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カカの天下  作者: ルシカ
44/917

カカの天下44「がんばれタケダ」

「天才とは、死ぬことと見つけたりバカでも紙一重!」


「…………」


「なに、その目は」


「や、なんか変なのがいるなーと思って」


「変とはなにさ」


「まあ、春だしね」


 春です。僕です。トメです。そんなわけで春でトメな僕は嘆息をつきながら、居間でみかんを食べていて突然わけわからんことを叫んだカカを見つめました。


 カカは変と言われたのが気に食わないらしく、むむむーとこちらを睨んでいます。


「それで、なんなんだ? その誰でも知ってる名言の合成品」


 武士道とは死ぬことと見つけたり+天才とバカは紙一重、だな。


「んとね、今日のタケダ君の言葉のなかで一番ピンときたものを言ってみました」


 あー、タケダ君。たしか数回聞いたことあるな。


 たしか……なんか妙に難しくわかったようなことを言う小生意気なガキだった気がする。


「で、その言葉の意味は?」


「天才って死んでから認められること多いなーっていう意味らしいよ」


「……いや、まあ、たしかに」


 歌劇『カルメン』を作曲したビゼーや画家のゴッホがいい例だろう。天才と呼ばれる彼らは名声を得るがそれは死後のことである、というのはよくある話だ。


 それを思うと……タケダ君、ただの小生意気なガキではないということか。


「あとね、今日の作品はねー、『二兎追うもの一兎も得ず、でも十兎追えば一兎は得る』とかー、『こなーゆきーねぇ、髪の毛が白く染められたーならー』とか、『終電に走りこんでぎりぎりセーフ、ただし乗る電車間違えた!』とか」


 なんかすげぇなタケダ君。


「というか随分気に入ってるんだな、タケダ君のこと」


「そうかな」


「だっておまえがうちでクラスの男子の話するときに、名前が出たこと自体初めてだぞ」


 いつもはクラスの男子をぶちのめしたとか復讐したとかそんなことばかり聞いてるからな……って、はて。なんかこの娘の教育を見直さなければならない気がするのは気のせいか。


「おまえ、もしかしてタケダ君のこと好きだとか?」


 父親みたいな気にし方だが……まぁ家族に好きな人ができたとなればなんとなく一大事だ。別になにもしないが。


 しかし僕の心配をよそに、カカはあっさりと首を横に振った。


「ううん。偉そうだからあんま好きじゃない」


 ……一刀両断。


「ていうか、ちょっとうるさい。うざい」


 おお、第二撃。


「言ってること変でおもしろいから、遠めに観察してるだけ」


 おおお、これでフィニッシュだ!


 後ろに立っているタケダ君らしき子も見事に呆然としてるぞ!


「……あれ? タケダ君だ」


 いつの間にか玄関のドアは開いていて、僕にとっては初対面の男の子が顔を覗かせていた。ぶっちゃけ僕は気づいていたが、カカが「タケダ君」と名前を出した途端に彼が狼狽したのを見て「お、本人かな」と思い、おもしろそうだから放っておいたのだ。


 タケダ君は僕らの視線が集まったことを確認すると……おもむろに笑い出した。


「ふ、ふははは! こんなとこでも俺の噂話とは、俺の有名さも大したものだな。でっけぇでっけぇ、俺の人徳。ちぃせぇちいせぇ、庶民の思惑」


 でっけぇでっけぇ態度でそんなことをのたまったタケダ君は、なるほど確かに一筋縄ではいかなさそうなキワモノだ。


 カカは露骨に嫌そうな顔になると、


「……うえ」


 最悪な一言を残して自分の部屋へと去っていった。


 高笑いをあげていたタケダ君はやがて声を小さくしていき……最後にはしゃがんで「の」の字を指でなぞりながらいじけ始めた。どうやら意地を張って笑っていたらしい。


 うむ、気持ちはわかる。あれはきつい。


「えーと……なんだ、とにかく頑張れ」


 ポンと肩を叩くと、タケダ君は涙と鼻水とその他の汁を垂らしながら僕に飛びついてきた。


「お、お兄さぁぁぁぁん!」


「誰がおまえの兄か」


 とりあえず殴り飛ばしといた。


「うう……虎穴に入らずんば虎子に噛まれる……」


「頭いいなおまえ。で、なにしにきたの」


「はぃ……プリント、忘れたみたいなので」


「それはご苦労、あとで渡しとく」


「うう……カカ君……」


 なんだか名残惜しそうにカカが去っていった方向を見つめ、とぼとぼと去っていく彼はもしかしたらカカのことが好きなのかもしれない。


 そんな彼に対して僕が思ったことはただ一つ。


 物好きな……あぁ、あれが俗に言うマゾってやつか。うっとおしいな。


 僕は新種の生き物を見つけたような気持ちになり、意気揚々とカカにプリントを渡しに行った。


 ……なんか僕も、姉と妹の影響で失礼になってきたなー。




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