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カカの天下  作者: ルシカ
482/917

カカの天下482「がんばれお父さん」

 どうも、トメたちの父です。ふむ、名前とな? あいにくと忍びたる者、安易に本名は明かせぬ決まりでな。今後も父、という符号だけで俺を認識されるがよかろう。

  

 そう。俺は父なのだ。


 そして今日は父の日。


 なのに……


 な、に、も、無い!!


 我が愛すべき子供たちは、俺のことを話題にすることなどナッスィング! 俺に隠れて影で用意したプレゼント……そんなものを期待したがあいにくと俺は忍者! 隠す暴くが専門よ。どんなに巧妙に隠していようと無駄なことなのだ!


 なのだ……から、問答無用に何も無いのは、昨夜あたりの時点で明白なわけで。


 あれ、涙が。


 うぅぅぅ、身に余るこの能力が恨めしい。先週あたりからわくわくしながら見張ってたのに! こうなったら最終手段だ。無理やり父の日へと注意を向けてやる!


 しかしバレては情けないことこの上ない。バレないようにやらねば。そんなわけでまずは昨夜のうちからカツコに催眠学習っぽいことしてみた。ヤツが寝静まった後、枕元でひたすら囁いたのだ。


「父の日にうまい棒、父の日にうまい棒、父の日にうまい棒……」


 なぜにうまい棒か? うまいからだ。あと、ぶっちゃけ何かもらえるなら何であろうとそれで父は満足なのである。


 そして翌日、つまり今日。


 カツコの催眠は成功したのか!?


「父……」


 お?


「……が、うまい?」


 失敗した。

 

 って、え、もしや食われる!?


「まずいに決まってんじゃん」


 食われることは回避、でもなんかけなされた。うまそうと言われても困るが、まずそうと言われても悲しいオトコゴコロ。


「あ、うまい棒!」


 そうそう!


「あとで食べよう」


 おまえが食べるんかい!!


 くそ……ええい、バケモノなんぞに期待したのが間違いだった。


 ここは我が子の中で一番の常識人であり憎き敵でもあるトメに期待するか。そう、敵ではあるが、俺を敬う心が少しでもあるなら許してやろうではないか。シュバッ!


 ヤツはちょうど買い物をしているところだった。ふむ、気づかれぬように近づいて様子を見るか。


「あ、今日って父の日か」


 スーパーに飾られた『いつも哀れなお父さん敬いましょう!』と書いてある看板を見てそれに気づくトメ。グッジョブ看板、しかしなぜ哀れと断定するのか根拠を述べよ。


「よし、じゃ父さんの好きなものを」


 おお!? トメよ、やっぱり――


「食べよう」


 やっぱりおまえが食べるんかい!!


 ぐぐ、トメは「あと今日の夕食は〜」とヘタクソな歌を口ずさみながら買い物を続けていく……夕食に俺の好きなもの作られても俺は出席できんのだぞ、カカがいるから! 恥ずかしいから!!


 ええい、色ボケ男などどうでもいい! シュバッ!


 やはり本命はカカだ! いろいろどっか故障してても多分優しき我が娘よ! 居間でテレビを見ているところ悪いが――


「てや」


 新聞とにらめっこした後、タイミングを計って天井裏から石つぶて。それは見事にリモコンへ命中し、チャンネルを変える。


「あれ」


 何も触ってないのに画面が変わったのに首を傾げながらも、父の日特集番組に見入るカカ。成功か!?


「父の日かー」


 そうだ、思い出せ。


 そして祝ってくれ!


 寂しいから。


「いいなぁ、みんな普通のお父さんで」


 墓穴を掘ったぁぁぁぁぁっ!!




「母さぁぁぁぁん!!」


 夢も希望もなくした哀れな俺が行き着く先。それは我が妻の下だけだった。


「あらあら、どうしたのパパ君」


 夫婦の間に壁はなし! てわけで恥も外聞もなくその胸に飛び込んだ。


「うううう、父の日なのに、父の日なのに、俺は誰にも何も言ってもらえないし何ももらえないんだぁぁぁ」


「あらあら、よしよし」


「父の日ってなんだ? 全国のお父さんバンザイ全開レッツゴーな日じゃないのか? 違うのか。だったらなんだ! 乳の日か、乳の日なのか!?」


「ふふ、甘えるのはいいけどムードも無しに変なとこ触りすぎたら怒るよ?」


 ぐ、さすが我が妻。お見通しか! でもまぁソレに顔うずめてるからいいけど。


「ところでパパ君? 父の日に何ももらえてないって言ってたよね」


「そうだぁぁ! おーいおいおい」


 言っとくが泣き声である。誰か呼んでるわけじゃない。だから誰もくるなよ。今いいとこなんだから。


「でもね、パパ君。わたしはプレゼントもらったよ?」


「なんでだぁ!? やっぱ乳の日だからか! 乳がある人が得するのかぁぁぁ!?」


「まーま、落ち着きなさいな。見て、これ」


 名残惜しくもソレから離れ、ユイナが差し出した紙きれを見る。


「これは……チケット?」


「私と二人で遊んでこいってことだよ。カッ君とトメ君がお金を出して、カカ君が選んだんだって。自分で言うのもなんだけど――パパ君にとっては最高のプレゼントじゃない?」


 言うまでもない。


 俺にとって何よりも大切なのは目の前にいる人なのだから。その人と一緒に遊べるというのなら、これ以上の幸せはないのである。


「お……おおお……」


「どうせ見張ってるだろうから、裏をかいて驚かせるにはこれしかないと思ったんだって。先々週あたりに一緒に送られてきた手紙に書いてあったよ。この幸せものぉ」


「う……うぉぉぉぉぉ! 俺はモーレツに感動している!!」


 その感情に身を任せ、俺はもう一度ユイナの胸へと飛び込んだ!


「触りすぎ」


 怒られた。


 でもいいもん、嬉しいから!


「父でよかった!」


「乳がよかった? うふふ、まだそんな下品なこと言いますか」


「え、や、ちが――」


 殴られた。




 はい、がんばれお父さんでした。

 がんばれタケダと似たような話ですが大きな違いが。

 父は報われましたがタケダは報われません。

 哀れタケダ。だがそれがいい。


 タケダの日とかあればいいんだろうけど、そんな変なもの無いしねぇ。

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