カカの天下428「カカと言葉、レベル4」
「お、いいもん見っけ」
すったかたーと走っていく妹を温かい目で見守ってるのは僕、トメです。
今日はカカと洋服屋へ来てみちゃいました。目的の靴下はもう買い終えたのですが、寄ったついでにいろいろと見て回ってます。
「トメ兄! これほしい」
「おー、どんなんだ」
カカの手元には一枚のシャツ。なんだ、真っ白でおもしろみのない……意見を述べようとする前に、カカはそれを持って試着室へと走った。
「ちょっと待ってね」
「いいけど、なんだよ。そんなに気に入ったのか?」
「うん」
ふむ、よく見えなかったけど気に入るような模様があったのかな。
「お待たせ」
シャツを着るだけだからさすがに早い。さぁお披露目だ、カーテンが開く。
「どうだ!」
なるほど、シャツには模様があった。
いや、模様とは言わないか。
文字だ。
お腹のあたりにでっかく『男前』と書かれている。
「命殺ったらぁ!」
「おまえの男前のイメージはそれなのか」
「ふっ……アバヨ」
「どこへ行く」
「まだあるんだよ」
再び閉じるカーテン。
そして間もなくオープン。
「どう?」
胸にはでっかく『可愛いでしょ』の文字が。
「きゃぴ!」
「んな擬音言っても可愛くないぞ」
「む、じゃあ」
くるんくるーん、と回ろうとでもしたのか。
しかし今日のカカはジーンズだ。スカートがふわっとなるわけでもないし、さらにはバランスを崩してコケてしまった。カカ的な可愛いイメージからは程遠いだろう。
「いたた……うぅ」
でもちょっと可愛かった。
「もっかい」
閉じるカーテン。
またまたオープン。
「どうだね」
書かれてる文字は……おお、こういうシャツの定番、『江戸っ子』だ。てやんでぇ! とか言うのかな。
「んと……」
お、迷ってる?
「エドって誰の子よ」
そっちできたか。
「てやんでぇ!」
あ、でもちゃんと言った。
「次!」
飽きずに閉じるカーテン。そして――
「あの……スイマセン」
そんな感じでのほほんと遊んでいたのを見られていたのか、僕は知らない人に声をかけられてしまった。
「はい、なんですか?」
「チョっと、お聞きしたいのデスが」
しかも外人に。ちょっとビビッたけど、日本語いけるっぽいから大丈夫か……少しカタコトだけど。
「先ホドから――」
「今度はどうだ!!」
その外人さんの声を遮って登場するカカ。
胸には達筆な『ハゲ丸出し』の文字。うーん、これはどう演じるつもりなんだろう。見てみたかった。
でも見れなかった。なぜなら……
「オゥ!! ビューティフル!! スバラシイ!!」
なんか知らないけど外人さんが興奮してしまったからだ。
「ぇ、え、なに、この人」
焦るカカ。しかし外人さんはそれに気づかず感激しまくる。
「ヤハリ日本語は美しいデスね!! 英語にはナイこの形、感激デス!! きっとさぞかしスペシャルでカンドー的な言葉なのでショウね!?」
「え、えと、その」
「ワタクシ日本語は勉強中なのデスが、マダ読めないのデスよ! なのでモシよかったら……このお言葉のスバラシサを、ワタクシに教えてはイタダケないでしょうカ!?」
こ、困った。
『ハゲ丸出し』という言葉は一体どうすれば美しくなるんだ!?
むう……そこら辺のオッサンを指さして「ああいうスッキリした頭のことです」って説明するのが一番手っ取り早いんだけど、それだと外人さんの夢を壊しちゃいそうだし……どうすれば!?
カカを見る。視線が『どうする?』と言っている。
『そんなこと聞かれても困る』と視線で返す。
するとカカは『わかった、任せて』と頷いた。
というか視線で会話できる僕ら、すごくない?
「あのね、この文字はね」
「ハイ! ナントいう意味なのでショウ!?」
さぁ、どういく?
「英語でいうとナイスガイだよ」
ハイ普通に嘘いきましたー。
「オゥ! やはり日本トクユーのすばらしい褒め言葉ナノですネ!」
「そうそう。光ってる人のこと」
確かに間違ってない。
「ワタクシも光りたいデース!」
や、あんた光ってるよ。眩しいよ、その純真さが。
「じゃーこれあげるよ」
「本当デスか!? センキューです!!」
あぁ……あんなに喜んでしまって……
「感謝シマス! アナタのお名前をお聞かせ願えマスか!?」
「カカだよ。あなたは?」
「ワタクシ、ムモーと申しマス!」
むもう。
……無毛?
「このシャツ、あなたにピッタリです」
カカも僕と同じことを思ったらしい。
「ええ、この上もなく」
とりあえず同意しといた。
「アリガトウ……アリガトウございマース!! 日本人の皆さんトテモ親切デース!!」
本当はかなり不親切で申し訳ないデース。
カカから受け取ったシャツを握りしめた無毛――じゃなくてムモーさんは、やたらと頭を下げながらレジへと向かっていった。
「あれ……着るんだろうね」
「ああ……誇らしく、な」
「誇らしく……『ハゲ丸出し』を……」
「まぁ、無毛さんだしなぁ」
「丸出しだしねぇ」
……だからどうした、とツッコんだら負けだ。
「日本語の教科書に『ハゲ』が載ってないことを祈ろう」
「うん」
そんな、一日一善の逆をやってしまった一日でした。
やー、普通の話ですねー。まったりー。
普通……だよね?笑
ムモーさんには可哀想なことをしました。でもレギュラーになるわけでもないですし、別にいいか(ひど