カカの天下476「とあるレジの付属品」
こんばんは、トメです。
ただいまカカと二人で夕飯のお買い物中です。スーパーを歩く中、カカは何をするでもなく僕につきまとっています。
「あ、砂糖買わないと」
「さとうさん!!」
誰だよ。
「スズキが安いな」
「すずきさん!」
はいはい……ん?
「お」
「おっさん!」
こいつうざい。
「おまえ」
「おまえさん!」
さんさんうるさいな。
「……1+1は?」
「に!」
ちっ、ならば。
「1584+582は?」
「けいさん!」
うまい――じゃなくて。
「カカ、いいからちょっと黙れ」
「む?」
「アレ見てみ」
僕の指差す先にはレジがあり、そこでは店員さんがお客さん相手にせっせと会計を片付けている。そしてそのレジの横に立っているのは――
「おっさん!!」
「それはもういいから……たしかにそうなんだが」
そう、おっさんだった。正確にはおじいちゃんと言ったほうがいいだろうか。頭は薄くて身体は細く、そして顔も細長いおじいちゃんが、ぬぼーっとレジの横に立っていた。着ている服が上も下も野暮ったい白色なので、まるでレジの機械の付属品みたいに見える。
「あのおっさんがどうかしたの?」
「や、なんつーか、なんなんだろうなって」
「どゆこと?」
首をかしげながらもカカはそのおじいちゃんを観察して……すぐに気づいた。そのおじいちゃんが微動だにしないことに。そしてそのすぐそばでレジをしている人は、まったく気にせず働いていることに。
「たまに店員さんの顔に息がかかりそうなくらい近くにいるってのに……お互い気にも留めてない。一体何をしてるんだろう」
「何もしてないんじゃない?」
「息とか生命活動的な意味でか?」
「だってあのおっさん――おじいちゃんかな。どこも見てないよ?」
そう、なんだか遠い目をしている。僕らには見えない世界でも見ているのだろうか。
「じゃあさ、あれってやっぱ幽霊か?」
「なむさん!!」
「お、またうまいことを――あれ?」
気がついたらカカは消えていた。幽霊と聞いて逃げたか。
「うーん、どうしよう。とりあえず幽霊かどうか確かめるか。南無三」
僕は適当なところに買い物かごを置いて、一旦レジの向こう側へ出た。そしてさも通行人を装って、そのレジの近くを通り……
「おっと、すいません」
偶然っぽく肩をぶつけてみた。
「…………」
そしてレジ列をぐるりと一周し、再び買い物かごの元へ戻ってきた。
――なんだアレ。ぶつかったから実体はあったけど全く反応ないんですけど! しかも硬っ! 重っ! ビクともしねー! ぶつかった僕のほうが弾き飛ばされたし!! マジであれレジの付属品なのか!?
……や、落ち着け。実体があるということは、あの人は単なる変な人。警察を呼んだほうがいいのではあるまいか。
でも一応、店員さんに確認を。
「あ、そこのお兄さん。ちょっといい?」
「はーい、なんでしょうかお客様」
「あのおじいちゃんなんですけど……何なんですかね、アレ。みんな見て見ぬフリしてますけど」
「うちの店長です」
「制服ぐらい着ろよ!!」
「いやぁ、なんか着るの面倒だそうで」
「店長なのにそれでいいのか!?」
「いやですねぇ、お客様、店長のやることに意見できるはずないじゃないですか」
……ある意味もっともなことを。
「で、あれは何してるの?」
「店の様子を見守ってます」
あぁ、店の全体を見てたのか。てっきり三途の川でも見てるのかと思った。
「まったく、紛らわしいな。危うく通報するとこだったよ」
「七回ほどされました」
「なんか改善しろよ!!」
「大丈夫です、そろそろ寿命ですから」
「可哀想なこと言うなよ!」
「えー。でも、もう少しくらい夢を見させてあげようって皆が思えるからこそ、まだ店長でいられるんですよ?」
「もっともな口調で身も蓋もないことを……」
「早く死なねーかな」
「待てやコラァ!!」
「そのときは僕が店長さ! 僕の歳でその肩書きさえあれば、またモテモテに!」
「聞いてねーよそれに黒いなアンタ!」
こんな感じでさんざんツッコミしまくっていたのだが、レジの方から「おーい、タクヤくーん」と呼ぶ声がして、その店員さんは行ってしまった。
黒い。しかしエグい黒さ、というか嫌な黒さだ。サエちゃんにはああなってほしくない。こう、黒い中にも白さが目立つような……
「コーヒーにミルク入れた感じ?」
「おお、そんな感じかな。黒くても苦いだけじゃなくて甘さがあるような――ってカカ。いつの間に」
「今の間に。ところで今トメ兄が話してた人……なんか見覚えがあるような」
「ん、そう言われてみれば僕、あの店長おじいちゃんに見覚えがあるような」
「あ、私も」
「誰だっけ」
「さぁ?」
君はわかる?
懐かしい顔、登場です。
皆さん、彼らを覚えているでしょうか? 忘れていても別に支障はございませんが、おじいちゃんと聞いて真っ先にわかった人がいたらさすがです。拍手します。
というわけで、今回は『あの人はいま――』をお送りしました!