カカの天下46「年賀状の書き方」
「ふぃ〜ババンババンバンバン」
日本古来から伝わるお風呂ソングを歌いながら風呂から上がったトメです。湯上りたまご肌な僕は、居間でうんうん唸っている変な生物を発見しました。
妹科、生意気属のカカとかいう生物です。
「どしたんだ、おまえ」
「んーとね、年賀状で何書くか悩んでるの」
……はて。
それって年末、もしくは年始に考えるもんじゃなかったっけ。
ただいま一月二十日。もうとっくにそんなシーズンは終わったぞ。
「なんでそんなもん今頃書いてるんだ? 誰宛だよ」
「サエちゃん……」
ああ、一番仲いい友達のサエちゃんね。
「そういやそのサエちゃんからは元旦に年賀状きてたな。でもおまえも元旦に向こうに着くように、去年のうちに書くーとか言ってなかったっけ」
「うん……言ってた」
「で、結局書かなかったのか?」
「や……書いたんだけどさ」
そう言いながらカカはファイルからどさどさと年賀状を出した。
「これ……なに、全部サエちゃん宛か!?」
「どんなの出せばいいかわかんなくて……」
だからってな……二十枚以上あるぞ?
どんなのがあるかパラパラと拝見してみる。
「なになに……『あけましておめでとう、今年もよろしくねー』って。これでいいんじゃなかったのか?」
「それじゃ普通すぎてつまんないじゃん」
「そりゃそうかもしれないけど」
「もっとインパクトとか愛とか芸術がほしいんだよ」
「こんな狭い紙にそんなの求めなくても……えーとこれは『明けたぜっ。新年だぜっ。めでたいぜっ』……って、なんで『ぜ』なんだ」
「それは勢いで書いちゃったの。若気の至りってやつ?」
「いい言葉知ってるね。えっとこれは……『猪のごとく猪突猛進の心構えで友情を貫きたい所存である』なんだこれ」
「それはタケダ君がこんなのどうだーって言ってきたやつを一応書いてみた」
「ほほう、あのタケダ君か」
あの、なんか難しい言葉をよく言うのが特徴で、カカに密かに恋してて、
「そうそう、あのキモイやつ」
めっちゃ嫌われてる可哀想な男の子だ。
「はぁ……がんばれタケダ。僕はめげずに恋するやつの味方だ。何もしないけど」
あっさりカカとくっつかれてもムカつくし。
「これは? 『一月十日。晴れ。サエちゃん、今日は楽しかったね』ってこれもう日記じゃん」
「だってさぁー。なんかここまで来たら他に書くことがさー」
まぁ、すでに新年に直接会ってあけましておめでとうとか挨拶しちゃった後だからなぁ……書くことに困るのも仕方ないといえば仕方ないのだけど……
「サエちゃんって、あのぽやーっとした子だよな」
「うん。ひたすらぽやーっとしてぷやーっと喋ってぽややんと生きてる子」
なんか柔らかそうに生きてるな。
「スプーンで簡単に裂けるほど柔らかいよ」
こえぇよ。
「ともかく。そんな柔らかい子なら、細かいこと気にせずにおまえの気持ちを喜んでくれるだろうから」
「ふむ」
「これ全部送れよ」
翌々日。
「カカちゃん。あれ、ありがとー」
「あ、届いた? 年賀状」
「うん、届いたよー。年賀状と日記ー」
「ああ……うん、日記ね、はは」
「私ねー、交換日記って初めてだけどー」
「……は?」
「頑張って書くねー」
「……あ、う、うん」
「昨日のうちに返事は送っておいたからー」
……なんかぷややんと誤解したサエちゃんはやる気満々だったので……カカとサエちゃんはなんとなく、はがきでの交換日記というものを始めることになってしまいましたとさ。
ちなみに、届いたサエちゃんの返事の日記はがきには。
「納豆とカレーを混ぜたのー。なぜなら黒猫が走ってたのー。ドボン。それから眠いです」
という、なんとも小学生らしい脈絡のない日記が書かれていましたとさ。ドボンって何があったの。納豆とカレーの中に落ちたのか? とにかく眠くなるような平和な音には聞こえないんだけど。
はがきのど真ん中にその文だけ、というその妙な紙を最初に読んだ僕は、宛名を見ずに捨てるべきか否か結構迷った。
そして、それを受け取ったカカの感想。
「変なの」
おまえが言うなと声を大にして叫びたい。