カカの天下484「あなたのお悩み、解決します?」
……よぅ、テンカだ。
元気がないって? そりゃそうだ。最近の悩み事に加えて、こんなとこにいちゃな……
「お客様? 何かお探しでしょうか」
「面倒のない人生を」
「そちらは当店では扱っておりませんが」
「無駄に光る貴金属を置いてんだから輝かしい未来とかも置いとけよ」
「それは買うものではなく、自分で掴むものです」
ちっ、いいこと言いやがるぜこの店員。ムカつく。
「それでは。ご用の際は遠慮なくどうぞ」
「あー、ハイハイ」
投げやりに答えて、再び店頭の商品に目をやる。
ネックレスや指輪など、女性用の装飾品がズラリと並んでいるのだが……こういうものをあまり身に付けたことの無いオレにはどれがいいんだかサッパリだ。
「あれ、テンちゃん?」
ぎく、と振り向くとそこには姐さんが。くそ、よりによってこんな場所にいるのを見られるとは……なんだか飲酒を見られた高校生の気分だぜ。
「どうしたの、こんなところで。まるで女みたい」
「姐さんこそ。まるで人間みたいだぞ」
「でしょー」
憎まれ口で返すがケラケラと笑う姐さん。そして、
「じゃー私はなんですかねー」
どこからともなくニュっと生えてきたサカイさん。
「あーっと、その神出鬼没さは、まるで忍者みたいだが」
「む、忍者の娘であるあたしよりも忍者っぽいと!?」
「ふふふー、引きこもりの影の薄さをなめてはいけませんよー。ひっそりすること大得意ですから。会社でも居るんだか居ないんだかわかんないって評判なのです」
忍者って影の薄い人がなるもんだったのか。知らなかった。でもその忍者の血をひく姐さん家には濃い人しかいないよな。
「ねね、カツコちゃん。テンカちゃん何してたんだってー?」
「女になろうと無駄な努力を」
待てや。
「おぃ、一応オレは女だぞ」
「どの辺が」
「……む、胸とか」
それくらいしか女らしいとこねーけどさ!
「別にそれだけでいいのに。なんで無駄なことしてんのさ」
「好きな人でもできましたー?」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、見合いするなら女らしい格好しないと向こうに失礼、とか言われたから見にきただけで――おい?」
気が付けばオレの腕は二人に掴まれ、ぐいぐいと引っ張られていた。
「そんな面白そうな話をあたしらにするってことは」
「相談したいということですねー。わかります、わかってますー」
うきうきしながら喫茶店へと連れ込まれるオレ。
いや、まぁ。その通りだからいーけどな。
仕事を辞める可能性があったから教頭に説明はしたし、トメに愚痴りそうにもなったが――いざ一番最初に相談するなら、姐さんだけだと決めていた。
「私はー!?」
「あ、おう、サカイさんもだよ、もちろん!! ……あれ、心読まれた?」
「気のせいですよー」
ま、いっか。相手は忍者みたいなもんだし、などと思いながら席につき、奮発してクリームソーダなんか頼んでみた。
「さてさて。お見合いって誰とするわけ?」
「ま、まさかトメさんとー?」
「妹はやらんぞ!!」
「あのー、トメさんは男性ではー?」
「や、テンちゃんのほうが男っぽいしトメのほうが女っぽいからつい」
相談を聞くっていうわりには微塵も緊張感のないこの二人。話しやすくて助かるぜ。
「それじゃ聞いてもらうかね。実は――」
事の次第を説明する。今回お見合いをすることになった経緯、そしてそれが断れない理由等。さすがにその間は二人とも静かに聞いてくれた。
「ふむふむ、つまり……お母さんの面子を潰したくないからお見合いするわけだね」
「ああ。うちの母親ってのが気弱な人でな、お偉いさんからの話を断るなんてできない人なんだよ。それをオレが突っぱねたら母さんの立場が悪くなる。だからとりあえずお見合いをして、断られればいいと思ってたんだが……」
「向こうはノリ気、とー?」
「……あぁ。母さんの会社のイベントに付き合って行ったら、会う機会があってな。なんだか知らんが気に入られたらしい」
「男色趣味でもあるんでしょうかー」
「サカイちゃん、それは言いすぎ。せめて口汚く罵られるの大好きな変質者ってことにしとこ」
あー、自分がどう思われてっかは承知してるが、改めて言われるとオレって男らしいんだなぁと再確認しちまうぜ。
「えっと、それで。向こうはそのノリに任せて先生辞めろとか言ってるんだったよね」
「横暴ですねー。もう亭主気分ですか」
「金持ちの息子だからな。なんでも思い通りになるとでも思ってんじゃねぇか?」
偏見だけどな。
「なんでも思い通りに。あたしとおんなじか」
「カツコちゃんは思い通りに“自分がする”人でしょー」
「それもそっか」
そう、そんな姐さんに聞いてみたいと思ってたんだ。
「で、もし姐さんが同じ立場ならどうする?」
オレが憧れる、姐さんなら?
「オレは仕事を辞めたくないし、結婚なんてもっての他だ。でも母さんに迷惑はかけたくない……どうする?」
期待をこめたオレの問い。
「あたしだったら」
姐さんは、あっさりと答えた。
「サカイちゃんに相談するね」
ズッこけそうになった。
「……あー、その、オレは姐さんの意見が聞きたいんだが」
「だから、あたしじゃいいアイデア思いつかないからサカイちゃんに相談するんだってば。これも立派な意見だよ」
それも、そっか。オレも姐さんに相談してるわけだし。
「んじゃ、ちょうどよくここにいるサカイさん」
「どうしたらいいと思うよ」
頼りにされたのが嬉しいのか、サカイさんはニコニコと笑いながら、
「こういうときはー、お約束の解決方法がありますよー。テンカちゃんのクリームソーダと引き換えにお教えしましょー」
その作戦を、提示した。
こういう事態なら誰もが思いつきそうな作戦を。正直オレも思いつかなかったわけじゃない。が、しかしやはり躊躇いが。
「ほら、電話。早速かけて」
「んぐ……マジか……」
「クリームソーダおいしー」
うぅ……あ、繋がった。
『――もしもし? どうしたテン』
「あー、トメか。ちょっと助けてほしいんだが」
『ん、いいぞ。何すればいい?』
何も聞かずに頷いてくれる色男。
助かる……助かる、んだが、よ。
マジかー。
マジでそんなことすんのかー……
サカイさんの作戦。それはおそらく皆様も真っ先に思いつくであろうアレな作戦です。そう、お見合い、それをぶち壊しとくれば……
その辺はお約束ですが。
カカたちも動いてしまってるのが問題点。
さーどうしてくれようか笑