カカの天下436「お母さんの前だから」
「ケーキおいしいよ、お母さん!」
「ふふ、よかったね。カカ君」
「うん。ありがとう!」
可愛く喜んじゃってまー……あ、ども。コソコソしてますけど、れっきとしたトメです。
今日はGWということもあって母さんとカカがデートしてます。喫茶店でケーキなんか食べてます。
僕?
僕はその……
「お待たせいたしました、こちらホットコーヒーでございます」
「あ、ど、ども」
小声で答え、背後の様子を伺う。よし、バレてないみたいだな。
もうわかりましたでしょうか?
そう、僕も暇だったので……二人を尾行しているのです!
いっつも僕がされる側で、いい加減うんざりなんだよね。たまにはしてやらないと気がすまない! というわけで、現在カカたちのすぐ後ろの席で背を向けて座っていたりする。ここなら声も聞こえるし、顔さえ見られなきゃバレることはないはず!
「カカ君、最近学校はどう?」
「ん、けっこー楽しいよ。サエちゃんとサユカンもいるし」
きた!
や、保護者としてはやっぱり心配なんですよ。僕の目の届かないところでカカがどう思って何を話してるのかさ。今回の尾行だってカカが変なことを言わないか見張るためでもあるんだ。
「お、ちゃんと仲良くやってるんだね」
「うん。最近のサエちゃんはね」
あいつのことだ。ヒネくれまくったことを言うに違いない。
「ほとんど毎日仲良く遊んでるよ。いっつもニコニコしてて可愛いの。でもね、パソコンの前にいるときが一番可愛いんだよ! すんごく慌てて変な行動ばっかりするの」
……あれ。
「ふふ、カカ君はサエ君が大好きなんだね」
「うん。あ、でもサユカンも好きだよ。サユカンたらね、トメ兄のこととなるとね、何でも真っ赤になってね、すっごくおもしろいの」
あれ、あれ。
「わたしは別に一人でもいいもんっ! って突っ張ってるくせに寂しがりやでね、すぐ私たちのとこに寄ってくるのがたまんないね。あれが流行りのツンデレってやつかな」
「んー、ママはおばさんだから流行とかよくわからないけど、とにかくサユカ君のことも大好きなんだね」
「うん」
あれれのれ?
なんか……めちゃくちゃ素直じゃないっスか、カカさん。
僕の前ではいっつもヒネくれてるのに、母さんの前ではそうなのかっ!?
お兄さん悲しい!
うぅ……悲しいからもういいや。素直になってるカカの言葉を盗み聞きするのもアレだし、帰ろ……
べ、別に母さんに負けたのが悔しいわけじゃないんだからな!
「じゃ、トメ君はどう?」
ぴく。
「お帰りですか?」
「コーヒーおかわり」
も、もうちょっと聞こう。
「トメ兄? んとね」
どきどき。
どきどき。
「うるさいね」
ぐさ。
「毎日毎日、いろいろ細かいとこに文句つけてきてさ」
ぐさ、ぐさっ。
「ちょっとうざい」
ズバッ!!
き、斬られた……
刺さって刺さって斬られたよママン……
素直なカカの言葉がこれ……僕はこんな風に思われてたのか……トメしょっくです!! あぁ、なんか誰かさんのマネしてしまうほどショックだ……
「へー、じゃあトメ君のこと嫌い?」
「や、好きだよ」
…………ぁぃ?
「トメ兄と喋ってると楽しいし」
「あらあら、うざいんじゃなかったのかな?」
「うん、うざいよ。うざいけど楽しい、かな?」
ど、どっちですか?
「なんだろ。トメ兄と遊んでるのは楽しいのね。で、いろいろ私に文句を言ってくるのは面倒くさいんだけど、それもひっくるめて楽しいっていうか……んー、なんて言っていいか、よくわかんない」
「ふふ。もしかしてそれ、『楽しい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのかな?」
「あ、そうかも。なんだかんだ言われるのは、まぁ、私を気にしてくれてるってことで……嬉しい、かな」
「知ってる? 『嬉しい』って言葉。『楽しい』って言葉より上なんだよ」
「私それ知ってる!」
どうしよう。
恥ずい。
「――あ、ちょうどいい言葉が浮かんだ」
「お、なにかな?」
「お父さんみたい!」
「なるほどねー。たしかにピッタリかも」
あー……
カカさんや……
そう言われるのはとても嬉しいですよ?
保護者としてうまくやれてるのかな、って思えるからさ。
でもさ。
本当のお父さんの立場、ないべさ?
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉん」
ほらー。なんか隣で泣いてるし。
僕は憐れな父親の肩をポンポン叩いた。
「姿見せないから自業自得だよ。でもまぁ……今夜は飲もう。GWだし、休みくらいあるだろ?」
「うるさいやい! ……どこ行くよ」
「病院っていう居酒屋、行ったことあるか?」
今週は家族の仲良し週間だな。
明日は姉も顔出すって言うし。
ま、こんなのもたまにしないとね。
家族なんだから。
ちょっとしっとり書いてみました。
家族ですもん。なんだかんだ言ってもたまには本音を出したり労わったりしてあげないと。
あげないと……歪んじゃいますよ。今の世の中、特にね^^;
私がこんなこと言うのもおこがましいのですが。
自分が家族と思える人がいるならば、たまには本音をもらしてみてはいかがでしょうか。口にしないとわからないこともありますし。
ではでは、失礼しました^^