カカの天下471「あいつが言えって言ったってあいつが言えって言った」
「ただいまー」
トメです。今日も今日とて仕事を終え、我が家へと帰ってきました。
カカは帰ってないみたいですが、一応居間を覗きます。
そしたら。
「むぐ?」
いきなり口を塞がれて腕を捻られて転ばされて縛られて吊るし上げられました。
フザケルナ。
「……むぐぐ」
こんな強盗まがいのことをされても僕が慌てることはない。なぜならあまりにも手際が良すぎるからだ。一瞬でこんなことができる人間を、僕は一人しか知らない。
ご丁寧にも僕の身体をロープでぐるぐる巻きにしたところで、ようやくソイツは僕の口を塞いでいた布をはずしてくれた。
「ぷは。何すんじゃいクソ親父」
「おや、人違いじゃないかな? 俺様は通りすがりの強盗忍者だよ」
「そんなツチノコ並に珍しいモンがほいほい通りすがってたまるか」
「むぅ、ノリの悪いやつだな」
「簀巻きにされた状態でどうやってノれと」
「仕方ない、俺が乗るか」
「僕の上に乗るな座るな! 重い、硬い、臭い!」
「失敬な! ええい、相手がカカならば喜んで座られるくせに。軽い、柔らかい、いい匂い?」
「たわけたことをぬかすな!!」
まったく……久々に出てきたかと思えば一体何を考えているのやら。
「さてトメよ。今日は俺に付き合ってもらうぞ」
「はぁ、何をしろと」
「大したことじゃない。俺の暇つぶしに付き合ってくれるだけでいい」
「……おい、なんで僕の身体は上昇してるんだ?」
上へまいりまーす、とばかりに天井へと向かう簀巻きな僕。そういや吊るされてるんだった。何処をどうやって天井に縄を通しているのかが気になるが、あいにく顔は重力によって床の方向に固定されたまま。首を捻ったり身体を捻っても天井を見ることはできない。というかロープが厚すぎてうまく動けん。明らかに巻きすぎである。
「おお、居間が一望できる」
背中が天井に付き、まるで電灯にでもなった気分だ。さて、これから僕はどうなるのやら?
「それで? 暇つぶしってなんなんだ」
「落ち着いてるな、おまえ」
「妙な事態は昔から姉で慣れてるから。それで?」
「慌てるな。じきに来る」
その言葉に応えるかのように玄関から「ただいまー」という声が。カカが帰ってきたのか。聞こえる話し声からしてサエちゃんもサユカちゃんもいる様子。
「なあ、この格好で出迎えろと?」
「いいや。おまえはまだ帰ってきていない」
は? と疑問符を浮かべる間もなく、僕の身体のどこかがチクリと痛み、僕の声は封印された。
「…………!」
「む、何をしたか? 案ずるな、喉の麻酔を打ち込んだだけだ。我が家秘伝のものでな、声は出なくなるが身体に支障はない。たぶんな」
我が家秘伝って僕は初めて聞きましたけど!? ああ父上あなたの家ですかそうですか。ところで先ほどからあなたはどこにいるのですか? なんか頭上から声が聞こえる気がするから天井裏にでもいるのですかね。はっ、それはそれは忍者らしいことで。そのまま一生そこにいろ。
「……ものすごいプレッシャーを感じるが、まぁいい。えーと、ぽちぽちっとな」
――と、なにやら振動音が。これは、携帯のバイブ音?
「あれ、私か」
下を見ると、いつの間にかくつろぎモードの三人が。そしてカカが携帯を取り出して、
「トメ兄からだ」
そんな、ありえないことを呟いた。
……おい。まさか。
「そう、俺だ」
頭上にいるバカタレが僕の携帯でかけやがったのか!?
「もしもしトメ兄? あ、うん。みんな一緒だよ。なんか用?」
しかもカカのやつ、相手が父さんだって気づいてないし! さらにさっきから聞こえていた父さんの声は、電話してるときに限って僕に聞こえてこないし! どういう仕組みなんだこれは!? 忍者ってすごいな!!
「サエちゃんのバーカ」
「えー! カカちゃん、いきなり何言うのー!?」
「トメ兄が言えって言った」
言ってねえ!!
「ふふふ……トメお兄さんったら。穴を開けてほしいみたいですね」
どこに!?
「サユカン、ごにょごにょごにょ」
「……ぽっ」
「トメ兄が言えって言った」
「やんっ」
何か聞こえねえけど多分言ってねえ!!
「サエちゃんサエちゃん」
「なに――あん!?」
「つんつん」
「ひゃっ! わぁん!?」
「脇腹ぷっしゅ。トメ兄がやれって言った」
「……ふふふー」
言ってない! 言ってないからあやしく笑うのやめて!? くそーあの野郎、一番敵に回したくない子に何してくれんだ!?
「サユカン、こちょこちょこちょ」
「ひ、は、ははははっはははっ!!」
「トメ兄がやれって言った。ここも触れって」
「あん!! あ、あははははっ!」
あんのやろおおおおおお! いくらなんでもやりすぎだろう!?
「……いや、俺、あそこまでやれとは言ってないんだが」
え、つまりあれはカカが――あんのクソガキャ!? 僕のせいにして事態をさらにややこしくしやがったな!!
「いくらなんでも悪ふざけが過ぎますねートメお兄さん……ふふふ」
ま、まずい。こうしている間にもどんどん僕の立場が危うく!
――こうなったら。
僕は自由に動かせないながらも、出来る限りの力を持って身体を揺らした。腹筋背筋すべてを使い、水揚げされた魚のように暴れる!
「お、おい止めろ。そんなに暴れたら――ええい」
家族は普通じゃないが、この家は普通なのだ。どんな方法で天井に貼り付けているかは知らないが、大人の男がここまで暴れれば天井の薄板がもたないだろう。というわけで、バカ忍者は家が壊れる前に、僕を吊るしている縄を切り落とすハメになった。
天井から自由落下。身動きできない状態で。
あ、死ぬかも?
そう思ったが、僕は無傷で着地することができた。テーブルの上にボトっと腹から落ちたのだけど、何重にも巻かれたロープがクッションになってくれたのだ。
さて、いきなり上から降ってきた僕に唖然とする三人をどうしたものか。
「と、トメ兄? なんで」
「て、テーブルの上にトメさんが……つまり食べていいてことっ!?」
食うな、頼むから。
「あれー、今電話してたはずじゃー」
「そうそう、それは――」
お、衝撃のせいか時間が経ったせいか、声が出るようになってる! ちょっと変な声だけど助かった。これはうちのクソオヤジのせいだと暴露を……
暴露を……ふむ。
「僕、電話なんかしてないよ。今のは全部カカの一人芝居だよ」
きゅぴーん、とサエちゃんサユカちゃんの凶眼がカカを貫き、本人は大慌て。
「え、や、だって、本当にトメ兄から電話が」
「僕、こんな状態だよ? 電話なんかできないよ」
「それはもっともですねー……カカちゃーん?」
「カーカーすーけー?」
「や、その、ごめ、ちょっとやりすぎちゃ――あ、やん、あ、あは、あはっはははははやめやみゃははははそこダメ弱いのあははははは」
ふっ、調子に乗った罰だ。くすぐり地獄を存分に味わうがいい!
「驚いたぞ、トメよ。まさか俺を庇ってくれるとは」
「水臭いこと言うなよ、家族だろ。あんたがカカといまだに顔をあわせづらくて微妙な関係なのは知ってるしな」
「おお……それを悪化させるマネはしたくないということか!? なんたる人格者、父は……父は嬉しいぞおおおお」
なにやら感激して去っていく声。どこから声が聞こえていたかは、あえて考えないようにしよう。
それにしても……甘いな父さん。
――そして。サエちゃんとサユカちゃんが帰ったあと。
「……はぁ……はぁ……」
「やっほー。カカちゃーん? 生きてますかー?」
「とめにぃ……どゆこと……」
「父さんがああ言えって言った」
「じゃ……あの電話は……?」
「父さん」
「あいつ殺す!!」
天高く拳を振り上げ、復讐を誓う妹。応援するぞ。
「……トメよ、どういうことだ」
そして再びどこからともなく聞こえる声。
「言っただろ? あんたがカカを顔をあわせづらくて微妙なのは知ってるって」
それを悪化させるマネをしたかっただけのこと。
「う……う……うわあああああんトメの親不幸ものおおおおお!」
自業自得じゃボケ。
僕をなめるな。
こんな長いタイトルも珍しい笑
しかしまぁ、タイトル通りのお話かと^^;
人のせいにするのはおもしろいですが、ほどほどにしましょーね^^




