カカの天下435「証拠を見せろ」
「お母さんまだかな!」
「はいはい、もうすぐ来るから落ち着けって」
やれやれ……あ、トメです。
今日はうちの母さんが帰ってくる日なので、カカは朝からずーっとそわそわして落ち着きません。友達とお茶してから夕方あたりに帰ってくる、という連絡は受けているのですが……
「夕飯の準備もしちゃったしなぁ。のんびり待とうよ」
そう言った直後、ピンポーンという音が。
「お母さんかな!」
カカはダッシュで玄関へ向かう。僕はその速さに呆れながらも立ち上がり、後に続いた。
そして玄関を覗く、するとそこには。
「ちわ、宅配便です」
さえない男が立っていた。
ハズレだ。
「あの、すいません。お届け物ですのでハンコを――」
「あんた誰」
「は、はい?」
腰が低いその男に、カカはケンカ腰で言い放った。
「えぇと、宅配便業者の者ですが」
「嘘だ!」
オイオイ。
「本当はお母さんの変装でしょ?」
「えぇえ!? こ、こんな変装するお母さんなんて普通いないでしょう!?」
それがいるんだな。世の中ってフシギねぇ。
「僕は本当にただの宅配便業者ですよ! ちゃんと男ですよ。毛深いし」
そういう女もいるべ。
「じゃあ証拠として、あんたの恥ずかしいエピソードを語りなさい」
……どこら辺が証拠になるんだ?
「あれは高校二年のときだった」
語るんかい!!
「僕はバスケ部で、彼女にいいところ見せようとドリブルシュートした。これを綺麗にゴールに入れてこう言うつもりだったんだ。君の心にピッタリンコ! って」
それは確かに恥ずかしい。
「そしたら」
あれ、続きあるんか。
「ボールはゴールに入らず、跳ね返って彼女の鼻っ柱に直撃」
うあ。
「ピッタリンコのつもりが彼女の鼻をペッタリンコにしてしまったというお話です」
うまいことオチがついたな。
「ん、まーまー面白かった。合格、帰っていいよ」
「はぁ」
……カカ、おまえ遊んでるだけだろ。まぁ僕もちょっと面白かったけど。
うんうん頷くカカを引きずって居間へ戻り、ボーっとテレビ鑑賞を再開する。
そして気づく。
そういえば荷物受け取る前に帰しちゃった。
向こうもそれに気づいたのだろう。数分後、再びピンポンが鳴った。
「お母さんかな!」
多分違う。そう言う暇もなく玄関へ向かうカカ。
僕も後を追うと、案の定だった。
「どうも、宅配便です」
「嘘だ!!」
あ、さっきの人と違う。女の人だ。
「え、その……ほ、本当に宅配便なんですけど……」
「じゃあ証拠に恥ずかしいエピソードを語りなさい」
だからなぜそれが証拠になる?
「あれは今朝、八時くらいのことだった」
そしてなぜ語る!?
「出勤するのに電車に乗ってたら……その……痴漢に……うぅ」
あー。
「えっと、その、ごめん。がんばって」
「きっとまたいいことあるさ!」
「はぃ……うぅ、ハンコかサインください」
「ああ、わかった。ほら、これでよし! 頑張って! ね?」
「今度そんな目にあったら、ちゃんと大声出すんだよ!」
「はぃ……ありがとう、ありがとう」
ぺこぺこ頭を下げながら去っていく宅配便業者さん。
「……普通に可哀想で思わず優しくしちゃった」
「……うん」
なんとなくしんみりしながら居間に戻ろうとする僕ら。
しかしそのとき――玄関のドアが開く音が。
振り返るとそこには紛れもない母さんが!
僕らは暗い顔を一転、笑顔に変えた。
「お母さ――嘘だ!」
カカのやつ、楽しそうな顔して……わざと言ってるなこいつ。どっからどう見ても母さんなのに。
「本当はお母さんの偽者でしょ!?」
少しくらいカカに付き合ってふざけてやるか。
そして心からおかえりなさいって言おう――
「その通りだ!」
ぇ。
「よくぞ見破った!」
ぅあ……
「さすが我が娘――な、なぜに二人ともそんな『んだよテメェは』みたいな顔をしてるのだ?」
「んだよテメェ」
「ホントに言われた!?」
「失せろ」
クソオヤジに兄妹キックが炸裂した。
――本当のお母さんが来たのは、それから十分ほど経ってからだった。
ストレスを発散した僕らは、とっても清々しい笑顔で出迎えることができたのだった。
祝、ユイナさん帰還!
というわけでお母様の話が続きます^^
それに加えて父が悲惨な目にあう話も続きます(ぇ
嘘だ!!(何が