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カカの天下  作者: ルシカ
453/917

カカの天下453「はにかみ誕生日 後編」

 場所は公園。


 そこで愛を誓いあった二人は異様に仲良くなってしまうという桜の木の下で、僕の目の前には二人の女性が立っていた。


 サユカちゃん。今日はいろんな恥ずかしいことを乗り越えて、なんだかんだで仲良くなったカカの友達の女の子。


 サラさん。なんでか知らんけどここにいる人。


 さぁ、どうする?


 ……どうするよ。


 や、別に桜の魔力なんか信じてるわけではないけどさ、二人とも思い込んだら一直線な性格してるしヘタなこと言うのは命とりだよな。もしかしたら誓いのキッスとか言われるかもしれないし。つまりここは慎重に、当たり障りない返事をしなければならない。


 よっしゃ。


 この状況で当たり障りない返事って、一体どんなん?


 ごめん誰か教えてプリーズ。


「トメさん!」


「はぃ!?」


 思考の海にダイブしていたのも束の間、いきなり響いたサラさんの大声で無理やり引き上げられてしまった。


「あの、実はですね」


「はぁ」


「トメさんは知らないと思いますけど――ずっと、ずっとあなたにアタックしてたんですよ、私」


 さ、さすがの僕でも知ってますけど。


「でも、いつもの恋愛とちょっと違うなって思ってたんです。その、私ってすごい嫉妬深くて、彼氏じゃなくても好きな人の周りに女の人がいるだけでイライラしちゃうんです。でも、トメさんの周りに女の人がいても、そういう感情がわかなかったんです」


 何が言いたいんだろう。


「それで私、本当にトメさんが好きなのかなって、迷ってたんです。でも今日を通して、ようやくわかりました。今まで感じなかった嫉妬を、さっきトメさんとサユカちゃんがラブラブしてたときに感じたんです!」


 ラブラブてオイ。そもそもさっき見てたんですか!?


「それで確信しました!」


 そ、そうですか。ならばなおさら真剣に考え――


「私は、サユカちゃんのことが好きだったんです!!」


 ぱっきん。


 あれ、こうえんが、まっしろになったぞ。


「サラさん……わたしも、サラさんのことが好きみたいですっ!!」


 ぱきぴきん。


 あれれ、まっしろなせかいに、ひびがはいったぞ。


 れーせーになって、かんがえてみよう。


 あ。


 わかったかもしれない。


 このきのしたでこくはくしたら、いようになかよくなれるんだよね。


 さっきこくはくみたいなことしたの、だれとだれだっけ? 


 あいをちかいますっていったふたりって、だれとだれだっけ?


 あはは。


 まほうって、ほんとうにあったんだぁ。


『え、えっと……クララ混乱してます! でも、一応その、誓いのキックを!』


「「せい!!」」


 ドカばきん!! 


 なぜか放たれた二人のキックは――ひらがなっぽい真っ白な世界と僕の鼻っ柱を、ものの見事に破壊した。


「いきましょう、サユカちゃん!」


「はい、サラさんっ!!」


 妖しく輝く薔薇の花っぽい空気を周囲に振りまきながら、何処へともなく爆走していく二人。


 鼻血を出しながらぴくぴくと地面に倒れ付している僕。


 ゴッドよ。


 僕になんか恨みでもあるのですか?


 ていうか、なんスかこのオチ。


 僕は地面に転がったまま、さっきまで真剣に悩んでいたことを恥ずかしがったり今日の出来事で仲良くなれたと思っていたのにあっさり撤回されたサユカちゃんとの絆に虚しさを感じたり桜の魔力ってあんだよそれ反則じゃね? なんて拗ねてみたりと色々悶々としていたのだけど――


「んもー、クララちゃんしっかりしてよ! せっかくいい雰囲気だったのに」


「すいません……クララしょっくです」


「まーまー、あれはどうしようもなかったよー」


「いいじゃないですか、おもしろかったんですから」


「そうそう。オレが笑えりゃ全てよし、だ。気が合うな、あんた」


 これまたどこからともなく沸いて出てくるおなじみの面子……もうツッコむ気にもならんわ。


「ほらほらトメ兄。元気出して」


「ねークララちゃん。あの桜の魔力っていつまで続くのー?」


「三分です」


「みじかっ!! んだよ、せっかくおもしろい展開だったのによ。一日くらい続かせろよ」


「桜の花が咲いている時期だったらもう少し続くのですけど」


「ほらほらトメ君。あれは一時の気の迷いだそうですよ。だからそんなとこに転がってないで元気だしてください。フラレ虫みたいですよ?」


「っんの、キリヤ……!」


 そこまで言われちゃ転がってられない。僕はカチンときた怒りをそのまま地面に叩きつける勢いで立ち上がろうと――


「あ、転がったままでそんな乱暴に動かないでください。私の誕生日プレゼントのネックレスが汚れてしまいます」


「う?」


 キリヤに言われて胸元を見る。そこには見慣れないネックレスが、今朝カカに無理やりつけられたときと同じように光っていた。


「これやっぱりプレゼントだったのか」 


「はい。私が苦労して見つけてきた、呪いのネックレスです」


「この惨状はすべて貴様の仕業かああああああああ!!」


「アハハ、いやだなぁ。全部トメ君の日ごろの行いのせいですよ」


「てめえええええ!」


 やりきれない怒りをキリヤにぶつける僕。そしてそれを見て笑うカカ、サエちゃん、テン、クララちゃん……はぁ、今日の僕はまるっきりピエロじゃないか!


「ままま、トメ兄。はいコレ」


「今度はなんだ!?」


「私たちからの本当の誕生日プレゼントですよー」


 その単語を耳にして、キリヤを追いかけていた動きをピタリと止める。


 プレゼント?


 そ、そっか。捨てる神あれば拾う神あり! 傷ついた僕の心はみんなによって癒され――


「はい、エプロンドレスの『ドレス』の部分」


 なかった。


「もー、サユカちゃんったら大事なところを買い忘れてるんだからー」


「ほんとだよ。わざわざ買いなおしに行ったんだからね。はい、付属品のフリルつきカチューシャ」


「トメ、おまえ言ったよな? メイド服をもらったらイロイロやるって」


 そんな――といったところで僕の頭がフル回転! 迅速に打開策を考える!


「ま、待て!! それはあれだぞ! ほら、よく思い出してみろよテン。僕は『サユカちゃんがメイド服をくれた場合』の話をしてたんだ! サユカちゃんがくれたのはエプロンだけで、つまるところメイド服をくれたわけじゃな――」


「うるせぇ。んな細けぇこと覚えてねーんだよ。酔ってたからな」


「そんなご無体な!?」


「せめてもの情けです。トメ君の家で着替えてもらいましょう」


「そだね。れっつごー」


 今日の僕はピエロかと思っていました。


 でもそれは間違いでした。


 メイドでした。


 なんでやねん。




「なんでやねん!!」


 そんな僕のツッコミも虚しく。


 着せられてしまいましたエプロンドレスにフリルカチューシャになぜかニーソックス。


 誰か殺してください。


「ぴら」


「スカートめくんなカカ!!」


「や、パンツはどうなってんのかと」


「聞くな!!」


 あーもースースーするわ恥ずかしいわ泣きそうだわ死にたいわ! でもなんか逃げたら約束を破ったとして姉を発進させるとか言ってスイッチを見せつけられたから言いなりになるしかないし! 大体なんだよスイッチって姉は何者だよ! わからねぇよ! だからそれもアリだよくそー従うしかねーよ!!


「トメ、オレさ、喉かわいたなー」


「勝手に水でも飲めよ」


「言葉使いがなってねーぞ? あん?」


 ちらちらスイッチを見せ付けるオヤジ女テン……こなくそー後で見とけよ。だから今の僕は見るな。


「も、もうしわけありません、ご主人様」


「ぶははははは!! ご、ごしゅ、ご主人様だって!!」


「トメお兄さんが……あんなひらひらの服着て……いいなりに……く、くぷぷ」


「可愛いよトメ兄」


「やかぁしぃわぁ!!」


「おやメイド君? 言葉使いがなっとらんよ?」


「もぉし……わけ……ありませぇんんんん!」


「トメ、こわいです」


「も、申し訳アリマセン♪」


「ぴら」


「だからスカートめくらないでくださいまし!!」


 ぎりっぎりと歯を食いしばりながらこいつらを睨みつけることしかできない自分が悔しい!


 こなくそ……よしわかった。僕も男だ。恥ずかしがってるから笑われるんだ。逆に堂々とやってやろうじゃないか!


「ご主人様、お茶でございます」


「……お?」


 音もたてずに人数分を並べ、すすす、と壁際に控える。


「んぐんぐ。トメ兄、おかわり」


「かしこまりました。どうぞ」


「トメお兄さん、なにかお茶菓子ないですかー?」


「ここに」


 ぴしっ、ぴしっと仕事をこなす僕! 


 どうだ。ここまで完璧にこなせば笑えやしないだろう! おそれいったか!


「執事がいる……め、メイドの格好した執事が……く、くはは……は、腹いた……」


「み、見ましたか、あの得意げな顔……お、オカマのくせに、何いい気になってるんですかね……かわいー」


 おそれいりました。僕が。


 神様でも天使様でも悪魔様でも誰でもいいです。どうか、この珍妙なプレゼントを無かったことにしてくださいませんか?


「はい、トメ兄。ネコ耳と尻尾」


「替えのニーソックスもありますよー」


 無理?


 死のう。


 せめて、心だけでも。




 その頃、サユカちゃんとサラさんは。


「私たち、こんなところで何してるんでしょう」


「ここ、さっきの喫茶店っ?」


「えっと……な、なんだか血迷ったこと言ってた気がしますけど」


「わたしもです。なんだったんでしょうっ」


「うーん、なんだかよくわからない桃色な衝動に突き動かされてたような……とりあえずケーキでも食べましょうか。お誕生日ですし」


「え、いいんですかっ!」


「はい、せっかくだから奢っちゃいますよ」


「じゃ、じゃあですね、抹茶系が食べたいですっ! えっと、どんなのあるんでしょう」


「ふふふ、その代わりと言ってはなんですが、トメさんのどこが好きなのかたっぷり答えてもらいましょうか」


「えーっ! い、いいですけど、サラさんも言ってくださいよっ!」


 なんだかんだで仲良くなってる二人でしたとさ。


 そう、トメを忘れて、仲良く。


 反対意見もちょこっとありましたが……大多数の賛成意見により、トメ君のメイドが決定いたしました!

 ちょっとあまりにアレなんで細かい描写は(してみたかったけど)しませんでしたが……や、この件についてはあまり触れないのは吉ですね^^;


 とりあえず後編が今日に重なるように調整しましたので今日が正真正銘、トメとサユカちゃんの誕生日です。

 二人とも、おめでとう^^

 プレゼントは、これね。

 サユカちゃんには小さな友情。

 トメには地獄。

 さぁ、喜べ二人とも^^

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