カカの天下456「タイヤキ事件」
僕は生まれ変わった!!
あ、いきなりすいません。おはようございます! トメです。
今日から僕は男らしく生きることにしました。なのでニュートメです。
「なにそれ。ニューロンの仲間?」
おっと、カカの登場だ。ここは男らしく兄らしく、にこやかに笑いながら返答すべきだろう!
「あっはっは! おはようカカ! 小学生なのに神経細胞の別称なんてよく知ってるなぁ、偉いぞ!」
「うえ? あの、トメ兄?」
「うんうん、すぐに朝食を作るからな! 今日はひじき入りの納豆ご飯と冷奴とな――」
「……んと、私、パンがいい」
もう準備したのになんたるわがまま。しかし、この程度のことでいちいち怒っていては男前になど成れはしまい。男らしい寛大さを発動だ!
「なんでかというとね今日はパンツが飛――」
「そうかそうか! わかったぞ、準備するからちょっと待ってろよー」
「むぅ」
「おや、どうしたカカ」
妹の不満そうな顔にもすぐに反応。男らしい優しさも発動だ!
「トメ兄」
「なんだい?」
「あじゃぱー」
何語!?
とツッコむのは簡単だが、ここは男らしい笑顔で!
「トメ兄、これはね――」
「あっはっは。カカはいつもおもしろいなぁ」
「むぅー……もういいもん」
はて? カカは冬眠間近のリスのようにぷくーっと頬を膨らませて行ってしまった。一体どうしたというのだろう。
その後、朝食中にも何度か喋ったのだけど、カカはその度に不機嫌になっていった。
わけがわからないまま会社へと行き――
そして、仕事を終えて家に帰ってくると。
「カカちゃーん! なんでこんなことにぃー! うぅぅー!」
なぜか居間で小芝居が始まっていた。
「あの……サエちゃん?」
うつ伏せに倒れているカカ。それを泣きながら抱きしめているサエちゃん。あれかな、ほら、ドラマとかによくある感じで……カカが死んでしまって、それを悲しんでるっていう設定っぽい気がする。
「あぁ! トメお兄さん」
サエちゃんはガバッと顔をあげて、僕に向かって泣きついてきた。
「カカちゃんが……」
なぜかカカの足を持って引きずりながら。
「カカちゃんが、死んでしまいましたぁぁぁー!」
ずるずるずるゴン。
「痛っ。脚が壁に当たったよ」
「あ、ごめんねー。人を引きずるのって難しいね」
「気をつけてよ、もう」
「うんうん、わかったから死んでよー」
「はいはい。かくっ」
「さて、カカちゃんが死んだわけですけど」
どのへんが?
「犯人はトメさんだと思うんですけど、どう思います?」
そして殺人犯らしい僕に直球で相談するあなたは何者なのか。
――とか思ったけど、生まれ変わった僕はそんな野暮なツッコミはしないのさ!
「あはは、そっかそっか。悪いやつだなぁ」
「本当です。生きてる価値ないですねー」
「まったくまったく」
「生ゴミのほうが資源になるからまだマシですよねー」
「いやー、生ゴミに負けちゃったかー」
……サエちゃま。僕、何かシマシタカ? いやいや! ここはあえて理由は聞かず、さりげに立場を回復するのが吉だ! ちょうどいいものあるし。
「それだけ悪いことをした償いと言ってはなんだけど、タイヤキ買ってきたんだ。食べよう? 多めに買ったからサエちゃんの分もあるよ」
「わー、ありがとうございますー」
ぴくり、と死体が動いた。サエちゃんはそれに気づいているのかいないのか、にっこりと微笑んだ。
「カカちゃんは死んでるので、その分は私がもらいますねー」
どたんばたんと死体が跳ねてるけどサエちゃんは気づいていない――フリをしてる。そういやこういうちゃっかりした子だったよな、サエちゃんって。
と、いうわけで。
「もふもふ……ところでですね、カカちゃんのことなんですけど」
「むぐむぐ……ん、聞こうか」
いまだ抗議するかのようにピチピチ跳ねてる活きのいい死体は放って置いて、サエちゃんと一緒におやつタイムなんぞに突入しているわけだが。
「全部話してしまうとカカちゃんが生き返ってしまいますから、タイヤキ全部食べてからでいいですかー?」
どたんばたん! どたんばたん!
「や、カカの分もお茶も煎れちゃったし……早めに話を聞いて終わらせたいなぁなんて」
「もぐもぐもぐもぐ」
「そんないきなり食べるペースあげなくても」
どたばたどたばたどたばた!
「ほら、そこの死体がうるさいからさ」
「むぐむぐ……こくん。大丈夫ですよー、幽霊だって騒ぐときはこんなもんです」
ぴたり、と死体の動きが止まる。食い気より恐怖が勝ったか。
「それでさ、カカはなんで死んだわけ? しいんは?」
「しびん?」
そうそう、病人とか怪我人がベッドの上でもう用を足せるように――ってそれは尿瓶!!
と、ツッコみたいんだけど、我慢我慢。そんな軽いことでいちいちツッコむ軟弱男は卒業したんだ!
「死因だよ。し、い、ん。なんで死んだのか」
「ああ、よかったです。トメお兄さんが今ここでいきなり尿瓶を使うのかと思ってドキドキしてしまいましたー」
それメイド服を着るより恥ずかしいんですけど。
「死因はですねー。丸一日、トメお兄さんがツッコミをしなかったことにあります」
なんですと?
「……サエちゃん。人間ってそんなことじゃ死なないんだよ」
「でも空気がないところに丸一日いたら死にますよね」
「そりゃね」
「じゃーツッコミなくても死にますよ」
「いあいあ『じゃー』の意味がわかりません!!」
「いつも在るものが無くなった、というのは同じですよー」
……む。それ、は。
「今日のカカちゃんは元気なかったです。『トメ兄が変になった。つまんにゃい』って言って、ずーっと」
つまらない……そっか。言われてみれば僕も、少しつまらなかったかも。
「今日から男らしく、とか、思ってたんだけど」
「カカちゃんを泣かすようなことが、男らしいことだと思いますか?」
泣いてた? カカが? ほんとに?
や、そんなことを聞くことこそ野暮だろう。
「カカ、ごめんな」
「…………」
「男らしくなろうって気持ちは変わってないけど、ちょっと極端だったよな。根っこのほうでそう思うことにして、他はいつもどおりにするから、その……顔をあげてくれないか」
「無理。死んでるもん! 居留守中だもん!」
「居留守ってことはいるんじゃん」
「あじゃぱー!」
「朝にも思ったけどそれ何語だよ」
「……トメ兄、元に戻る?」
「ああ、だからおまえも元に戻れ」
「ほんと?」
「ああ」
「ちゃんとツッコミする?」
「はいはい」
「私のタイヤキ余ってる?」
「死守しといたよ」
ここでようやく、カカは顔をあげてくれた。
「……じゃー生き返る」
これにて一件落着か。
「よし! ほら、お茶とタイヤキ!」
「うん、でも、その前に」
「そだな」
僕とカカは二人してサエちゃんのほうを向いた。
「サエちゃん。私のわがままに付き合わせちゃってごめんね。ありがとう」
「僕からもお礼を言わせてよ。ありがとう」
サエちゃんはニコニコしながらそれを聞いて――手を、差し出した。
「なに? この手」
「お礼ください」
その手はまっすぐ、僕が死守したカカの分のタイヤキへと伸びていた。
「サエちゃん……タイヤキ、気に入ったの?」
「おいっしーですね、それ!」
満面の笑みで言うサエちゃんに苦笑しながら、カカは「仕方ないなー」とぼやきつつタイヤキをあげるのだった。
サエちゃんはほんと、サエちゃんらしい。
ああ、なるほど。
だから僕も、僕らしく、か。
今日これを書いた理由。
お昼に食べたタイヤキがおいしかったから。
そ、それだけではないですよ!? た、たぶん笑
まぁ肩肘張ってばっかりもおもしろくないというお話です。そしてサエちゃんはちゃっかり者というお話でもあります。
――あと、昨日からちょこちょこーっと最初あたりのお話のリニューアルを始めてます。
カカ天の型がある程度決まるまでは結構粗い書き方だったんで、ちょこちょこっと修正したり、ちょこっとネタを追加したり……でもまぁ根本はあまり変わってませんので、超暇な方がいましたら読み返してみてもいいかも? 程度です笑