カカの天下474「友達ソング」
こんばんは。今日のおいしい夕飯も終わり、お風呂も入ってほくほく状態なカカです。自分の部屋のベッドにゴロゴロと寝転がりながらメールしています。
メール相手はカレーの人、もといインドちゃん。相変わらず『友達ができないの……』と相談を受けている私。クラスメイトの印象自体は悪くないんだけど、インドちゃん会話できないからなー。はっきりと喋るのはカレーのこととメールだけって感じ。
つまりメール以外で友達を作るにはまずカレーの話題から入らないとダメなんだけど……あいにくカレーに詳しい小学生なんてほとんどいないのである。
そんなわけで、給食にカレーを配ることで人との交流は順調に増えている一方、大勢の人を前に気圧されてなおさら喋れないという悪循環に陥っているのだ。あれだけの人に囲まれていればそのうち喋れるようになるだろうと思っていたのが甘かった。
だから仕方なく、それとなくメールで『そのクラスで一番賑やかな人たちに突撃してみれば?』なんてことを言ってみたんだけど。
返信は、『いやぁ、あの三人はちょっと勢いとアクが強すぎてついていけないというか、近寄りがたいというか……』って感じで気が進まないようだった。言うまでもなく私たちのことである。バレるの覚悟で言ってみたんだけどダメだった。そんなに怖いかなぁ、私たち。毎日全力で遊んでるだけなのに。
まぁ、ともかく。私たちと友達になるにはまだ勇気が足りないみたいだ。ここはもっとおとなしめな友達から始めて、だんだんと喋れるようになってくれればいずれ友達になれるだろう。ただ、その最初の友達が問題なんだけど……
むー、ごろごろごろ……おとと、ベッドから落ちる。
「カレーとメール以外でインドちゃんと会話するには……うーん……ダメだ、わかんない。インドちゃんがまともに口を開いたのってカレー抗議と鼻唄くらいしか――」
あ。
その手があった!
翌日、学校にて。
「頼みって何よ、カカ」
「えっと、なんでしょうかカカさん。わたくしにできることでしょうか」
私は休み時間にアヤちゃんとイチョウさんを呼び出した。
や、こう言ったほうがいいか。
合唱部の二人、と。
「直球で聞くけど、二人とも。インドちゃんのことどう思う?」
前振りなしの質問に二人はきょとんとするが、ちゃんと答えてくれた。
「どうって、可愛いとは思うわよ。おいしいカレーくれるから結構好きだし。喋らないけど」
「はい、わたくしも好きですよ、インドさん。でも……お恥ずかしながら、わたくしもあまり言葉を交わしたことはありません」
「ふむふむ。二人とも印象は悪くない、と。それで、なんで喋んないの?」
「だって話しかけても顔真っ赤にしてだんまりなんだもの」
「アヤちゃん、告白でもしたの?」
「するか!!」
「じゃやっぱ脅迫か」
「じゃって何よ! やっぱって何よ!」
「冗談よん。インドちゃんが恥ずかしがってただけだよね。イチョウさんは?」
「わ、わたくし、交流のない人に自分から進んで話しかける、ということが得意ではないもので……」
「なんで」
「あの……初めて話すときに失礼はないかとか、馴れ馴れしくないかとか、知らない心の傷に触れて怒らせたらどうしましょうとか、そのまま殴られたらどうしましょうとか、警察に捕まったらどうしましょうとか、そんなことばかり考えてしまうのです」
そんなことばっか考えてる方がどうしましょうだよ。心に深い傷持ってるのはあんたじゃないの?
「えっと、つまりは恥ずかしいわけだね」
「は、はい……」
「カカ、そろそろ言いなさいよ。なんでいきなりそんなこと聞くの?」
「うん、実は二人にインドちゃんと友達になってもらいたくて」
再びきょとんとする二人。そして、
「まずあんたがなりなさいよ」「まずカカさんがなってさしあげればいかがでしょう?」
息ぴったりに同じようなことを言った。
「……や、なんかさ。私は元気すぎるみたいで、インドちゃんは少し、その、ひいてるみたいで」
「「あー」」
「二人して頷かないでくれる!?」
ちょっとショックだし!
「ま、いいわよ。友達が増えるに越したことはないし。それにしてもなんでカカがそんなことを? あ、わかった。番長としてクラスをより良い方向へ! って感じでしょ」
「……あー、うん。それでいいよ」
番長とかまだあったのか。
「わたくしも構いません、といいますか、大歓迎です! ですが……どうやってお友達になればいいのでしょうか」
「そうよね、そもそも会話できないんだし」
「それなんだけどね、とっておきの作戦があるの――」
そして私はその作戦を伝えた。話し終わると、二人は半信半疑ながらも頷いてくれたのだった。
そして昼休み。作戦の決行である。
いそいそと配り終わったカレーの容器を片付けるインドちゃんに、合唱部の二人が迫る!
それに気づいたインドちゃんは困惑しながら二人を見る。
「ねね、インドちゃん。ちょっといいかな?」
「わたくしたちとお話しませんか?」
「え……その……」
話しかけただけで真っ赤っか。これは重症だ。その後も何度か二人が話しかけるが、インドちゃんの反応は「う、うん……」とか「んと……」とか「その……うぅ」というものばかり。まともに答えることができてない。
やっぱりここは私の考えた作戦しかないようだ。いけ、二人とも!
アヤちゃんとイチョウさんは目を合わせ、頷き――さん、はい、とリズムを取って、おもむろに歌いだした。
「こんに〜ちは♪ わた〜しは、歌好きのアヤ〜♪ ハイッ」
アヤちゃんがイチョウさんにタッチ。
「こんに〜ちは♪ わたく〜しは、本好きのイチョ〜♪ ハイッ」
そしてイチョウさんがインドちゃんにタッチ! インドちゃんは突然の事態に慌てて――だけどリズムに遅れないようにと慌てて歌いだす。
「こ、こんに〜ちは♪ わた〜しは、インド好きのカレ〜♪ ハイッ」
「逆、逆!」
「あ、えと、カレ〜好きのインド〜♪ ハイッ」
よし、成功! ふ、私の目は確かだった。インドちゃんは合唱部ではないけど歌が好きなんだ! なぜなら掃除中とか機嫌のいいときはいつも歌ってるし、なにより私が初めて教室でインドちゃんに気づいた時も彼女は歌っていた! だから歌に合わせてなら喋れると踏んだこの計画、見事にビンゴだ、いぇい!
さぁ戻ってアヤちゃんの番だ!
「Yo! Yo! いっつもカレーをありがとYo! ハイ!」
なんでいきなりチェケラッチョになってんのYo!
「Yo! Yo! わたくしもいっつもありがとYo! ハイ!」
DJのマネしてノリノリなアヤちゃん、それを恥ずかしそうに、しかし楽しそうにマネするイチョウさん。
そして必死にマネしようとしてブンブンわちゃわちゃと手を振り回してるインドちゃん。
「よ、Yo! Yo! 私もYo! カレーがみんなを食べて、くれて、う、れ、し、い、Yo!」
「「ノリはいいけど逆だ、Yo!!」」
うーん、あそこだけかなり妙な空間になってて周りのクラスメイトがポカーンとしてるけど、この調子なら心配なさそうだ。きっとこのまま友達になってくれるだろう。
「オ・レィ!」
「カフェオ・レィ!」
「か、カレーオ・レィ!」
「「何そ・れぃ!?」」
そんな妙ちくりんなコンサートをしばらく続けた後、昼休みの終わりに……インドちゃんはおずおずと二人に、「あ、あのー? えとー? と、ともだーちに、なってー?」なんて、日本語を覚えたての外国人みたいなイントネーションで言うのだった。本人は歌のつもりなんだろうね。二人の返事は言うまでもない。
よかったね、インドちゃん。よかったね、『カレーの人』さん。
そして、その夜きたメール。
サブタイトル。
『カ・レィ!!!!』
テンションたかそー。
インドちゃんにお友達ができました。ずいぶんとノリノリですが、アヤちゃん以外はわりと必死だったりします笑
これからはこの三人グループで仲良くやってほしいなぁなんて思ってます。
さて、とうとう明日で人気投票の一次〆切りです。時間で言うと受付は16時くらいまでです。それ以降は後半の投票とさせていただきますのであしからず^^
ではでは、投票お待ちしております!