カカの天下445「手芸部の危機!」
「えー! 手芸部できないんですか!?」
突然大きな声をあげてしまってごめんなさい。カカです。
「あぁ、今のまんまだと厳しいな」
テンカ先生は申し訳なさそうに、でもはっきりと私たちに言った。
「理由はなんなんですかっ」
「この間のクラブ希望調査で手芸部を選んだのはおまえら三人だけでな。しかも去年は六年生だけで手芸部をやってたから現部員は実質ゼロ。クラブは四人以上でするのが決まりなんだ」
「うー、せっかくやる気満々だったのにー」
「なんとかならないんですか?」
しょんぼりするサエちゃんを見ていられず、私は出来うる限りの媚を売る視線でテンカ先生を見つめた。
「せんせぇ……!」
「変な顔」
「ぶっ飛ばすのは勘弁してあげますから何か方法教えなさい!」
「オレを脅迫とはいい度胸だ。ま、方法なんて一つしかないだろう」
「というと?」
手芸部を廃部にさせないための方法。それは極めて単純だった。
要は四人以上部員がいればいいのだ。
「勧誘かぁ」
「でもみんな、もう入るクラブは決めてるんだよね? こないだ希望調査は終わったわけだし」
「部員が多すぎたクラブとかないのかしらっ」
「さっき聞いておいたけど、ないってさ。とりあえず誰か適当に引っ張ってくるしか……」
「適当に引っ張るならー、確実に入ってくれそうなのがいるよー」
「誰よっ?」
「タケダ君」
「いらない」
脊髄反射で即却下。
「私たちの大事なクラブをあんなのに汚されたくない」
「あははー、カカちゃんきつーい」
そう言うサエちゃんこそ笑ってるだけで何のフォローもしないじゃん。
「せっかくやるなら女の子同士がいいわよねっ」
「うんうん、サユカンに同感。手芸が似合う男なんてヤだし」
「トメお兄さんなら似合うよー」
「……たしかに。なにせエプロンが誰より似合う男だし」
「鼻歌まじりにちまちま裁縫してるトメさん……イイ」
はいはい、妄想は家に帰ってからしなさいサユカン。
「それで、どうするの。誰を誘う?」
「そうね……でも心変わりしてくれるような女の子なんているかしら。イチョウさんはアヤさんと仲良くなって合唱部に入るって言ってたしっ」
「んー、ここは発想の転換でー……まだクラブに入ってない子を誘うのはどうかな?」
「え? まだ入ってない子って、そんな子どこに――」
「お呼びですか!?」
唐突に背後から響いたバカでっかい声に、私とサユカンは思わず飛び上がった。
「く、クララちゃん? なんで」
「おねーちゃんが呼んだ気がしたので」
やっぱ使い魔? 使い魔なの!?
「それで、クララに何のご用ですか?」
「うん、えっとねー。私たちと一緒のクラブに入ってほしいのー」
なるほど。クララちゃんならどこのクラブにも入れるよね、ってちょっと待った!
「サエすけ何言ってるのっ。クララちゃんってそもそもここの生徒じゃないでしょっ」
そ、そうそう! サユカンが代わりに言ってくれたけど、まずはそこが問題――
「おや? 君はうちの生徒かな」
ぎくり、と身を強張らせる。振り返るとそこにはタイミング悪くデストロイヤー教頭が!?
「ワンピース一枚に、裸足? ずいぶんな格好をしているが……一年生かな?」
「いいえ、私たちと同じ五年生ですー」
サエちゃん!? そ、それはちょっと無理があるような……
「なに? いや、しかし」
「この子、ギネスにのりそうな勢いで成長が遅れてるんですー」
「……裸足なのは?」
「水虫なんです」
さ、サエちゃん……すらすらと嘘を言うのもすごいけど全部失礼なのもすごい……
「五年もこの学校にいるわりには、私は初めて見る子だが……」
「よくあるじゃないですかー。一つだけ空いてる席とか、なぜか一つだけ抜けてる出席番号とかー。この子はそんな感じの子です」
どんな感じ!?
「なるほど」
って納得した!?
「私も子供のころは隣にそんな席があったよ。なんだかそこだけ寒いのだよ」
「そーそー、わかるわかる」
わかりません!! わかりたくありません!
「それでは諸君。しっかりと勉学に励むのだぞ。またな」
い、行っちゃった……
「これで入学はおっけー」
「前から思ってたけど……教頭先生って異様に話がわかる人よねっ」
異様に。うん、なんかピッタリな気がする。
「それで結局、クララは何すればいいですか?」
「んー、とりあえず学校に入って五年生になるからには、勉強がそれなりにできないといけないよね」
と、いうわけで。とりあえず皆でクララちゃんに勉強を教えてみることになった。
「まずは算数からいこう」
学力をはかるため、簡単な問題をノートに書いてみた。
『258−6=』
さあどうだ。
「258個も何があるですか?」
「え。えっと……りんごとか?」
「そんなに食べきれないです!」
「ま、まぁまぁ。例えばの話で実際に食べるわけじゃないわよっ」
「そこから6個りんごを引いたらどうなるー?」
「バレません」
……は?
「それだけあれば6個くらいバレないと思います」
「や、そうじゃなくて……」
りんごっていうのが悪かったかな。
「じゃあお金! 258円から6円をとったらどうなる?」
「泥棒になります」
「そうねーお金を勝手にとったら泥棒よねーってそういう意味じゃないわよっ!!」
見事なノリツッコミをきめるサユカン。これ……学力以前の問題じゃ……
「――あ、チャイム。昼休み終わっちゃったねー」
「それではクララ帰ります」
「え!? く、クララちゃん授業は」
「飽きました」
だ、ダメだこの子……
「だから名前だけ貸してあげます」
「へ?」
パタパタと去っていくクララちゃん。私たちはそれを呆然を見送りながら、
「なるほどー。その手がありましたかー」
「あの子……頭いいんだか悪いんだかわからないわね」
「これがほんとの、幽霊部員?」
三人して妙に感心しながら頷きあい、手芸部の廃部阻止を密かに祝いあうのだった。
まだ始まってもいない手芸部の危機でした。まー半ば反則っぽい方法で逃れましたがこれで部は完成です!
カカたちだけのクラブとなってしまいましたが……さびしいことはありません。なぜならクラブ活動はカカたちだけの話で終わらせるつもりはないからです。
まー具体的にはまだ何も考えてませんが笑
手芸部がどうなるのか、またお楽しみに^^