カカの天下43「甘い話」
「ねえ、トメ兄。お菓子って……なんだと思う?」
休みの日、午後三時のおやつにて。
我が妹カカがバームクーヘンを食べながらそんなことを陶酔と呟きました。なんか夢見がちな表情をしているので、捻くれた性格の僕としてはとりあえず夢から覚まさせてあげようと思います。
「太る材料」
カカは見事にしかめっ面をして現実に戻ってきた。
「……トメ兄は甘いものの素晴らしさがわかってない!」
まあ、そこまで熱狂的に好きじゃないし。
「女の子は甘いものがないと生きていけないんだよ!」
「糖尿病の人とかは甘いものがあると危ないけどな」
「それはそれ。残念です」
さいですね。
「でも間違ってないだろ。お菓子を食べ過ぎると太るんだから。それで夕飯抜けば別かもしれないけど」
「三食のうち一食でも抜くとね、お米の神様が怒ってカンチョーしにくるんだよ」
すげぇなお米の神様。
「なんでカンチョーなんだ?」
「米って漢字、どこかの穴に似てるよね」
「……誰が言ってた?」
「お姉。や、あんなのヤツの言うことはどうでもいいから」
「じゃ言うな」
お下劣な! 意味がわからない人はそのままでいいよ。その綺麗な心を大切にね。わかってしまった人は……大丈夫、汚れるのが大人になるってことさ。
「私が何を言いたいかというと。もっと遠慮せずにおやつ買ってきてよ、数日分どっさりと」
平日はカカが小学校から帰ってきてからおやつの時間となる。だからその前日、夕飯の買い物でお菓子を買っておく。そう、一日分だけ。なぜなら、
「おまえ、あればあるだけ食べちゃうだろ。ヘタすれば買い物から帰ってきたらすぐに」
「うう……だってさ、目の前でケーキさんやプリンさんみたいな美人さんが『私を愛して』って言ってるんだよ?」
「菓子の分際でずいぶんと情熱的だな」
ぶっちゃけうざいぞ。
「とにかく、買ってきてからもすぐに食べたいの」
「そしたら買い物の後にすぐ作る夕飯、食べれなくなるだろ」
「じゃあ、あれだ。ご飯の前はやめて、えっと、ほら。昔の人は言ってたよ。お菓子があるならご飯の後に食べればいいじゃないって」
それは「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」とか言ったどこぞの王妃様の言葉を真似ているのだろうか。なんか昔の人が実際に言ってたのよりわがままにレベルアップしてるけど。すげぇなカカ、王妃よりわがままだ。迷惑だ、もう喋るな。
「お菓子がだめならご飯を食べればいいじゃないか」
足りないならもっとご飯食えという意味だ。
「違うの。ご飯とお菓子は別なの。入るとこ違うの。女の子は胃が四つあるの」
「胃が四つって牛のことだろうに」
「おっぱいあるんだから似たようなもんだよ」
全国の女性に謝りなさい。
「とにかくさ、もっと甘いものが食べたいんだよ」
「じゃ、その分運動するっていうんなら何か考えてもいいぞ」
僕は兄として妹の健康管理を気遣ってみた。
「運動ならいつも男子殴ってるから大丈夫だよ」
なんかすごい答えが返ってきてしまった。
「それはおまえ、あれか。いじめてるってことか?」
「ううん。いじめてる子を追い払ってるの。そしたらつかみ合いのケンカになるの」
さすが子供。性別関係なくケンカするなぁ。
「で、私がいつも勝つ」
さすが子供。女子でも腕っ節つえぇなぁ。
「それでさ、結局どうなの? 甘いものをもっとくれるの?」
……仕方あるまい。
「わかったよ。明日、もっと甘いもの買ってきてやる」
「やた!!」
翌日の夕飯。
「……どういうことさ、トメ兄」
「どういうことって、甘いものを揃えたんだが」
カボチャの煮物に豆の煮物、さらには砂糖多目の厚焼き玉子と、言わずとしれた甘いおかずがズラリと並んでいる。
「そういうことじゃないんだよ!」
カカはどかりとテーブルにつき、
「私はおやつをもっと食べたかったんだよ!!」
いただきます、とお辞儀して、ご飯と一緒におかずをつつき、
「うめー!!」
なんだかんだで満足そうに叫んだ。
ほい、僕の勝ち。