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カカの天下  作者: ルシカ
491/917

カカの天下491「お見合いミッションFOUR LAST ATTACK!」

「その男はテンカさんの彼氏なんかじゃありません!!」


 指を突きつけられてちょっとムッとしたトメです。


 勝負がついたかと思われたときに突如として現れ、事情を聞いた見合い相手の優男は――いきなりその真実を看破しました。


「こ、こら! いきなり失礼なことを!」


「いいんです父さん。本当のことなんですから。でしょう? 笠原トメ君」


 フルネーム、ときたか。


「なんで、そう思うんだ?」


 否定も肯定もせずに根拠を問う。するとその男は自信満々に答えた。


「本当に君がテンカさんの彼氏なら――いや、君に彼女ができたなら! 君のご両親が騒がないはずがない。そうでしょう?」


 げ、こいつうちの両親の知り合いか!!


 となると今の話も立派な根拠だ。なぜかって? 昔、僕に彼女ができたときに経験してるからさ。付き合い始めて一日も経たずに忍者の父さんにバレて、即母さんへと伝わり、舞い上がった二人は友達親戚あらゆる連中に言いふらした。年月が経った今でも同じことをするだろう。


 この確信に満ちた目。間違いない、この男はそのときに僕の噂を聞いたことがある人間だ。よくよく見れば見覚えのある顔のような気がするし、もしかすると親戚なのかもしれない!


「テンカさんがこの男を彼氏役にした、そして僕とのお見合いを壊そうとしたのですね?」


「いいえ、違います。この人はわたしの恋人です」


 あくまで丁寧にテンは否定した。そうだな、たとえ嘘とバレたとしても明確な証拠はない。反撃の機会を待つならば、まだ嘘は張り続けなければいけない。


「そうですか、あなたがそう言うならば信じましょう。しかし――僕とのお見合いは、続けていただけますか?」


 その言葉に慌てたのはダレ社長だ。このままではつい先ほどの謝罪を撤回する形になってしまうからだろう。しかしこのムカつく男は口が達者だった。


「今までのこちらの失礼が全てこの偽者の作戦だとしたら? その確証をとるまでは、こちらの失態と断定することはできません」


 などと父親を言いくるめ、さらに僕に耳打ちしてきた。


「いいですよね、トメ君。このままテンカさんとのお見合いを続けても。どうしても嫌と仰るなら、あなたのご両親と僕の父にしかるべきことを伝えることとなりますが」


 何を言うつもりなのかはわからない。だがこいつが僕らの嘘のアキレス腱を握ってることだけは明確だ。


「お返事は?」


 しかしムカつくなこいつ。殴りてぇ。しかしここで暴力を振るえば、テンの母さんの立場がなくなってしまう。


「……わかった、邪魔はしない」


 テンに視線で謝罪する。テンは『よくわかんねーけど仕方ねーな』とでも言うかのようにため息をついた。


「賢明です。さぁテンカさん、お話しましょう……ええと、ずいぶんと個性的な帽子ですね」


「ええ、生徒が作ってくれたんです。どうやら先生を辞めてほしくないみたいで」


「あはは、人気があるんですね。さすが僕のほれ込んだ女性です。でも僕は……そんなあなたを、独り占めしたい」


 キラーンって効果音が聞こえてキモ! てかクサ! や、僕もたまにクサいこと言うけどさ、これは違ったクサさだろう!


「……ど、どうも」


 テン……なんか笑いこらえてないか? 顔を赤くして口をひくひくさせてるぞ。


「そんなに恥ずかしがらず、向こうへ行きましょう」


 うあ勘違いした。ナルシストっぽい男だなぁ……やな感じだ。でも僕は口出しできない。


 反撃の糸口があるとすれば、そう。


 今もどこかで隠れて見ているであろうチビすけが何かしてくれた時だ。


 なんでもいい、こちらに有利になるようなことを、何かしてみせてくれ!




「ど、どうするのよっ! このままじゃわたしたちの作戦、全部意味なくなるわよっ」


「うー、うー、ちょっと待ってね、今考えるからー」


「お願いよ、サエすけっ! 君のどす黒い脳細胞だけが頼りよっ」


「そんなこと言われると何も思いつきたくなくなるー」


「……むぅ」


「カカすけ? 君はなんでさっきから黙ってるのっ」


「何か思いついたのー?」


「思いついた、というか……まぁ、仕方ないか」


「え? ちょ、ちょっとカカすけ――?」


  


 ……何かしてみせてくれ、とは言った。


 言ったけどさ、カカ。


「ちょーっと待ったぁ!!」


 本人が出てきていいわけ!?


「な、なんだね君は!?」


 突然のお子様登場にさらに混乱するダレ社長。


「……ぅぁ」


 思わずうめき声をあげるテン。


「???????」


 ハテナがいっぱいテン母さん。


 そんな反応をする皆の中でただ一人、見合い相手の男だけが勝ち誇ったように笑った。


「君はテンカさんの生徒かい? そうか……おかしかったという料理も、この庭も、すべて君が仕組んだことなんだね!?」


「いいえ。それはこの店の趣味です」


 また他人のせいにした!?


 い、いや。それはこの際どうでもいい。問題はカカがどういうつもりで姿を現したか、ということで……


「ほう、だとすると君はなぜこんなところにいるんだい?」


「だって、だって……その、お見合いなんかするって、言う、から」


 むむむ? もじもじと恥ずかしそうにするカカ。演技なのは間違いないが、まるで女の子みたいだ。


「え、ええと、そんなにテンカさんが心配だったのかい?」


「違うわ! 私が心配するのはあなたに決まってるでしょう!?」


「……ぇ。あ」


 何かに気づいた、いや、思い出したのか? この男。


「あんなに愛を誓い合ったのに……お見合いするなんてひどいわ!!」


 はぁ?


 目が点になる僕ら一同。これはアレか。男には隠れて彼女がいた、という設定にしてお見合いを壊そうって魂胆か?


 子供にしてはよく考えた。しかし、いかんせん歳に無理があるぞオイ。


「私が高校に入ったら迎えにきてくれて、めくるめく大人の世界へレッツらゴーしようって言ってくれたじゃない!?」


 あ、あの、カカさん。過激な発言してるとこ悪いですけど、それはさすがに無理が――


「い、言った、けどさ」


 言ったんかい!?


 え、なに、どゆこと!?


「それなのにこんなお見合いをするなんて! ひどいわひどいわ最低だわ!」


 絶好調のカカさん。


「あの、その、ええと! い、いやだなぁ。そんなことを言った覚えはないよ? 何を勘違いして――」


「あのときの言葉を録音したテープあるよ」


「すいませんごめんなさい泣かないでよカカたん! もちろんそれを言ったときは本気だったけど――じゃなくてあの、可愛くなったねアハハ一目でわからなかったよ、じゃなくてあの」


 カカに比べて絶不調の男……そういえば昔、カカがやたらと人の言葉を録音して遊んでる時期があったな。たしか三年生の最初あたり……あれ。


 その時期に、この男の、顔を、見た、よう、な?


「おい、どういうことだ?」


 厳しいダレ社長の視線。そしていまだにハテナが盛りだくさんなテン母さんと、同じく首を傾げるテンの視線。


 それらに曝されてうろたえる見合い相手。


 そして――カカが決定的な一言を放った。


「私に告白したのは嘘だったの? 明彦お兄さん!!」


 ……あ。


 ああああああああ!! おっもいだした!!


 いつぞや隣に住んでてカカにベタ甘だった人!! で、でも!


「おまえは燃えたはずじゃ!?」


「そんなサスペンスっぽいこと言わないでくれトメ君! 燃えたのは家!! 僕は逃げたの!」


 そうか、それならば僕のことを知っていたのも納得がいく。このお隣さんはかつて僕の両親が離婚寸前の危機に陥ったときに姉ともどもお世話になったらしい、母方の親戚なのだ。


 でもダレさんは僕がわからなかったな……あーそういえば、元々うちの家系は親戚付き合いを好まない部類だって母さんが言ってた気がする。実際僕も明彦さんの顔を忘れてたし。それでも僕に彼女ができたら言いふらしたっていうんだから、うちの両親の舞い上がり方も大したもんだ。


「明彦……」


 おっと、回想に耽ってる場合じゃなかった。


 ダレ社長がゆっくりと息子に近づいていく。一体何を言うのだろう。カカの言うことを信じるのか? それともそんなバカな話があるか! と否定するのか……普通は後者だよな、どう考えても。


「おまえ……またか」


 普通じゃなかった!? またってなんですかまたって!?


「あ、あの? ダレさん。一体どういう……」


 さすがにハテナもいっぱいになりすぎて溢れてきたのか、ずっと黙っていたテン母さんがついに口を開いた。


 ダレ社長は苦しそうに「むぅ」と唸り、


「ここまで恥をかいたのだ。包み隠さずお教えしよう」


 真実を語る決心をしたようだ。ぶっちゃけ何の真実を知ればこの場が片付くのかさっぱりわからんのだが。


「うちの息子の明彦だがな……生まれついてのロリコンなのだ。幼稚園のころからすでに幼稚園児が好きだと言い出す始末」


 あれ、あの、それって普通なんじゃ。


「小学生に上がると小学生の女の子が良いと言い、少しは対象年齢が上がったと安心したのだが」


 だからそれ普通ですってば。


「そこから成人しても対象年齢は小学生のまま」


 それは普通じゃねーな。


「……お父さん? なぜそう思うのですか。証拠は?」


 そんな語りを遮る明彦さん。カカの言葉を聞いた後ではすでに悪あがきでしかないのだが、以前からその性癖に気づいていたらしい父の言葉に疑問を持ったようだ。


 しかしダレさんはきっぱりと言った。


「そんなもの、おまえの部屋に隠されているお宝を見れば一目瞭然だ」


「見たのぉぉぉ!?」


 どうやらこのお父さん。主にベッドの下あたりにある男の禁断領域を覗いたらしい。ああなるほど、それなら一瞬で趣味がわかるね。納得。


「成人しても就職してもそれは治らん。こいつぁヤベェと思った私は様々なイベントに連れまわし、ついに子供以外で明彦が興味を持つ女性と出会ったのだ。それがテンカ君、君なのだよ……」


 そういうことだったのか。ロリコンのくせになんでテンがいいのかは理解に苦しむが、無理やりにでもお見合いさせようとした理由はわかった。


「このような事情を押し隠し、事を進めようとしたことを侘びよう」


 深く頭を下げるダレ社長、そして頭をひっつかまれ、無理やり下げられる明彦さん。


「そして念のため聞いておこう。テンカ君。うちの息子はいらんかね」


「いりません」


「か、カカたん!」


「消えろヘンタイ」


 完膚なきまでに打ちのめされた親子。な、なんか色々ありまくったけど、これにて一件落着なのかな。


「さ、いこう母さん」


「え、ええと、でも」


「いいからいいから」


 お見合い相手がこんなでも、相手が社長というのがやはり気になるのか、いまだにわたわたするテン母さん。本当に気弱な人だ……でももう立場は逆転してる。ダレ社長はこの人に何も言えなくなるだろう。


 カカを手招きする。もうこの場所には用はない。四人で彼らに背を向ける。


「……な、なんだよなんだよ! 人のことをボロクソ言いやがって! おまえなんかこっちから願い下げだよーだ!」


 戯言が聞こえる。明彦さんがキレたらしい。


「テン、無視だぞ」


「わかってる」


 このまま去ってしまえばいい。ダレ社長が必死に止めているし。


「大体な、僕がおまえみたいな女らしくないヤツを好きになるはずないだろ! 僕がおまえを選んだのは一番面倒がなさそうだからさ! 結婚しろってお父さんがうるさいから仕方なく結婚してやろうと思ったのに!」


 あー、うるさい。


 殴りたい。でも我慢。


「教師を辞めろって言ってたのは父さんだけで、僕は全然構わなかったんだぜ? 男らしく仕事に生きればよかったんだ!」


「男らしく、か。違いねぇ」


 呆れて呟くテン。よかった、キレないんだな。


「はっ、なんだよその帽子、格好悪い。さぞかし低脳なバカ生徒が作ったもんなんだろうな! 育ちの悪さが丸見えだ。この庭の変な人形だってどうせそうだろ? こんなもんばっかり作ってるなんて頭おかしいんじぇねぇのそいつら!」


 ぴたり、と。テンが足を止めた。


「おい、どうしたテン」


「……なぁ、明彦とやら」


 僕の問いを無視して、振り返り――その男と真っ向から対峙するテン。


「な、なんだよ」


「人には立場ってもんがある。礼儀ってもんがある。大人になればなおさらだ。そんな中で暴力ってもんはよ、一番やってはいけないことだ。なぜか? 多くの人間の立場を悪くするからだ」


 ゆっくりと、歩いていく。


「オレがここで暴力を振るったとしよう。そうすると誰の立場が悪くなる? ここにいる全員だ。誰も良い想いはしないし、誰も得をしない。ややこしくなるだけだ」


 ゆっくり、ゆっくりと。


「だがな、オレの尊敬してる人の生き様で、こういうのがある」


 やがて、その足は。


「ずっとずっと、小さい頃から目標にしてきた人の生き様だ。それはな」


 その男の、目の前に。


「許せないものは許せない――オレのガキどもを馬鹿にすんな」


 そして殴った。


 全力で。




 今回のお話について、参照したら「ああアレか」てなお話。

 4話。録音話。

 5話。明彦さん登場。

 96話。明彦さんち炎上。

 

 などなど。

 いっぱい書いてしまいましたが……まだちょっと続きます。

 次回――打ち上げ飲み会。

 テンカ先生、語ります。

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