カカの天下451「はにかみ誕生日 前編」
えー、みなさんこんにちは。毎度どうも、トメです。
「え……っと」
恥ずかしながら、今日は僕の誕生日だったりします。そして妹のカカの友達、サユカちゃんの誕生日でもあり……
「と、トメさんっ?」
「い、いや、なんでも、ない」
僕と彼女は、今二人で歩いています。
手を、つないで。
それというのも、今朝の話――
「トメ兄、おはよう!!」
「……んぁ?」
いきなり布団をはがされて起こされた僕は、朝っぱらから元気満々で仁王立ちする妹を寝ぼけ眼で見上げた。
「誕生日、おめでとう!!」
「へ、あぁ、ありがと」
まだ頭がぼんやりするので適当に答えてしまう。
「だから私たちのプレゼント、受け取ってくれるよね!」
「ん、あぁ、うん」
まだまだ頭がぼんやりするのでまた適当に答えてしまう。
「なにがなんでも受け取ってくれるよね! 受け取ってくれなかったら死んでもらうよ!?」
「んー、うん」
とことん頭がぼんやりするので変な言い回しにも気づかずに適当に答えてしまう。
「よし! じゃあまずはサユカンへの誕生日プレゼント貸して。一旦預かるから。それでね、今日は私たちの指令に従って、サユカンと一日デートしてもらうから!」
「わかったぁ」
これでもかと頭がぼんやりするので、答えてしまった。
そして気がついた時には着替えさせられ、待ち合わせ場所に行かせられ、おめかししたサユカちゃんと一緒に歩くことになったのだった――
「はぁ……」
何の対処もできずに言いなりになってしまった寝起きの悪い自分に、思わずため息がもれる。
そしてカカ――いや、カカたちからのプレゼントらしい『指令書バッグ』なるものを開けてみると、『指令その一、手をつないでこの喫茶店へ行け。席に座ったら次の指令書を開けるべし』などと書いてあって……なんか、こんな番組なかったっけ。
「トメさん……その服、似合ってますっ」
「あ、ありがと」
カカに無理やり着せられたやつだけど、確かに意外といいセンスしてるかも。
「そのネックレス、格好いいです!」
「へ? あ――あり、がと」
これもカカに無理やりつけられたやつだけど、僕はこんなの持っていなかった。もしかして誰かのプレゼントか?
「その、その――」
「ん? サユカちゃんの服も可愛いよ」
「そそそそそそそんな! トメさんの手こそあったか――ってそうじゃなくてっ!」
あーもう、手なんかつないでるから余計に恥ずかしいな……でも指令に逆らったら殺されるし。なんでも逆らった瞬間、いきなり戦闘モードの姉が降ってくる手はずになっているらしい。どんな手はずかは知らないけど……
ちらりと隣を見る。
「ええええええっと落ち着いて落ち着いて落ち着くのサユカ、これがトメさんの手だと思うから恥ずかしいのよ、そう、イナゴの手とでも思えばなんともないわ……なんともない……イナゴイナゴイニャ――かんじゃった」
バッタの仲間と一緒にされるのは甚だ不愉快だが、まぁ喜んでくれてるみたいだし……前に、もっと仲良くするって約束も、したし、な……
まぁ、付き合ってやるか。
「サユカちゃん」
「イナゴ!?」
「誰がだ!」
「すすすいません! なんでしょうかっ!?」
「喫茶店、ついたよ」
「は、はいっ」
カチコチのサユカちゃんと手をつないだまま、指令書の地図に書いてあった喫茶店に入る。初めて来たところだけど……淡い木の色を基調としたモダンな造りで上品な内装、ドアや窓のガラスに彫られた木や雲、鳥は美しく、表から差し込む日の光で輝いている。
うん、とても雰囲気のいい店だ。なんだ、一体どんな変なところに連れていかれるのかと思っていたから、拍子抜けしちゃったじゃないか。
「いらっしゃいませ」
ふむ、店員さんも普通だな。可愛らしい制服じゃん。
「ご予約の笠原さまですか?」
ハテ。喫茶店って予約するもんでしたっけ?
「は、はい。僕は笠原ですけど」
「お待ちしてました……え、えっと、ご案内します、こちらへどうぞ」
ハテ。気のせいでしょうか? なんかあの店員、笑いをこらえているように見えたのですが。
「では少々お待ちくださいませ」
僕らが席についたのを確認し、去っていく店員さん……あやしい。
そう思いつつ、僕はあまり心配はしていなかった。カカやサエちゃんは侮れないけど所詮は子供だ。色恋沙汰にはまだまだ疎い。どうせそこまで変なことは考えてないだろう。
「お待たせいたしました」
ほら、なんかきた。けど誕生日ケーキを二人で食べるとか、そういうのだろう? わかってるさ。子供の考えることはその程度――
「こちら、キリヤ様からです」
んだとコラァ。
コト、と静かに置かれたそれ凝視する。
サユカちゃんも顔を真っ赤にしながら無言でそれを見つめている。
そうか……意外な伏兵もいたもんだ。そうだよな、おまえくらいの歳ならこんなもんがあったってギリギリ知っててもおかしくないよな。
説明しよう!
今、僕らの前に置かれたのはジュースです。そう、ちょっと大き目のグラスに入ってるだけのジュースです。ただ一点を除いて妙なところはなに一つございません。
そう、ストローが二本ついているという点以外は。
「と、トメ、さんっ」
「ま、待った! とりあえず指令書を」
『指令その二、飲め』
「なんてわかりやすい指令だこんちくしょう!!」
思わず破り捨てようとしたところで、まだ続きがあることに気づいた。うぅ……姉が降ってくるのは怖いしなぁ……一応読もう……
『もちろん同時に飲み始めること。飲み終わったらその距離を保ったまま――』
「ぅえええ!?」
「ど、どうしたんですかトメさんっ!!」
あまりのことに固まった僕。そんな僕を心配してか、向かいに座っていたサユカちゃんは席を立ってこちら側に回ってきた。そして僕の手元を覗き込む。
『――その距離を保ったまま、お互いに「好き」と十回ずつ言いなさい』
ボカンッ!! とサユカちゃんの顔が爆発した。
それも仕方ないことだろう。僕のほうはハラワタが煮えくり返って爆発しそうだ。あのエセ紳士店員……なんつー入れ知恵しやがるんだ!!
「どどどどどうしますかトメさんっ!」
「ど、どうするって、やるしかないだろう!!」
「そそそんな大声出さないでください! 注目を集めるじゃないですかっ! わたしたちが今からどんな恥ずかしいことをやると思って――」
「サユカちゃんも声でかい! そんなわかりやすい宣伝しなくていいから!!」
大混乱な僕らは一通りぎゃーぎゃー大騒ぎした後、ゼーハーゼーハー言いながらとりあえず落ち着いた。
「じゃ……じゃあ、いくか?」
「は、はい……どうでもいいですけど、その、あれだけ騒いで店員さんが誰も止めにこないのがすごいですね」
それはそうだろうよ。店員全員、影に隠れてこっち見て笑ってるもんよ。仕事しろてめーら。
「うぅ……よし、ちゃちゃっと済ませてパパッと帰ろう!」
「はいっ!」
いざ、と二人してジュースに挑む!
ストローをくわえる。このままジュースだけを見つめてればそんなに恥ずかしくはないんだけど――つい、ちらりと前を見てしまった。
向こうも同じだったのか、目があった。
近い。
んげー近い。
このストロー、よもや子供用ではあるまいか。
「と、トメさん」
サユカちゃんがストローから少し口を離して僕の名前を呼んだ。
「な、なに?」
「……呼んでみただけです」
ちょっとねぇ勘弁してよ、すんごい恥ずかしいんですけど!!
「と、とにかく飲むよ!」
「はひっ」
視線を下に落とし、ズズズズー! と恥ずかしさを打ち消す勢いでジュースを吸い上げる!
なかなか美味しい。
サユカちゃんも恥ずかしさブースターが働いていたのか、ものの数秒でジュースは片付けることができた。
さぁ、ここからが本番だ。
ぇ、マジで言うの? これ。
「トメさん……好きです」
あ。
前見ちゃった。
目が合っちゃった。
すんごい近くで頬染めてる、サユカちゃんと。
「次は、トメさん、です」
ぅぐ……ええい、ままよ!
「ぼ、僕も、好き、だよ」
や、これ指令ね! 指令に従ってるだけね!
「わたしのほうが、好きです」
「や、僕のほうが好き、かも」
「すごく、好きです」
「ぼ、僕は普通に好き、かなぁ」
「好きなんです」
「そ、その、僕も好きだけど」
「大好きなんです」
「だ、だい、好き」
「世界で一番、大好きです」
――くらくらする。
僕は普通だよ。子供と恋したりなんかしない。
そのはずなのに。
この距離と。
好きという言葉が。
僕の心を。
かき、乱す。
「トメ、さん?」
「……ん」
「終わり、ましたよ」
あれ。
いつの間に終わったんだろう。
なんだか脳が麻痺してる。まるで今朝の寝起きと同じ。
「トメ……さん?」
ぼんやりする。
目の前にはサユカちゃん。
距離はそのまま。
熱もそのまま。
そのまま、僕は――
この二人の話を書くたびに思います。
今日も……エラいもん書いちゃったなぁ……
どうも、作者です。
トメがそのままどうなったのか、あの人の乱入はどうなるのか、それは明日のお楽しみということで――
先に早速投票していただいた読者の皆々様にお礼を申し上げます。票集まるか不安だったのでホッとしました。ええもう嬉しい悲鳴をあげながら集計させていただきます!
ではでは、また明日です。
……今日のタイトル?
べ、別に深い意味なんてないんだからねっ!!




