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カカの天下  作者: ルシカ
470/917

カカの天下470「その瞳にうつるもの」

 こんにちは、サカイです。


 今日は引きこもりを改善するために少しでも外に出ようと思い、ちょっとトメさんの家まで足を延ばしてみたのですが……


 忘れもしない匂いを感知し、すぐさま隠れました。


 そして庭の方へ周り、窓から居間をのぞいてみると――やはりいました。


 私の愛しき娘、サエ。そしてもう一人の小さい子は……多分クララちゃん。サユカちゃん情報で聞いていた通りの感じだから、多分合ってると思います。


 二人の他に姿は見当たりません。トメさんとカカちゃんは買い物にでも行っているのでしょうか――いいえ、そんなことよりも。


 もっと、大事なことがあります。


 それは――


「クララはこの格好でいいのですか?」


「うんうん、可愛いよーお姫様ドレス。私はこの割烹着でクララちゃんにお仕えするね。お姫様にはメイドだろうけど前にやったしねー。和洋せっちゅーっていうやつで、帰ってきたトメさんたちを驚かせてしまおー」


 か……


 か……っ!


 か! わ! い! い!!


 なんですかなんですかあの小さくて笑顔の眩しすぎる家政婦さんは! 可愛いです可愛すぎます隣のお姫様なんか目に入りません! い、いいえ。言い過ぎました。お姫様もそこそこ可愛いです、ええ、サエの良い引き立て役です。ああそれにしても我が娘ながらなんたる美しさ、むしろお姫様は影武者でこちらが本物の姫でしょう! もしくは仕えるフリした影の主役でしょう! あぁそう考えるとあの笑顔には裏がありまくりそうな気がしてきました、やはり私の血を継いでるのですねステキですステキすぎます家政婦は見た! いいえ家政婦は見て! 私を見て! その格好で私を見てえええええ!!


「――はっ!?」


 い、いけません。あまりの可愛さに我を忘れてしまいました。家の窓を覗きながら鼻血を出しまくりだなんて変質者そのものではないですか。これが見つかったら通報されてしまいます。


 とりあえず、鼻血を拭いて……


「ひっ」


 ぴたり、と私の身体が一時停止。コレ、ワタシノ声ジャナイヨ?


 スロー再生で背後を見ると、そこには。


「あ……あ」


 驚愕に目を見開いているお姫様――いいえ、クララちゃんが!? 


 なんで!? たった今まで居間にいたのに! 瞬間移動? いいえそれよりも!


「ち……血……!」


 この場面を見られたことが大ピンチ! こ、このままでは――


「さ、殺人事件です!!」


 そう、殺人事件の犯人として捕まってしま――ってええええそこまで重罪じゃないですよぉ!?


「け、けーさつ……!!」


「待ってください! これにはワケがー!!」


「は、犯人が動き出しました!!」


「犯人じゃありません! どちらかというと被害者の部類ですよ! ほら、血を流してますしー」


「死体が動き出しました!!」


「まだ死んでません!!」


「とにかくけーさつです!」


「待ってってばー!」


「じゃあ探偵です! 犯人はあなただ!」


「わかってるなら呼ぶ必要ないでしょー!」


「なら機動隊です!」


「なぜ!?」


「パニックです!!」


「そうですね!」


「ナマケモノです!!」


「大きなお世話です!!」


 はっ! 痛いところを突かれて思わず怒鳴ってしまいました。落ち着かないと家の中のサエに気づかれてしまいます!


「……ふぅ。えっと、落ち着いてください。クララちゃん、ですよね?」


「はい!」


 元気なお返事……あらら? 私が落ち着いたらこの子もすぐに落ち着いちゃいました。


「あのー、私のお話を聞いてくださいますか?」


「はい、クララ聞きます」


「えー、まずはですね、私はあやしい者ではなくてですね」


「サエおねーちゃんのお母さんですね」


「そうそう」


 説明する手間が省けて助かりました。これで私が通報される心配も――あれ?


「えーっと、クララ、ちゃん?」


「はい」


「なんで私がサエのお母さんだって知ってるんですか?」


「見ればわかります」


「ええええ!?」


 そ、そんな! 見たらすぐにわかるほど私とサエはそっくりなんでしょうか!? やべぇ嬉しい! じゃなくて!! あぁもう今日は我を忘れすぎです……


「クララ、見れば他にもいろいろとわかります!」


「た、たとえば何が?」


「あなたは怠け者です」


 ぐさっ!


「面倒くさがりやでサボり魔です」


 ぐさっ! ぐさっ!


「不健康な生活、不健全な趣味、引きこもり、つまるところダメにんげ――」


「やめてえええ! それ以上言わないでえええ!」


「でも見ればわかってしまいます」


「じゃあ見ないでええええ!」


「でもさっき『私を見て!!』って叫んでました」


「聞かれてたああああああああ!!」


 ううー、なんなんですかこの子ぉ、エスパーですか? 人外ですか? そんなのカツコちゃんだけだと思ってましたよぅ。


「どうしました? サエおねーちゃんを呼びましょうか」


 サエの名前を聞いて目が覚めました。そうです、まず一番最初にしなければならないことを忘れていました。


「口封じですか?」


「そうそう、誰にも喋らないようにこの場で抹殺――じゃなくて! なぜあなたは私の考えてることがわかるのですか!?」


「口に出してましたよ」


「サカイしょっくです!」


「それクララのセリフです!!」


 そ、そうなのですか。なんとなく浮かんできたセリフなのですが。


「と、とにかくですね、クララちゃん。私のことは黙っていてほしいのです。実は――」


「わかりました。クララだんまりします」


 クララちゃんは説明するまでもなく頷いてくれました。あまりにもあっさりすぎて逆に疑ってしまうくらいに。


「あ、あの……本当に黙っててくれますか?」


「はい。おかーさんにも色々あるんですよね」


「は、はい。会いたいのは山々ですけど、まだ当主のくそじじいの機嫌が直らなくて……」


「あなたがサエおねーちゃんを大事に想っているのも、見ればわかります。頑張っていることも」


「……あ」


「それに水を差すようなことはしないのです。クララいい子ですから」


「あ、はい……ありがとう、ございます」


「あなたはきっと、もうすぐ報われます。見ればわかります」


 そう言ってクララちゃんはにっこりと笑って。まるでお姫様のように一礼して、家の中へと戻っていきました。


「……子供なのか、大人なのか、よくわからない子でしたねー」


 おっと、ボーっとしてる場合じゃありません。


 いつの間にか鼻血も止まってるし、サエにバレないうちに一刻も早くこの場所を離れなければいけません。


 そして。


 また、頑張らないと。




 ――その後、クララはすぐにサエおねーちゃんの元に戻りました。


「あれ、おかえりー。急に消えちゃったけど、どこに行ってたのー?」


「はい、ちょっと気になる人がいまして」


「気になる人?」


「はい。クララたちのことをずーっと見ながら、おねーちゃんのことを話してました」


 サエおねーちゃんのお母さんは、何も言わないでほしいと言いました。


 でもクララ、指きりしてないです。


「私のことー?」


「はい。きっとおねーちゃんのお母さんです」


「お、かあ、さん……!?」


 指きりしてない約束は、やぶられても仕方ありません。


「どこ? お母さんはどこにいたの!?」


 だから、やぶってしまいます。


「はい。それは――」


 少し、だけ。


「わからないです」


「え……だって、私たちを見てたって」


「はい。クララたち――この街の木々のどれかを眺めながら、おねーちゃんのことを話してました。クララはそれをお友達の木さんに聞いただけです」


「そ……そっ、か。そう、だよね。クララちゃんって、木だったよね……それで、その、お母さんは、なんて?」


「詳しいことはわかんないです。誰へともなく独り言を呟いていただけらしいので。ただ――あなたのことを、大切に想っていたと」


 これくらいなら、いいでしょう?


「……そっかー」 


 複雑そうな表情で黙り込むおねーちゃん。でも本当は喜んでます。


 クララには、見ればわかります。


 あなたには小さな幸せを。


 あの人には小さな勇気を。


 ――先のことまでは見えないけれど。どうか、報われる日がくることを。




 特に書くことはありません。

 二人が共に歩く日が、いつかやってきますように。

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