カカの天下495「共同作戦? がんばれタケダ」
やぁ諸君。毎回毎回聞かなきゃならないのが悲しくて仕方がないのだが……俺のことを覚えてくれているだろうか!? タケダです!
現在ふつーのお昼休み時間。俺はいつものようにカカ君のクラスを覗き込みながらチャンスが落ちていないか探っていた。なに? チャンスは落ちているものではなく作るものだと? はっはっは。それは色男のセリフだ。俺のように堅実で一途な男は、こうして棚からぼた餅がひょっこり現れるのを待つしかないのだよ。む、チキンだと? 鶏肉がどうしたというのだ。
「ねぇタケダ」
「なんだカカ君」
「ちょっと相談があるんだけど」
「そうか。悪いが後にしてくれ。俺は忙しい、今カカ君と――」
カカ君と、喋ってる?
へ? 俺が? 今? now!?
ぼ――
ぼた餅が棚から溢れてきたあああああああああ!!
「そか、忙しいのか。んじゃまたね」
「まままままたまたまたまままたたまた」
「股がどうしたの」
「まった!!」
カカ君のほうから話しかけてくるなど金輪際ないかもしれん(弱気)ので慌てて引き止める!
「俺は、今な、暇なんだ! ものすごく暇なんだ!!」
「でも忙しいって」
「暇をすることに忙しかったわけで結局は暇なんだ!」
我ながらワケのわからないことを言う。しかしカカ君は特に気にせず「そか」と納得してくれた。さすがだ、自分が毎日ワケのわからないことを言っているから他の人の気持ちもわかるのだな。
「んじゃ相談があるんだけど。アレ」
カカ君が指を差したのは教室の隅……む? ニシカワとアヤ君ではないか。言い争っている、のか?
「ケンカしてるみたいなの。アヤちゃんに借りてたノート返したいんだけど、近寄り辛くてさ。タケダってニシカワ君と友達なんだよね? なんとかできないかな」
なるほど、俺に二人の和解を頼みたいわけだな! いや、よくやったニシカワ。さすが我が友、おまえのおかげで俺はカカ君と話をする機会を……!
「なにニヤニヤしてんの」
「う、いや、これはだな」
「人のケンカ見て笑うなんて、さいってー!」
「ああ、違うのだ、これは」
「言い訳なんて男らしくない」
「……もうしません、気をつけます」
くそう、カカ君ときたらなんて男らしいんだ。好きだ。
「とにかくなんとかしてよ」
「そうだな……まずはケンカの原因を探らないといかんだろう」
「んー、朝からもうピリピリしてたけど」
つまりケンカの原因はそれ以前、か。
「どれ、さりげなく会話しながら近づいてみよう。二人の口論を聞けばケンカの内容もわかるはずだ」
「了解!!」
……あー、幸せだー。涙でそー。
などと感動している場合ではない。俺とカカ君は適当に雑談しながらニシカワたちに近づいていく……ああ。こんなに近くで顔を見たのはどれくらいぶりだろうか。可愛いったらありゃしない……ってだから感動してる場合じゃないのだった!
せっかくの共同作戦だ。ここでカカ君の信用を落とせばさらなる距離が開いてしまう。ここは任務に集中せねば!
だんだんとニシカワとアヤ君の会話が聞こえてくる。なになに……?
「なによニッシー、シュークリームのことなんかをいつまでもネチネチ言わないでよケチくさいわね!」
「おまえな、あれは西田屋の特製シュークリームだったんだぞ? 西がつく名前のシュークリームだぞ? それを僕が食べないわけにはいかなかったのに!」
「いーじゃないのそれくらい! ほらこの前にニッシーが作ってた薄皮まんじゅうあるじゃない。あれはあんたが作ったんだからニシカワ薄皮まんじゅうでしょ。それでも食べて我慢しなさいよ!」
「西の田んぼと西の川じゃ全然違うだろ!? 川じゃお米は作れないし、田んぼじゃ人は溺れない!!」
「西なのは同じじゃないの! ワガママ言わないでよ!」
「勝手にシュークリーム食べるのはワガママじゃないのか!?」
「ああ言えばこう言うんだから! だいたいね、いっつもニシニシうるさいのに今日ときたら、西の川といいニシカワ薄皮まんじゅうといいカワカワうるさいのよ! そんなに川に溺れたいの!?」
「カワカワまんじゅうはアヤ坊が言い出したことじゃないか!」
「関係ないわよそんなもん!」
「そんなもんってどんなもんなのさ!?」
「こんなもんよ!」
「だからどんなもんなのさ!?」
……大体の事情はわかった。いそいそと二人から離れる俺とカカ君。
「ね、聞いた? アヤちゃんが勝手にお菓子食べたから怒ってるんだね。小学生みたいな理由だよ」
だって俺たち小学生だもの。それにカカ君、俺の予想だと……君も自分のお菓子を取られたら本気で怒り出す類だと思うのだが? 怖いから言わないけど。
「あんなくだらないことでここまでケンカするんだ。あはは、おもしろ」
「お、おい。君はさっき人のケンカを笑うなって言ってなかったか」
「私はいーの」
なんだこれは。横暴だ。そんなとこも好きだ。
「細かいこといちいちうるさいなー、この頭でっかち」
「う、あ、えと、すまん!」
「どしたの、顔赤いけど」
顔が近いのだ!!
「あ、ほら、その、俺たちこんな風に喋ったことなかっただろう? だからちょっとその、ドキドキ、してしまって」
って何を真っ正直に言ってるのだ俺はああああ!! 恥ずかしいことこの上ないではないか!
し、しかし。これで俺の気持ちが伝わるならばそれはそれで――
「ふーん、タケダは罵られるとドキドキするのか」
伝わってなぃぃぃ!!
「カカ君、そうじゃなくてね!」
「このダニ以下のゴミくずめ」
ドキ。
ドキってなんだ!? 別に俺は罵られて喜んだわけじゃなくて、カカ君の顔が近かったから胸が高鳴ったわけであってだね!?
「あ、二人が移動する。ほら悶えてないで行くよノロマ」
「……はい、仰せのままに」
もういいや。カカ君との交流が盛んになるのなら、これくらいのことは耐えてみせよう。
「早くしてよグズ、クズ、クス」
「さ、最後のクスってなんだ?」
「変なことで喜ぶタケダを笑ってやったの。いいから早く」
うううう、俺の男としての名誉とか尊厳とかがぁぁぁぁ……でも会話が弾んで嬉しいぞぉぉぉぉ、このまま幸せが続けば……!
おっと、感動しながら歩いていたら、いつのまにか目の前にニシカワとアヤ君が!?
「わかったわよ、シュークリーム奢ればいいんでしょ! それでいいのよね、ニッシー!」
「うん、じゃあ放課後に一緒に買いにいこうなアヤ坊」
「まったくもー……」
あれ?
いつのまにか、仲直りしてる?
「……あの、カカ、君」
同じく呆然としていたカカ君は、やがて俺のほうへとゆっくりと向き、言った。
「この役立たず」
ドキ。
だからドキってなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
「アヤちゃーん、ノート返すねー」
あぁ、行ってしまった……!
こうして、俺の幸せは儚くも散っていったのだった。
でも、うん。
今日は、良い日だ。
好きな人と、話せた。
……えへへ。
普通の話のあとはイロモノ話(ぇ
タケダ君の登場でございます。よかったねタケダ、ちょっとカカと仲良くなれて。罵られてるけど。
……まさか未来はシュー君のような?