってこういうやりとりで癒されるんですよねー。いくら忙しくてもドリンクくらい、ちょちょいのちょい、と。


「はい、トメ君。アイスコーヒーです」


「おお、よく飲みたいものがわかったな」


「さっきメニューでそれをジッと見ていたでしょう? はい、カカちゃん」


「おー」


「コーラでございます」


「怒ったときは?」


「コラー! でございます」


「呆れたときは」


「コラコラ……でございます」


「可愛くいってみよっか」


「こーら、だーめ♪」


「だっふんだ」


「ダメだコラ」


「コーディネイトは?」


「こーでねーと」


 グッ!! と親指を立てあう私たち。


「……最後、コーしか合ってなかったが」


「はっはっは、野暮ですよトメ君。ノリがよければいいんです」


 よし、元気の充電完了! 


 営業終了時刻までもう少し、頑張りますかね!!




 キリヤ節がいっぱい炸裂です。嘘が多い? はっはっは、またまたそんなー。


 苦情はキリヤンに言ってください。適当に全部かわすでしょうけど笑



 

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