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カカの天下  作者: ルシカ
433/917

カカの天下433「哀れな男」

「姉の弱点を教えろ?」


「は、はい!」


 がばっと土下座するシュー君をどうしたもんかと見下ろすトメです。


「なんでまたそんな。シュー君ってずっと姉の下僕でいられれば満足なんだろ?」


「もちろん!」


 即答だよこのお方。


「でも、その……た、たまには」


 下克上してみたいってか。その気持ちはわからないでもない。


「それにほら、好きな人の弱点を知ってるだけで嬉しいじゃないですか。もう死んでもいい! 気持ちイイ! 僕の弱点も知って! みたいな」


 その気持ちはわからん。てかキモい。


「お礼はしますから!」


「よし、じゃー今日は卵の特売だから付き合ってくれ。お一人様一パックだから」


「お安い御用です!」


 最近カカが卵食べたいってうるさいんだよねー。


 え? 安すぎる? 姉の弱点なんてこんくらいの価値だろ。


「にしても姉の弱点ね……うん、そういやこないだマジ泣きしてたな」


「えええ!? あのお姉さまに涙なんかあったんですか!?」


「ああ。こんなことがあったらしい――」




 その日、姉とサカイさん、テンの三人は飲み歩いている最中だったそうだ。


 その道中、姉はふと地面に何か落ちているのを見つけた。


『どうした姐さん』


『や……これ、なんだろ』


『わー、もしかしてお財布ですかー?』


 周囲に人がいないのを確認した姉は、早速その財布の中身を覗いてみた。断っておくが、まだ犯罪じゃないからな。持ち主の手がかりがあるかもしれないし、中を確かめるくらいいいだろ。多分な。


『おお、すげー大金が入ってるよ!』


『おー! 使おうぜ! 分けようぜ!』


『あらあらー、そんないけないことしてー……一人いくらですかー?』


 ここまでくると犯罪だが、姉はふと気づいた。


『あれ、なんだこれ』


 札束の中に混じっていた一切れの紙を。


 そこにはこう書かれていた。


『カツラの頭金』


 とても寒い風が、三人の間を通りぬけた。


『あ、あのさ……』


『警察とどけよっか』


『うん』


 酒が入っていたこともあって、三人は号泣した。




「こんな風に、切ない話に弱い」


「な、なるほど……」


「他にもな、姉がよく行く本屋があるんだけどさ――結婚指輪したサラリーマンが必ずいるんだよ。夜中まで立ち読みしてるんだよ。きっと奥さんに帰ってくるなって言われてるんだよおおお! って泣いたこともあった」


 ま、カカと共通の弱点がもう一つあるんだけど、こっちはやめとこう。


「お姉さま、意外と人情に熱いですよね! ますます惚れました!」


「あそ」


「じゃあこの弱点を知った僕はどうすればいいと思いますか!?」


「同情されて泣かれるくらいに情けなくなればいいんじゃないかな」


 あ、シュー君が石化した。


「今も結構、情けないとは思うけどね」


「…………」


「シュー君のことは昔から見てきたんだろうし、ちっとやそっとじゃ泣かないだろうなぁ」


 って、あれ?


「考えてみれば、それで泣かしてしまえばシュー君のこと見直すんじゃないか?」


「ほ、本当ですかっ!?」


 お、復活した。


「だってさ、姉にとってはシュー君なんて携帯のストラップ程度の存在だったわけじゃん。付けてても付けなくてもいいみたいな。それが見ただけで泣ける対象になる、ってことはすごいことじゃないか?」


「そうか! ただのストラップを見て泣く人なんていませんもんね!」


「そうだ! そのときこそ君は姉に人間と認識されるんだ!」


「よーし! 早く人間になりたーい!!」


 ん、いい雄叫びだ。


 頑張ってもっと情けなくなって、姉に認められてくれ。


 姉の見る目が変わるように。


 そう、ストラップを見る目から、哀れなゴミクズを見る目に変わるように!


 ……あれ、いいのか? それで。


 いいのか。シュー君って苛められるの好きだし。


 さて。


「じゃ買い物に付き合え」


「かしこまりました!」


 元気よく頷くシュー君。


 根っからの奴隷体質なのだろうか。


 ……哀れな。


「どうしたんですか、トメさん」


「い、いや……目にゴミが」


 僕が泣いてどうするよ。

 

 あまりにシュー君が可哀想と思い、出してみました。

 なんか、もっと可哀想になったような。


 ま、まぁ本人がいいんだからいいんですよ! 

 それが一番ですよね!

 多分……

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