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カカの天下  作者: ルシカ
505/917

カカの天下505「トメがいっぱい」

「姫、迎えにまいりました」


「ああ、トメ王子」


 ぽややーん……あ、いきなり幸せな音をすいません、サユカですっ。


「さぁ、いきましょう」


 優しく手を差し伸べてくれるトメさん。ああ、なんてステキなのかしら。豪華な王冠に高貴なマント……似合わないけどトメさんだからなんでもいいわっ!


「どうしたんですか? サユカ姫。そんなに見つめて」


「え、えっとっ」


 思わず言葉に詰まるわたし。だって言えるわけないじゃない。貴方に見とれていたなんてっ!


「ふふ、そのような熱い視線をもらっては仕方ありませんね。ほら」


 わたしの頬にトメさんの指が優しく触れる。顔が近づく! こ、これはもしやっ!?


「あなたのお望みのままに」


 望んでないっ! 特に望んでないですけどカモンッ!! いつでもどこでも大歓迎っ! さぁキキキキ、キスを!!


「俺の全ては、あなたのものです」


 ああ、なんてステキなセリフなのかしらっ!


 でも――


「へぶ!?」


 わたしは近づいてきたその頬を張り飛ばした。


「さ、サユカ姫、何を!?」


「愚か者!! トメさんは自分のことを『僕』って呼ぶのよっ!!」


「そんな! だってこっちのほうが王子っぽいかと思って」


「黙れニセモノ! せっかくいい気分だったのに台無しにして……消えなさいっ!!」


 わたしが命じた瞬間、トメ王子が言葉の通り消え去った。


 ……なんだか本当にお姫様になったみたいで、ちょっと気持ちよかったわ。


「次っ!!」


「は! 今度こそ真打登場でございます!」


 どこからともなく現れる新たなトメさん。


「我こそはトマ王子!!」


「名前が違うっ!!」


 蹴っ飛ばした瞬間、そのニセモノも消え去った。


「はー、はー……まったくもう! ちゃんとしたトメさんはいないのっ!?」


 ……え? 何をやっているのかって?


 見てわからないかしら。


 夢を見てるのよ。そう、トメさんの夢を!! でもね、こりゃいいわねふへへへーって思ってノリノリでお姫様やってたんだけど……ろくなトメさんが現れないのっ!


 これでもわたしの夢かしらっ! 情けないっ!


「さぁ、次はっ!?」


「俺様こそ真の魔王、トメである!!」


「魔王はお姉さんにでもやらせときなさいっ! 消えろ!!」


「わ、わしゃぁトメじゃ……ばーさんや、飯ゃまだかいの?」


「おじいさん。さっき食べたでしょ? あと誰がばーさんかしら。しばくわよ」


「お風呂上りのトメです!!」


「きゃあああ服着て服!! あ、着なくても、別に、その」 


「デンジャートメリン参上」


「誰よアンタッ!?」


『本日の天気は80%の確率でトメです!』


「何このナレーション、ってトメさんがいっぱい降ってくる!? あああそして地面に衝突してことごとく潰れて山になっていく……止めて!! 早く止めて!!」


「トメだけにとめて?」


「くだらないこと言ってないで止めなさいよ!! アンタ誰よっ!」


「わしゃぁトメじゃ……」


「おとなしく飯食ってなさいっ!!」


 夢。それは都合のいいものだと、誰かが言っていた。


 でも……


 これのどこがよっ!?


「好きな人がいっぱいで嬉しいんじゃ?」


「いっぱい居りゃいいってもんじゃないでしょうが!?」


「みんな美味しいよ?」


「食べないわよっ!! 大体アンタ誰!?」


「わしゃぁトメじゃ……」 


「だから飯でも食べてろって――あああトメさんたちは食べるなああああっ!!」

 



 がばっ!! 


「はぁ……はぁ……な、なんて夢なのかしら」


 あんなにたくさんのトメさんが……わたしどんだけ好きなのかしらね。いいえ、でも本物のトメさんには全く及ばないニセモノばかり……これで本当にトメさんを愛していると言えるのっ!?


「この方法、ダメね」


 枕の下からアルバムを取り出す。そのアルバムには今までに入手した数々のトメさん写真が溢れている……枕の下に入れて眠れば夢に見られると思ったんだけど、どうやら写真が多すぎたらしい。


「あ、お祖父ちゃんの写真が入ってる。何かの拍子に混ざっちゃったのかしら」


 それがあのお年寄りトメさんかぁ。




 ――そんな朝を迎えた日の午後。


 変なトメさんばかり見てしまったので、どうしても本物のトメさんに会いたくなってカカすけの家にお邪魔してしまった。サエすけといつもの三人でお茶をご馳走になる。


「……ねぇ、サエすけ」


「このマンゴープリンおいしー。ん、なに?」


「お姫様になりたい、とか思ったことある?」


「なぜそれをー!?」


 なにかしらこのリアクションは。


 はぁ……ため息をついて、トメさんを見つめてみる。


「……ん?」


 夢の中のトメさんはキスしようとしてくれた。


「な、なに。サユカちゃん」


 本物のトメさんは……


「えっと」


 ちょっと困惑した表情を浮かべて……


「あ。僕の抹茶プリン、一口ほしい?」


「はいっ!!」


「そかそか、サユカちゃん抹茶系が好きだったもんね」


 もっと好きなのはわたしの視線の先なんだけど……この鈍さとズレた優しさがたまらない。


 うん。やっぱりこうでないとっ!


「あーんっ」


「さ、サユカちゃん。それはちょっと……」


 うん。やっぱりこうでないとっ!


「ぱく」


「ちょっとカカすけ! 勝手にトメさんからの一口奪わないでよっ!!」


 うん。やっぱりこうで――これはいらないや。


 ともかく。やっぱり本物のトメさんが一番ってことねっ!




 お姫様第二号誕生! 

 といってもサユカ姫の出番は今回限りでしょうね……だってサエちゃんのほうが姫っぽいし。


 それにしても一途なサユカちゃん。ちょっとした間違いでも怒ります。

 間違えてトメのセリフに「俺」とか入れたら殴られそうです。気をつけます。

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