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カカの天下  作者: ルシカ
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カカの天下467「こんなカレーはいかが?」

 こんにちは、カカです。


 今日はカレーの人についてのお話をしようと思います。そう、私がひょんなことからメル友になり、実はクラスメイトだったことが発覚し――その事実をなんとなく隠しつつ、メル友としてだけ接している彼女のことです。


 彼女の名前はインド。や、別にインドって本名じゃないんだけど、カレーのことばっかり言うし、ちょっと色黒な肌してるからということでインドと呼ばれている。ごめんね国のインド、勝手に名前を使っちゃって。でもこの子は可愛いから許してね。


 さて、そのインドちゃん。カレーのことになると大胆な発言するしメールでも熱く語ってくれるんだけど、普段はとても静かで無口な女の子だ。


「なーなーインド、消しゴム貸してくれよ」


 例えば男子がこんな風に話しかけると、


「……ん」


 それだけ言って『ゴムカレー』と書かれた消しゴムをスッと貸してくれる。『カレー』と『ゴム』は逆じゃないのか、そもそもどこでこんなもんを売ってるのかという謎は置いといて、男子がそれを返しても返事は「ん」とだけ。そういう風に無愛想なせいか、インドなんて愉快なあだ名がついているわりには友達は少なかったりする。


 性格が変わるのはカレーについてだけ。とある方角にこだわる誰かさんと似たような性格である。最近多いのかね、そういう病気。


 まぁともかく。カレーにこだわる彼女は給食のとき、いつも持参したカレーをご飯にかけて食べている。だから四時間目――給食の一つ前の授業になると少しずつイライラし始めるのだ。


 例えばその四時間目が、社会の授業だった場合。


「――関ヶ原の戦い。豊臣秀吉さんが死んだ後の政権を巡って起こった戦いだ。でっかい戦いだったらしいけどよ、んなことしてて葬式ちゃんとあげてもらったのかね秀吉さん。心配だよな」


 テンカ先生。あんた秀吉と親しげだね。 


「で、この戦いで大きく分かれた奴の片方が徳川家康なわけだが……さてもう片方はどいつでしょう。教科書に書いてあるぞ。インド、答えてみろ」


 インドは先生公認のあだ名だったりする。それにしても『奴』だの『どいつ』だの偉そうにも程があるテンカ先生は何者なんだろうか……あ、織田信長の子孫かもしれないとかこの前に言ってたっけ。織田信長……徳川家康より偉いの? 


 まぁいっか。ともかく指されたインドちゃんは立ち上がる。心なしかフラフラしながら……お腹がすいたのか、それともカレー分が足りないのか。


「おいインド? 聞いてたのか。関ヶ原の戦いで徳川家康と対抗していたのは誰だ」


「カレー」


 後者だったらしい。


「カレーと戦ったのかぁ、そりゃ歴史にも残るわ……でもなインド。その戦い、家康の勝利で終わるから、カレーは負けることになるぞ」


「え? カレーは負けませんでしたよ」


「当然の顔して歴史を変えんな」


「家康が全部悪いんです。だからカレーの勝ちです」


「おいおい家康さん可哀想だろ? あの人にもいろいろあったんだから」


 あの人ってあんた友達かいな。 


 ――まだある。例えば四時間目の授業中にテンカ先生がちょっと脱線してサッカーの話をしていたとき。


「いやーすごかったよなアイツ! 大した選手だよアイツは! 酒グセ悪そうだけどな」


 この人にかかれば誰でもアイツでソイツらしい。


「でさ、昨日もこうやって華麗にシュートを――」


「先生」


 もの静かな、しかしはっきりとした怒気をはらんだ声。


「な、なんだよインド」


「今、なんて言いました?」


「だから、華麗にシュートを」


「カレーにはライスです」


「……か、れー?」


「もしくはナン!! カレーにシュートなんてわけわからないものを混ぜないでください!」


「えっと……すまん」


 なんだかよくわかんない迫力に負けて謝ってしまうテンカ先生なのだった。


 こんな彼女だが、給食中にはちょっとしたアイドルだ。え? 友達がいないんじゃなかったかって? そうそう。実は先日、あまりに友達がいないインドちゃんにメールで相談されたことがあったんだけどね。


『同じ趣味の人を見つけてみるとか?』


 なんて返してみた次の日。インドちゃんは持参したカレーを、目当ての女子に向かって差し出し、


「た……食べる?」


 泣きそうな声で、そう言った。彼女にとっては精一杯のお誘いだったんだろう。でも間が悪かった。これをきっかけに友達になってほしかったであろう女子たちはちょうど給食を食べ終わり、珍しく給食についてきたプリンを食べようとしているところだったのだ。


「えっと、今カレーはちょっと」


「だ、大丈夫……ゼリーだと美味しかったから」


 ゼリーにかけたんですかカレー!? ちょっと引いていた女子たちは「じゃ、一口だけ」ということで逃げた。もちろんプリンにはかけず、そのまま口にしただけだ。


 その次の日から。


「あの、インドちゃん。カレー少しもらえる? ご飯にかけて食べたいの」


 そう進言した一人の女子をきっかけに、インドちゃんカレーは人気急上昇。やたらと美味しそうに食べるその姿に惹かれたクラスメイトの皆はこぞってインドちゃんにカレーを求めるようになったのだ。こうして、給食のアイドルの誕生である。


「これインドちゃんが作ったの? すげーな!」


「……う、うん」


「私、もうちょっともらっていい?」


「ど、どうぞ」


「いやーうめぇな! 俺もカレー党に入ろうかな」


「……え、えと」


 しかしアイドルとファンとの壁は厚いもの。人気は出たが友達できず、いまだに我がメル友カレーの人は内気な性格を克服できずにいるのだった。


 でも、まぁ。


「美味しかったよ!」


「……えへ」


 なんか嬉しそうなのでよしとする。


 きっとインドちゃんにとってはこれで充分なんだろう。その証拠に放課後の掃除当番のときとか、ご機嫌に鼻唄なんか歌うようになったのだから。


「ルールールー、ルールールー、カレーのカレーのルールールー」


 どこかで聞いたような気がする歌。ノリのいい曲ではないけど本人はとても楽しそうである。


 この調子で友達ができるといいね。メル友として応援するよ。


 というか、私が友達になりたい。でも仲良くなったら携帯のアドレスでいろいろバレるし……そしたらインドちゃんにとって気軽に話せるメル友はいなくなっちゃうんだよね。


 それが必要ないくらいに友達ができれば済む話なんだけど。


「インドちゃん、ばいばい」


「ルー!?」


 ま、そんな遠い話でもないでしょ。


 今日も今日とてインドちゃんは皆の分のカレーをせっせと作るんだろうな。


 私の『カレーの人』さん、がんばれ!





 ――それにしても。


『ねえねえ聞いて! 今日のカレーはすごくうまくいったの。学校のみんなも喜んでくれて――』


 つくづくあのインドちゃんとは思えないメールである。


 元気になったらこうなるのかな?


 着々と今まで出番が少なかった人のキャラが固まりつつある昨今、いかがでしょうか。今日はカレーの人のお話です。

 カカ天には今までいなかった無口&内気な方でございます(カレーが絡むとき、もしくはメール以外は)。いますよね、メールと本人のギャップがある人って。


 カレー配ってるけど人の多さに負けてカレーモードになれない彼女。いつかカカたちと一緒に遊ぶ日はくるのでしょうか……はてさて。るーるーるー。


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