カカの天下447「パーフェクト(?)お母さん」
ふふ、こんにちは。ユイナです。
今日は母の日ですね。女優のお仕事で忙しくても家庭は円満。なので今年もきっと愛しい子供たちからプレゼントが届いているはず。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌まじりに今日届いたプレゼントを開けていきます。たくさんありますが、もちろん全部トメ君たちからのプレゼントというわけではありません。恥ずかしながら、特別な日じゃなくてもファンの方々から贈り物が届くもので……毎年、この日は子供たちのプレゼントを探すことから始まるんです。
子供たちもそれをわかってて、あえて名前は書かずに贈ってきます。たまにダミーが入ってたりして、『さぁ当ててみろ』みたいな遊び。数少ない親子のコミュニケーションの一つです。
「えーと、これはなにかな?」
古めかしい風呂敷に包まれた、妙なプレゼントを開けてみます。
そこには土偶が入っていました。
捨てました。
「うぉっと!? な、何をする我が妻よ!」
「ナイスキャッチ、我が夫君」
「これを誰のプレゼントだと思っている!?」
「そんなモノくれるのパパ君だけでしょ」
「おお、さすが夫婦だな。意思が通じ合っている! これはとても由緒ある土偶で――」
「じゃーわたしが今考えてることもわかるかな?」
「……はい、いりませんね。すいません」
なんて言いつつ、後でもらうけどね。せっかくのパパ君のプレゼントだし。
「さてさて、そんなことより子供たちのを探さないと」
「お、これなんかどうだ? 母さんの好きなものばかりだぞ」
パパ君の手元を覗き込むと、それはお菓子の詰め合わせ。たしかに美味しそうなエクレアやモンブランだけど……
「んー、違うと思う。トメ君が消費期限の近いものを送ってくるわけないもの。カッ君やカカ君が送ろうとしても却下するわ、きっと」
「前から思っていたが、あいつは主婦にでもなる気か?」
わたしなんかよりよっぽど似合いそうだけど。とりあえずこれは違う、っと。
「これは……おお、箱の中に箱が入ってる!」
いつの間にかパパ君のほうがプレゼント探しを楽しんでるみたい。ふふ、大変な仕事してるくせに、こういうとこは子供みたいなんだから。可愛い。
「なー母さん母さん。これを見ろ。箱の中に箱が、と思ったら、この箱自体がプレゼントだったのだ」
「あらあら、おもしろい箱」
その箱は手作りでした。紙粘土を丁寧に工作したみたいな――小学校の授業ででも作ったのかな?
「あ、でもこれも違うみたい。手紙が付いてて名前が書いてあるもの」
「む、なんだ。カカあたりが作ったのかと思ったのだが」
わたしもそう思ったけど、カカ君ならもっと変な箱を作りそうだよね。ところでこの手紙の差出人、タケダ君って誰だろう。初めてプレゼントくれる子だなぁ。
――と、そんなこんなでプレゼント探しをしていったんだけど。
「ない?」
「ない、な」
子供たちから、と思われるプレゼントが一つもありませんでした。
だばだばだばだば。
「うあああ母さん! そんな滝のように涙を流すな!」
「パパ君……わたし、あの子らのママ失格?」
「何を言う! 君に比べれば俺のほうがよっぽど失格だ!」
「それはそうだけどぉ……」
「自分で言っててショック!!」
毎年必ずこの日にはプレゼントをくれていたのに……なんで? なんで? あううううう……
あ、電話。
「はい、もしもし。結乃です。はい、はい、その件でしたらマネージャーさんのほうに――はい。いえいえそんな、ふふ、ありがとうございます。では」
にこやかに応えて電話を切る。よし。
だばだばだばだば。
「うああ母さん! なんかとてつもなく見事な切り替えだったがそんなあからさまに電話を切った途端に泣かなくても」
「だってぇ……だってぇ……」
コンコン、とノックの音。
「あ、はーい。今開けますねー」
「マジで切り替えはやっ! あの滝涙はどこに消えた? 一瞬で干上がったのか!? さすが女優、感情のコントロールはピカ一か……っと、俺は隠れねば」
シュバッという音が聞こえたのを確認して、ドアを開ける。
「ちわ、宅配便です」
「あらあら、こんなところに?」
たしかにここはわたしのファンクラブに届いたプレゼントの集積場だけど、宅配便屋さんが直接くるなんて変ねぇ。
「ブツはこちらです」
なにやら物騒な言い方で差し出されたのは、とっても大きなダンボール。
「ご苦労様です。えっと、サインとかいるのかしら」
「いえいえ、いりませんよ」
……あら? なんだかこの宅配便屋さんの声、聞き覚えがあるような。
そんな疑問を浮かべた瞬間。
「せーの」
ダンボールの蓋が弾け飛んだ。
「じゃーん! カカちゃん登場!」
「と、トメ登場……」
「ふははっ! 宅配業者に見せかけた姉登場!」
呆気に、とられた。
ダンボールの中から飛び出したカカ君とトメ君、目深にかぶっていた帽子をとり、素顔を現したカッ君。
「あ、あらあら……どうしたの、みんな」
「む、反応薄いよ?」
「トメが思い切って登場しなかったからだよ!」
「ぼ、僕のせいじゃないだろ! た、多分」
いつものように騒がしくなっていく子供たち……ああ、そういえば。
母の日は、日曜日だったっけ。
「お母さん、母の日おめでとう! って言うのも変かな」
「いいんじゃないか。あ、でもごめんな母さん、いきなり押しかけて」
「謝ることないって。だってさ、嬉しいでしょ? 嬉しいよね、母」
「ふふ、はいはい嬉しいわよ。わざわざこんな遠いところまで、みんなありがとうね」
三人していろんな物をくれたけど、わたしにとっては子供と話せたことが何よりも大きなプレゼントだった。
いつもの通り、優しく微笑んで。
余裕のあるお母さんを演じる。
あ、演じるっていうのは違うかな。わたしは本当にお母さんなんだから。
でも――弱い部分はなるべく見せないの。
だから、この嬉しさは後にとっておこう。
そう。後でちょっとだけ泣くの。
笑いながら、ね。
おまけ。
「いい話だ……しかしさっきとは偉く態度が違うようだが」
「パパ君。KYって知ってる?」
「最近流行っているシステムのことか」
「ううん、流行語。空気よめ♪」
「ぎゃあああああ! め、目に、目に土偶が刺さって何も読めません!」
「ちなみにわたしはあなたの嫁」
「俺の余命はあとどれだけだ!?」
「つまらなくてごめんなさいね。妻だけに」
「おあとがよろしいようで」
ちゃんちゃん。
母の日ということで、家族編のおまけみたいな感じになりました。でもしっとり系はしばらく書かないって言ったしなぁ……
そう思い、最後に軽い夫婦漫才などいれてみました。
つまらないですか? 妻だけに? あぁすいません。しかし笑ってもらえなくても、なごんでいただけたらそれで充分でございます^^;