カカの天下47「続、がんばれタケダ」
こんにちは、カカです。
今日は掃除当番なので、放課後の教室をせっせとホウキで掃いています。
「カカちゃーん、これ」
サエちゃんが私が掃き逃した大きい紙クズを拾って持ってきます。
「ありがと、サエちゃん」
それをちりとりで受け取った私は礼儀正しく言いました。
「カカ君! こんなところにゴミが落ちているよ! 一寸の虫にも五分の」
「うっさい黙れ向こういけ」
私は一切遠慮なしで言いました。
相手がタケダ君だったから、という理由は少ししかありません。
ああ、訂正します。それだけでも近寄ってほしくない理由にはなるのですが。
ゴミと言いながらハエの死骸をつきつける男の子になんか優しくできるはずありません。
「うう、なぜだ! サエ君にはそんなに素直なのに、俺に対してはなんで冷たいのっ? 人生皆兄弟、思いやりこそが世界を救う赤い羽根募金なのにさっ!」
「だってサエちゃん可愛いもん」
「俺だって可愛いじゃないかっ!」
「あんたうざいだけじゃん。そのハエみたいに」
カカの口撃。
痛恨の一撃。タケダ君はしんでしまった。
「うう……なぜ……こうも、うまくいかないのだろうか……」
「んー、そうだねー」
掃除の後。カカがゴミを捨てにいっている間に、タケダ(下の名前はまだない)はカカの親友であるサエちゃんに相談していた。
「俺は頑張ってカカ君と仲良くなろうとしているんだけど……」
「んー、それが暑苦しいんじゃないかなー」
「ふむ……ではどうすればいいかな」
「二度と話しかけなければいいと思うー」
「なるほど、それなら波風立たな……立たなさすぎるだろう! 俺はカカ君と仲良くなりたいのだ! 愛のエレクトロニクスを奏でたいのだ!」
愛の電子工学ってどうやって奏でるのかなぁ、と何気に英語のわかるサエちゃんは思ったが、面倒だったので黙っておいた。
「さぁ、どうすればいい!? ナイスな意見を聞かせてくれたまえ!」
なんでこんなのの話に付き合ってるのかなーとほややんと思ったが、心優しいサエちゃんは適当に答えてあげた。
「タケダ君っていつもそういう……なんだろー、大人ぶった、こまっしゃくれたクソガキみたいな感じだからー、なんか違う感じで話しかけてみたらどうかなー」
「……なんかすごいこと言われた気がするけど、例えばどんな風に?」
「やんちゃ坊主とかー、いつもと逆に腰低くしてみるとかー、つっぱねてみるとか?」
またまたカカです。
ゴミ捨て場から帰ってくると、タケダ君が待ち構えていた。
また何か言ってくるのかなぁ……うんざりするけど、教室の入り口に立たれては近づくしかない。なのでしぶしぶ歩いていくと……
「おい、カカ坊!!」
「何様だおまえ」
とりあえず殴っといた。
するとタケダ君はうずくまり、めそめそと泣き始めた。
「う、うう……お許しくださいカカ様ぁ」
「きも」
ぐっさり、と大きな音がタケダ君の胸に響いた。
タケダ君はなにやら脳に深刻なダメージを負ったようにふらついていたが、やがてゆらりと立ち上がり、今の泣き様が嘘のように斜に構えた態度でこちらを見た。
「君さ……いい加減にしろよ。何様のつもりだよ。もううんざりだよ……ああわかったよ、君にはもう話しかけない、目も合わさない、これでいいんだろ!?」
怒鳴るだけ怒鳴って、ぷい、とタケダ君は向こうへ歩いていってしまった。
それを見送りながら、私は……
「よっしゃ!」
ガッツなポーズをしてみた。
「ちょ、ちょっとそんなぁ!!」
心底嬉しそうな声が聞こえたらしく、目も合わさないと言ってくれた直後なのにこっちに走りよってくるタケダ君。
あー本当に邪魔だなー
私は容赦なくそう思った。
――だって仕方ない。
世の中、そいつがそいつだから嫌い、という生理的な相性というものがあるのだ。
それでもタケダ君の挑戦は続く。
幾度となく虐げられ、それが快感になるまで続いていく……って展開は、まずいかな?