カカの天下485「無敵のぎゅっ」
「えっと……アルミホイルと、わりばしと」
こんにちはと、サユカですっ。
今わたしがいるのは近所のスーパーの中です。もちろんお買い物中なのですが……
「んー、カップラーメンのカップは使えるかしら。あ、やきそばのカップの方がおもしろそう。えっと、あとは……む、紙おむつ。使える……かな?」
天高く積まれたおむつを前にうんうん悩んでいると、どさ、という音が背後から。
振り向くとそこには、買い物籠を床に落としたまま呆然としている――
「サルさんっ」
「サラです!! うきー!」
間違えたわっ。
「そ、そ、それよりもどうしたんですかサユカちゃん! そんなものの前で悩んで……はっ、まさか子供ができたんですか!?」
「そんなわけないでしょっ」
「だ、だって心無しかお腹が出て」
「出てません!! なんて失礼なこと言うんですかっ! 体重は毎日計ってますけど標準以下なんですからねっ」
本当に本当なんだからねっ!
「そ、そうですかぁ……私、その買い物籠の中身を見て、てっきりアルミに包んだカップめんをわりばしで子供に食べさせるのかと」
サラさんの頭ではどんな光景が広がってるのかしら。すごく見てみたいけど……
「じゃあ何でこんな紙おむつなんかを見てたんですか?」
「え、んっと」
どう答えたものかしら。
「ま、まさかサユカちゃんがはくの!?」
「サラさんはわたしを何だと思ってるんですかっ。もういいです。ここで会ったのも何かの縁ですし、相談に乗ってもらいますっ」
と、いうわけで。会計を済ませてサラさんと喫茶店に入ってみたわ。サラさんはなんだかそわそわしてたけど、ちゃんと話を聞いてくれた。
「――それで、テンカ先生のお見合いを台無しにするためにお買い物してたんですっ」
「お、おむつとか?」
「はいっ」
別に素材はなんでもいいんだけどねっ。
「たしかに……いい歳しておむつなんかして出席すればお見合いなんか台無しですね。やん」
「テンカ先生が装着するわけでもなくてっ!!」
そんな恐ろしすぎること言わないでっ!!
「ちょっと作ってるものに必要なだけです。それよりも、サラさんはどう思いますかっ。その気も無いのに無理やりお見合いだなんて」
「い、今のご時世では中々ないですね。テンカさんみたいな女性には合わないとも思いますし……あれ、てん、か……?」
ふと、何かを思い出したかのように目を見開くサラさん。
「あの、もしかしてそのお見合いって来週ですか?」
「え、その、日にちは知らないんですけど」
「私、今は料亭で働いてるんですけど。たしか来週の予約帖に、てんか、って読みそうな漢字の人で予約が入っていました。備考欄にお見合いって書いてあった気がします!」
な、なんて都合のいい展開!!
「サラさん! 後でいいので、そのお見合いの日程を教えてくださいっ! それで、もしよければ……その日、お店に入れてもらえませんか、わたしたち三人をっ」
すでに動いているカカすけの作戦の中で一番の問題点、『その場にわたしたちが入れるかどうか』が解決するかもっ! 棚からぼた餅的な展開に、わたしは喜び勇んでサラさんに詰め寄った。
サラさんは――首を横に振った。なぜか顔が赤い。
「ち、近、じゃなくて、その、すいません! 私、入ったばかりで、そこまでの権限はないんです……お皿を数枚割っても許してくれる優しい場所ですけど、そろそろ限界っぽいし……」
そ、そっか……そうよね、サラさんだってようやく見つけたお仕事なんだし、そう簡単に手放すわけには……ううん、でもこっちも本気、非常事態なのよっ!
わたしはサラさんの手をぎゅっと握り締めて、顔を近づけ、真摯にまっすぐ見つめて言った!
「お願い、サラさん! わたしにはあなたが必要なのっ」
無理なのはわかってる。でも言わずには――
「わかりました!」
あれっ!?
「ま、まま、まま任せてくださいっ。わたしが必ずやその作戦を成功させてあげます! で、ですので、もうちょっと握ってください」
へ? 握るって、手?
「こうですか?」
ぎゅ。
「ぴゃう!」
気のせいか、今サラさんの頭上にケモノっぽい耳が見えたような。あとブンブン振り回す尻尾。
「じゃ、じゃあいいんですか? 協力してくれるんですねっ!」
ぎゅ。
「は、ははははい喜んで! どうせいつものパターンだともうすぐクビになるんです。最後くらいでっかいお花を咲かせてみせようじゃありませんか!」
「ありがとうございますっ」
ぎゅ。
「きゃわわん!」
また耳が見えた。おもしろい……
「サラさん……わたし、チョコレートパフェが食べたいな」
ぎゅ。
「どどどうぞどうぞ! 私がなぜ働いているか? それはサユカちゃんやトメさんに奢るためなのですからっ!!」
ど、どうしよう。なんだかサエすけになった気分だわ。一緒にいたからうつったのかしら。でもせっかくだし、もうちょっと……
ぎゅ――
「あ」
言い忘れたけどね、わたしたちの座った席は窓際だったのね。
それでね、窓の外にね、なんかいるのね。
噂を思えばなんとやらなのね。
最近うわさの黒いやつが、わたしとサラさんの手を取り合う姿をニコニコと見てたのね。
そしてその黒いのは、おもむろに携帯を取り出して――
「ちょ、どこにかける気よぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
わたしはMAXスピードで、まるでブラックホールに吸い込まれるがごとく黒いのに向かって行ったのでしたのね。
まぁ、そんなこんなでいろいろあったけどね。
わたしたちは、テンカ先生のお見合いへの招待状をゲットしたのだったっ!!
のねっ!
どんどん色んな人が関わってきますなテンちゃんお見合い……これがもし不本意なお見合いじゃなくてもこうなったかもしれない勢いです笑
と、最近ずっとテンカ先生編で走ってきたので次回あたりで一休みしたいと思います。
休んだらポンポンとまた進む予定です^^
のね!