カカの天下487「手芸部の帽子」
こんにちは、カカです。
「うし、じゃあ今日はこれで終わりだな」
テンカ先生はこんなこと言ってますけど、終わりなんかじゃありませんよ? そう、これからが本番なのです。
「イチョウ、ごうれ――」
「ちょっとぉ待ったぁ!」
テレビ仕込みの、えっと、浪花節っていうんだっけ? つまりそんな感じで私は先生に口を挟んだ。
「あんだよカ――」
「ストップ!」
「いや、だか――」
「しゃらっぷ!!」
「お――」
「黙れ!」
「てめぇが黙れや!! ちったぁ喋らせろ!!」
む、怒られた。
「何だよカカ。何か言いたいことでもあんのか?」
「うん、今度のお見合いのことなんですけど」
「ああそれか。それなら今週の日曜――って何ナチュラルに聞いてんだてめぇ!!」
あらま、重要な情報げっつ。一応サユカンが持ってきた情報で日にちはわかってたけど、これで裏づけってやつが取れたことになるんだよね!
「おぉ、やっぱり本当だったんだ」
「ちょっと信じられなかったんだよねーわたし。半神半鬼ってやつ?」
「おまえ、いつからそんな物騒なやつになったんだ」
ざわざわと熱く騒ぎ始める皆。しかしテンカ先生はそれとは反対に、冷めた目で生徒を見据えた。
「おい、なんでてめぇらそんなこと知ってんだ」
ぎくり、と動きを止める一同。
しかしそんな中で頼れるあの子が朗らかに、
「いやですねー。テンカ先生がお見合いなんて似合わないことしたら世界的ニュースになるに決まってるじゃないですかー」
「なってたまるか!!」
冗談じゃねぇ、と叫ぶ先生。しかしこっちとしてはお見合いで先生を辞められるほうが冗談じゃねぇのである。
「先生、まずはみんなの声を聞いてください! はい、誰でもいーから発言どーぞ」
私が促すと、クラスメイトの皆はおずおずと口を開き始めた。
「テンカ先生、俺たち、お見合いはいけないと思います」
「……なんで」
「だって、いくらお酒を買う金がなくなったからって玉の輿を狙うのはどうかと」
「待ったストップしゃらっぷ黙れ。どこをどうしてそういう話になった!?」
「え、だってそうだって聞いたぞ」
「わたしもー」
「え、テンカ先生が酒飲みすぎて間違い犯したから責任とるんじゃねーの? 間違いってなんかよくわかんねーけど」
「あたしは先生の頭がおかしくなったのかと」
「それ元からじゃん」
「だからもっと」
「こえー」
私に負けない自由っぷりで語りまくるクラスメイト……恐るべし、人の噂の暴走列車。あれーちゃんと説明したはずなんだけどなー。
「ま、ともかく! そういうわけで私たちはテンカ先生に辞めてもらうわけにはいかないのです!」
「……わりぃ、どんなわけか説明してくんねーか」
先生どした。眉間なんか押さえて。頭痛いの?
「つまり、私たちはテンカ先生が好きなんです! 愛してるんです!」
「歪んだ愛だなーてめーら」
呆れながらもまんざらではないでしょテンカ先生。口がにやけそうだよん。
「だから、これをつけてください!」
「あん?」
そして、もっと喜んでくれるであろうソレを、私は取り出した。
怪訝な顔をしてそれを受け取る先生。
「これ……帽子か? なんかいろい、ろ、書い……て……」
私ら手芸部の作品、そして皆の寄せ書きがされたその帽子を見て、テンカ先生は喜びのあまり絶句した。きっと。たぶん。おそらく。
「……な、なんか『先生辞めないで』とか『先生大好き……くくく』とか『辞めるな辞めるな辞めると死ぬぜ』とかお経みたいに書いてあるのが、妙な怨念とかこもってそうなんだが……つーか、なんだこの一番でかく書いてあるの、『結婚なんかしねーよ』っておまえ直球すぎだろ」
「それは模様です」
「……いや、これ」
「文字に見えるのは気のせいです。模様です」
言い切ったもん勝ち。テンカ先生はぽりぽりと頬をかきながら、
「これを、どうしろと?」
そんなわかりきったことを聞いてきた。
決まってるじゃん。
「それをかぶってお見合いしてください」
そのときのテンカ先生の顔といったら……なんとも言えないようで、すんごくおもしろかった。
それから私たちは口をそろえて「先生を想う生徒の本心」だとか「心からの気持ち」だとか「それは生徒自身の命」だとか「それを捨てるということは私たちを海へ沈めることと同じ」とか綺麗ごとを並べ立て、お見合い当日にその帽子をかぶることを無理やり了承させた。
これで作戦の第一段階は終了だ。
手芸部の本領発揮は、まだまだこれからである。
さて、前準備も終わりついにテンカ先生編も“本編”に突入します。
わりと好き勝手やりますんで、ついてこれる方は広い心で読んでやってください笑