カカの天下45「酔っ払いシスターズ」
「夏目漱石っていい男だよねっ」
「いやいやー、いまどきは野口英世ですよー」
「でもなんといっても福沢諭吉が一番いい男っ!」
「いえす! おっとこまえー!」
「男前ばんっさい! 諭吉さんっ、もっとたくさん私の胸に飛び込んできて!!」
あー……やかましい。
こんにちわ、トメです。なにやら遠まわしに金よこせと叫んでいるのはうちの姉とご近所のサカイさんです。
すっかり仲の良いこの二人は何の連絡もなくうちに現れ、持参したお酒とおつまみをかっ食らって宴会中です。
なんていうかもう、姉の行動は自然災害の一種と思って昔から諦めてます。
近づくととても危険です。
二次災害にご注意ください。
「ねね、カカちゃん。諭吉いい男だよねっ」
「こんなおっさんのどこがいいの」
で、二次災害に遭ってしまった我が妹カカには同情を禁じえませんわ。
でも酔っ払い二人に囲まれながら、カカはいつもの通りマイペースにピーナッツをつまんでいます。おまえ、図太いなぁ。
「じゃさーじゃさー、カカちゃんはどんな男が格好いいと思うー?」
「ん、お金持ちは格好いいね」
おい小学生、なにリアルな理想を言ってんだ。
「じゃあ諭吉やっぱ最高じゃん!」
「諭吉にかんぱーい!」
「や、その人お金持ちじゃなくてお金の人だし」
冷静にツッコむカカ。
よくそのロゥテンションで酔っ払いについていけるもんだ、と感心する。
「でもでもー、学校で好きな男子とかいないんですかー?」
酔っ払いにお決まりの恋愛話だ。身内としては微妙に気になったりする。
でもカカは恥じらいを微塵も見せず、きっぱりと言った。
「いないよ。だってあそこには子供しかいないもん」
当たり前だろうが!!
「それに、私は私より強い男じゃないと認めないから」
どこの格闘家だおまえは。
「おお……カカちゃん、あんたあたしの教えをちゃんと守ってるね!」
やはり原因はアンタか、姉。
「骨ある男かどうかは急所蹴ればわかるのさっ」
「あらあらー。どうやってわかるんですー?」
「崩れ落ちるのがダメ男。そのまま平然としているのがいい男っ」
ああ……知らないから言えるんだろうな、この人ら。
問答無用で最大級のダメージを与えられるからこそ急所と呼ぶのだよ。
たとえ痛覚なくてもあそこ蹴られればうずくまると思うぞ。痛みとか超越してるから。
「だめだよ、うちのクラスで耐えられる人はいなかった」
クラス全員の蹴ったのかおまえは!?
「ああ、そっか……あたしの周りにもいないんだよねー耐えれる人」
アンタは出会った男全てのを蹴ってるのか!!?
ああ、なんか思ってばかりじゃなく実際にツッコみたくなってきた……が、ヘタに口を出せば酔っ払い災害どっかんどっかんオモチャになってヒァウィゴー! になってしまう。
え、僕の発言がすでに酔っ払いみたいだって?
酔っ払いの相手してたらこういう発言もするようになっちゃうのだよ……君もいつかわかるさ。誰だか知らんが。
「で、あたしらのタイプはこういうことだから、サカイさんのタイプを聞こうか」
急所蹴りに耐えれる人、がタイプだったら一生独身だなこいつら。
サカイさんは「うふふー」といい感じにほろ酔い気分な顔で、ぽそりと言った。
「私を捨てない人」
過去に何があったんだサカイさん……!
――と、そんな感じで理性をなくした大人は盛り上がっていく。
だんだん普通に混ざりたくなってきていたのは内緒である。