カカの天下462「友達できた? がんばれタケダ」
やあ、俺タケダ。
カカ君への愛を貫こうと日々精進している好少年さ! 別に少年が好きなわけじゃないぞ。好青年の小学生版だぞ!
さて、それはさておき。
「なぁ、タケダ。僕たちいつまでここいればいいのかね」
「わからん」
これも精進のうちなのか? 試練なのか修行なのか? 男子と二人で狭いロッカールームで密着しあってるのが?
勘弁してください。
「タケダ……暑い」
「俺だって暑いわ」
「タケダ……なんかしょっぱい」
「どういう意味だ! ええいニシカワ。おまえのほうが入り口に近いだろう。なんとか開けられないのか!?」
「さっきからやってるけどできないよー。つっかえ棒を落とせればいいんだけど」
このロッカー。別に鍵付きというわけでもないし、つっかえ棒がセットできるような作りになっているわけでもない。元より掃除用のロッカーとは鍵など必要のないものだ。
それなのになぜつっかえ棒などができるのか。
答えは簡単だ。ロッカーが歪んでおり、生まれた隙間にほうきを挟めるようになった。そして簡易的な牢獄が出来上がってしまっただけの話。
なぜロッカーが歪んでいるかというと、なんでもカカ君の回し蹴りをくらったことが原因らしい。さすが我が愛すべき女子。イカス。イカスけど迷惑。
「むう、こうなったらもっと歪ませてほうきを落とすしかないのだろうか」
「あ、それいいな。もう授業始まってるから周りに誰もいないだろうし。じゃあどうしよう。適当に暴れればいいのか?」
「まぁ待て。まずは俺が――はぁ!」
気合一閃。放たれた拳は一直線にロッカーの壁を砕く!
ポキ。
俺の骨が砕けた。
「よっわいなーおまえ」
あまりの痛みに言葉も返せない。
「よし、僕がいくぞ――破ぁ!!」
俺のわき腹が大破っ!!
「ぬ……ぉぉぉぉぉ……!」
立て続けに起こった人体破壊に悶絶する俺……
「あー、ごめんなタケダ」
「なぜだ。俺が何か悪いことしたか? 一日三善くらいしているというのに!」
「一日に三千しか稼ぎがないの? それは安いよ」
そうだったのか……これからはもっと善いことをしよう。
「世の中の大人さんたちはもっと頑張って稼いで……ってこんな話してる場合じゃないや。今度こそ――いやぁ!!」
俺のみぞおちがいやぁん!?
「…………っ!!」
「あー、ほんとごめんなタケダ」
息もできない俺……しかしそのかいあってか外に出れた。俺がもらった衝撃がそのままロッカーまで貫いていたらしい。おそるべしニシカワ。
――と、ちょうどそのとき、聞きなれたキンコンカンコン音が。
「むぅ、授業を丸々一つサボってしまったか」
「まぁ仕方ないよね……あれ、こっちに向かって走ってくるのって、タケダのクラスメイトじゃないか?」
おお、本当だ。何やら必死な形相だが、俺に用なのか?
「もう! どこ行ってたのさタケダ委員長! プリントを運んでくれるはずだった委員長がいなかったおかげでさっきの授業、じーさんの変な話で終わっちゃったじゃないか!」
ああ、なるほど。我がクラスの担任、通称じーさん先生はプリントを頼りに授業を進めていくのだ。それが無いとじーさんは「仕方ないのぉ。ではこんな話をしようかの」とか言って、かつて竜を倒しただの宇宙人を食べただの金髪美人と海に沈んだことがあるだのと荒唐無稽な武勇伝を語り始めるのだ。
まったく、だから俺がいろいろと抜かりなくやっているというのに。
「ええい、だからいつも言ってるだろう。各授業に使うプリントは朝のうちに全て持ってきて棚の上に置いてあると!」
「え、あれ一日分あったの!?」
「当たり前だ。あのじーさん先生になど任せてはおけんからな。俺がクラス委員長になった日からすでにそう提案してある」
「そ、そうだったんだ……わかった。今度から気をつける」
すごすごと去っていく我がクラスメイト。さて――ん?
「なんだニシカワ。変な顔して」
「感心した。おまえ意外と手回しいいのな」
「ふん、すべては休み時間などにカカ君へ話しかけるチャンスを伺う時間を作るためだけにやっていることよ」
「それだけなのかよっ。ならそもそもクラス委員長なんて引き受けなきゃいいのに……」
「仕方なかろう。うちのクラスメイトのほとんどが勉強をうまくできない連中ばかりだ。俺が雑務をこなして他の者には勉強に集中してもらうのが道理だろう。この程度じゃ俺の成績は落ちんしな」
ニシカワは「ほぇー」と妙な音を出しながらぽかんと俺を見つめた。なんだ、妙なヤツだな。
「タケダって意外とスペック高いのな」
「おお? それは俺も先日にニシカワに思ったことだぞ。ふっ、俺たち。なかなかいいコンビになりそうじゃないか。俺はカカ君、君はアヤ君に振り回されているところなんかもそっくり――」
「あれ。なんだこのネコ」
む、なんだ人がせっかくいいことを言おうとしていたのに。ニシカワはネコの首輪から紙きれを抜き取って眺めている。それにしてもこのネコ死にそうなほど疲れてるな。
「そ……それ……よ、読んだら……だ……め」
おお? ネコと同じくらい死にそうなアヤ君が現れたぞ。
「ほうほう、アヤ坊が僕にラブ?」
「そ、それは違うんだか――げほげほ!!」
「ん、わかってるよそんなの。だって字が違うし。とりあえず呼吸を整えなさいな」
ニシカワがそう促すと、アヤ君は意外にもおとなしく従ってスーハースーハーと深呼吸した。
そして。
「す、少しは慌てたりしなさいよニッシーのバカ!! 私がバカみたいじゃない!」
「どっちがどっちかわからないよアヤ坊。あ、でもよく言うか。バカって言うほうがバカと」
「なによ、それならニッシーは今二回もバカって言ったじゃない!」
「そっちは三回目のバカだよ」
「そっちも三回目のバカじゃない!」
「はいそっち四回目ー。僕はこれで終わるよ。だからアヤ坊のほうがアレだね」
「アレって言ったほうがアレなんだからね!」
「二回も言ったアヤのほうがアレだろ――」
「そっちだって今アレって――」
五分後。
もうすぐ次の授業が始まることに気づいたアヤ君が話を中断して踵を返したところで、ようやく話は終わったようだ。
「ふー……あ、ごめんなタケダ。放っておいて」
「仲……いいではないか」
「へ? あぁ、まぁね。なんだかんだでずっと一緒にいるし」
「おまえなんか仲間じゃないやい!」
「どうしたんだよ急に」
「俺……カカ君と五分以上も話したことない」
「え、そこまで?」
「そこまでとか言うなああああああああ!」
うわぁぁぁぁぁぁぁん! と泣きながら走った。
走りまくった。
何も見えない、何も聞こえないと言わんばかりに。
すると――
「これ君。授業中に何をしている」
チャイムも聞こえなかったらしい。
「よろしい。君の根性を一度破壊し、叩きなおすとしよう」
その前に涙腺が破壊しました。
はい、昨日の忘れ物、タケダとニシカワのお話を書いてみました。
男の友情ですね!(どのへんが?
いやーしかし。
男だけですね。
むさくるしいですね。
感想欄にあった「しょっぱい」って響きが気に入って使ってしまったくらいですからね。
たまにはいいでしょ!
……ほんと、たまにはにしよう。