カカの天下504「今日の二人は大忙し」
こんばんは、トメです。
今宵は七夕。去年と同じように姉がどこかの山から引っこ抜いてきた笹の木が、庭にぶっ刺さっております。これ犯罪じゃないのかな? もしそうならシュー君のせいにすればいいだけだけど。
「しっかし、今時ここまで短冊が吊るされまくった笹の木も壮観だよなー」
姉が笹の木を持ってきてすぐ、カカは大量の短冊を飾り付けた。あらかじめいろんな人に願い事を書かせていたらしい。そんなわけですでに笹の木には願いが下がりまくっているんだけど……
「僕の願いごと、まだ決まってないんだよね。他の人のを見て参考にしよ」
さっさと書いて家の中で始まってるお月見だんごパーティに参加しないと……そう、どうやら去年から七夕に月見だんごを食べるのがうちの定番と化したらしい。月見だんごと言いつつ室内で食べるとはこれいかに。
「おっと、ボーっとしてないでさっさとしないと」
でもゆっくり眺めるのもいいな。おもしろいんだよなー人の願いごとって。どれどれ?
『お姫さまになりたいです。サエ』
お姫様……?
どう想像しても女王様しか浮かんでこないのはなぜだろう? 同じだと思ったそこの君、甘いぞ。姫と女王じゃ全然違う。何が違うかっていうと偉そうなイメージが違う。わかりやすく言うと『姫って呼んでくださいね♪』っていうのと『女王様とお呼び!!』って感じの違いだ。わかった?
でも意外とメルヘンなとこあるんだなサエちゃん。そういうのはサユカちゃんの領分かと思ってたけど……今度、姫とでも呼んでみるか。
どれ、次は……
『トメさんとデートがしたいです。サユカ』
ず、ずいぶんとささやかな願いだな。しかし逆にくすぐったいような……今度またお茶にでも誘うかな。
『願い? 自分で叶える。テンカ』
なんて男らしい。
『娘と会いたい。S』
これ、サカイさんか……泣けるな。頑張れサカイさん。頑張れ織姫と彦星。
『織姫と彦星。おまえら何様だ? あたしがその場から引きずり落としてやる!! カツコ』
頑張れって言った矢先にこれか!! そんなこと不可能のはずなのになぜか本気でやりそうなのが恐ろしい。逃げて! 二人とも逃げてー!!
『二人は逃がしました。クララ』
……え? これ、今の僕への返事? 姉の宣戦布告への返事? でも一緒に書いたわけでもないだろうし……え? ええ? クララちゃんって何者? エスパー?
ま、まぁいいや。他は……
『私はサラですから!! サラ』
……何があった?
『さかなになりたい。シュー』
おまえも何があった?
や、彼のことだ。いろいろあるんだろうけど……強く生きろ。
『幸せになりたい。タケダ』
切実すぎて泣けるぜ。
『勘弁してくれ姉貴。トウジ&セイジ』
ここ掲示板とちゃいますから。
それにしても男性陣はことごとく可哀想なこと言ってるなぁ。
『薄着ばんざい。キリヤ』
かと言ってコイツはどうかと思うが。
『甘いもの万歳。教頭』
似たもの同士かあんたらは。そもそも願い事じゃねーし。
『あたち、はんざい。ちま』
犯罪!? 何したのちまって子……あ、『ばんざい』と『たま』か! 字を覚えたんだな! うんうん成長し――『あたしバンザイ』とか成長の方向間違ってませんか!? ますます姉っぽくなってくな……将来が不安だ。ホントに犯罪とか起こさなきゃいいけど。
『輝け日本。総理大臣』
……あれ、こいつネコじゃなかったっけ? どうやって……それとも本物――や、きっとイタズラだ。絶対そうだ。余計なことは考えるな。僕らは日本が輝くように祈っていればいいんだ。
『輝け教育。校長』
普通に立派だ。
『俺もモテたい。父』
それに比べてコイツときたら。あとで母さんに言ってやろ。
その母さんの短冊は……ないか。今月も忙しいって言ってたしなぁ。
「……それにしても、ないなぁ」
さっきから一番に探してるヤツの短冊が見つからない。知らない子の短冊もいっぱいあるからどれがどれやら……ええい、なんだこの『カレー星人襲来希望。カレーパンマンでも歓迎』っていう短冊は!
「何してるのトメ兄」
「お、カカ」
ちょうどよかった。本人に聞いてしまおう。
「今さ、いろんな人の願い事見てたんだよ。おまえはなんて書いたんだ?」
さぞかし変なこと書いたんだろうなーと期待してたんだけど。
「アイスになりたいって書いた」
意外と普通だった。
……や、普通ではないけどさ。カカにしては普通だなって意味で。
「夏のアイス大好きだから」
ちっ。どうやら前にした目玉の話は忘れたらしい。
「アイスになってどうする。溶けるぞ。食われるぞ。大量生産されてビールとか生魚を冷やされるぞ。ドライアイスは凍傷にお気をつけを。アイスランドはヨーロッパ。アイスホッケーは日本ガンバレ。アイスル心を忘れずに。そんなのになりたいのか」
どんなのだ。自分で言っててわからん。
「暑いときにアイスを食べまくってー、身も心もアイスになりたいの」
「それは、たしかに夢だな」
だってさせないし。
「マイブームはね、抹茶あずきモナカアイスと、苺のみぞれ!」
「あそ」
「可愛い妹のささやかな夢をかなえてあげよう! とか思わないの?」
「可愛い妹のお腹が壊れたら大変だもの」
「夢のためならそれくらい!」
「可愛い妹のお腹が出てきたら大変だもの」
「……ぐぅ」
ま、今年も暑くなりそうだし。多少のアイスは大目に見てやることにするかね。
そういうわけだ、織姫に彦星よ。こいつの願いは僕がなるべく引き受けるから、他のヤツの願いごとを叶えられるように頑張ってくれ。
『頑張れ二人とも。トメ』と。変な短冊ばっかだし、こんなのもいいだろう。
ああ、でも。
織姫、彦星よ。
叶える願いは選べよ?
煩悩が渦巻く願いごと。それに目を通す織姫と彦星……きっと『んなもん自分で頑張れよ』と思ってしまう願いも多いでしょう。
でもきっと自分ではどうにもならない真剣な願いを書けば! きっと二人も応援をしてくれるはずです!
応援だけか、って? 手伝ってはくれないのかって?
甘えるな(マテ
応援ってーもんはそれだけで立派な力となるのですよー。
さて今日は七月七日……と、いうわけで。
七時七分に投稿しました!!
「だからどうした」発言禁止!!!




