カカの天下49「腐ったいじめ?」
「……なんだよ、またお前か」
「またあんたか」
キツイ目つきでにらみ合う二人のうち片方は私、カカです。
そして相手は……なんだっけ。名前忘れた。
ええと、とにかくその角刈りの男の子は私の通う小学校のイジメ常習犯です。また今日も今日とていつも通りえーとえーと……やっぱ思い出せないけど丸刈りの男の子をいじめていたので、私が間に入ったというわけです。
「なんでいつもいつも邪魔するんだよ」
「なんでいつもいつもいじめてるの」
「だってこいつが構ってほしそうにしてるから、さぁ」
にやり、とガキながらも悪く見せようと頑張ってる引きつった笑みは、丸刈り男子を怖がらせるには充分だったようだ。
丸刈り男子は涙目になって縮こまっている。
「これはさ、遊びだぜ? じゃれてるだけなんだよ。女にはわかんないだろうけど」
「毎日泣きそうになるまで意地悪することの、どこが遊びよ」
「うっせーな! なんでそいつ庇ってんだよ。そいつのこと好きなのか?」
子供のお決まりの文句。
脈があろうが無かろうが、この言葉には大抵の子供は顔を赤くして必死に否定するだろう。
だが私は違った。
「――冗談。女に庇ってもらうような情けない男なんか誰が好きになるもんですか」
庇ってるお前が言うセリフか、とその場にいたいじめっ子といじめられっ子、そしてそれを遠目に見るギャラリーの誰もが思ったらしいけど、なんとなく言い出す人はいなかった。
「お……おまえ、それひどくないかっ?」
「いじめてるアンタにひどいとか言われたくないわよ!」
「そいつは確かに叩けば泣くしパシリには逆らわないし女の子には影で『きもーい』とか『「もきー』言われてるけどな、別に腐ったミカンなんかじゃないんだぞ!」
by、金○先生。
「なによっ、誰もそんなこと言ってないじゃない! 大体、もきーってなによ!!」
「きもーのレベルアップバージョンだ!!」
「一つ勉強になったじゃないのどうしてくれんの!」
「感謝しろ!」
「ありがとう!!」
……ん? 何か会話が変な方向に。
修正修正。
「大体ね、腐ったミカンなんて話、どっからもってきたのよ! 臭いなぁ」
「腐った牛乳のほうが臭いぞ! こないだ台所の隅にあってびっくりした!」
「あ、私の家でもこないだそんなのあった」
「でも牛乳って液体なのに腐るんだな」
「うん、フシギだよねー」
「なー」
あれ……なんか和やかになってない?
「でもさ、腐った牛乳は――」
「やっぱりでも腐ってるんだし――」
なぜか腐った牛乳談義になってしまい、白熱し始めたところで……いじめられていた上に散々こき下ろされた丸刈り男子がおずおずと声をかけてきた。
「あ、あの……」
「なによ、腐った牛乳……あ」
つい思ってたことを言っちゃった。
すると丸刈りの男の子は、
「……僕、もう学校こないね」
(^^;)ノシ←な感じで悟ったように言った。
「え、ちょ、ちょっと!!」
そのときの私と角刈り男子の顔は、
Σ(゜□゜ノ)ノ←こんな感じだ。
――かくして、一人の不登校生が誕生した。
果たしてカカは、その子を更正させることができるのかっ。
「ただいまー」
「おかえり、トメ兄」
「今日は学校でなんか特別なことあったか?」
「いや、特に」
更正……させようともしませんね。
それもそのはず。
次の日、その子はちゃんと学校に来たのだから。
どうやら何を言われても腐らない根性の持ち主だったらしい。
……お後がよろしいようで。