カカの天下424「桜、舞い散る中で 後編」
カカです。
昨日、みんなでお花見をする約束をしました。
朝早くから準備して、トメ兄にも手伝ってもらって。
決めた時間より早くうちを出ました。
空を見上げる。
晴天。
昨日の嵐が嘘のよう。
そう……嘘であってほしかった。
公園に到着する。
視界に入る桜の花は全て、散っていた。
それらを見ないようにしながら歩を進める。
どうか。
どうか――
「あら……おほほ、早いんですのね。カカさん」
その桜の前には、すでに校長先生が立っていた。
サエちゃんやサユカンもいる。
みんな、約束の時間よりもずっと早くここに集まってたんだ。
その――散ってしまった、小さな桜の前に。
「もしかしたらこの桜だけ、一輪だけでも花が残っていたり……なんて、そんなことを思ってしまいましたわ」
目を細めて、残念そうに呟く校長先生。
「そんな……都合のいいこと、あるわけないですよね」
桜を見上げる校長先生の背中は、本当に寂しそうで。
誰も声をかけることができない。
「桜……散って、しまいましたね」
校長先生の声だけが、響いていた。
「お花見すら、満足にしてやれないのですね。わたくしは」
雲間から差す柔らかな陽光が、憎い。
抜けるような青空が恨めしい。
どうして。
どうしていまさら。
遅いよ、晴れるのが。
こんなときくらい――嵐なんか吹き飛ばして、ずっと晴れていてくれればよかったのに。
「ごめんなさいね、せっかく集まってくれたのに」
やがて私たちに向けられる、校長先生の謝罪の言葉。
先生は何にも悪くないのに。
悪いのは天気とか、桜の病気とか、そういう、そういう――どうしようもないモノのせいなのに。
「校長先生」
こんなの、ヤダ。
「しましょう、お花見」
そんなモノに負けてあっさり引き下がるほど、私は素直じゃない。
「でも、花が――」
「知ってますか? 花が咲いてなくてもお花見はできるんですよ。私たち、やりましたもん。この桜の花が咲く前に、一度」
お姉はなんて言っていた?
花より団子なあたしらは、そもそも花なんて見ない。
そう、花なんかなくても――
「お花見っていうのは、桜と一緒に騒ぐものなんだと思います! 桜は花じゃなくて、木です。木があります。だから、お花見はできるんです!」
そこに桜の木と私たちがいれば、それはお花見なんだ!
そんな私の屁理屈に、校長先生は目を丸くしていた。
変なことを言ってると思う。
でも――
「はは、たしかに。いまどきのお花見騒ぎで桜の花ばっかり見てるやつなんて、なかなかいないからな」
「団体の中でそんな人いたら、寂しそうに映っちゃいますよねっ」
「や、本来は見るもんなんだが……とにかくさ。花のないお花見もいいんじゃないかな、ってこと」
「はい、細かいこと気にしないでいきましょうっ」
苦笑しながらも同意してくれるトメ兄とサユカン。
そうだよね。
いいよね、花がなくったって。
この間は、楽しかったんだ。
桜の花が咲いてなくても。
たくさんの優しい木々に囲まれて、みんなでわいわい仲良くしていれば、それだけで楽しかったんだ。
「校長先生。お花見、しましょう?」
今日もきっと楽しい。
だってクララちゃんと一緒なんだ。
花が散ったら終わり、みたいなこと言ってたけど、すぐに木が枯れるわけじゃない。まだいるんでしょ? そこに。
なら、一緒に楽しもう。
妖怪とか、ちょっと怖いけど……姉の仲間と思えば、怖くな……それも怖いけど、とにかく!
「本当にありがとう、カカさん。ええ、ええ……お花見、しましょう……」
クララちゃん。一緒に遊ぼう。
お母さんと一緒に、ね。
「よし、じゃあシート広げるか」
「あ、手伝いますよトメさんっ」
校長先生は目を細めている。
今度は嬉しそうに。
喜んでもらえて、よかった。
クララちゃんはどう?
喜んでくれてる?
もしそうなら、嬉しいな。
すごく、すごく嬉しいな。
ところで……
サエちゃん、どこいった?
どうも、サエですー。
ただいま大きな木の陰に隠れてます。カカちゃんたちには見えない位置。なぜかといいますと、ここにソレがいたわけで、見つけてしまったわけでしてー……
「どうしましょう」
白いワンピース姿のソレが言いました。
「どうしましょう、どうしましょう」
本当に困った声で言いました。
「実は普通にお花が散っただけで、クララ元気だなんて今さら言えません!」
クララちゃんっぽいソレは頭を抱えてしゃがみ込みました。
「……花は無いけど木は元気っぽい、とは思ってたんだよねー。病気はどうしたのー?」
「えと、あの、実は……最初からお話してもいいですか?」
「どうぞー」
「まずですね、クララが目覚めたきっかけは、あなたたちの大騒ぎだったんです」
「大騒ぎ……って、もしかしてお姉さんのホワイトデーの」
元祖お花がないお花見のことだね。
「はい。そこにいらした力の強いお二人に触発されて、クララが出てきちゃったんです」
「力? それに、二人って?」
「力というのはですね、幽霊さんが見えたりとか、クララみたいなのに気づきやすい人とかが持ってるモノのことです」
あー。
思い出した。
ずいぶんと前にカカちゃんが言ってたことを。
カカちゃんの家で私が見た幽霊を、お姉さんも見ていたってことを。お姉さん見える人だったんだー。
「それでですね、クララの病気もヤバげな感じでして、最後にもう一目でいいから会いたいと思ってお母さんを探してたのです。お母さんが言ったとおり、花が散ったらクララの命も、もう終わり――」
どこかの病室の子供が言うセリフみたいだ。
「の、はずだったので」
……はず?
「っていうことはー。やっぱり元気なの?」
「その……先日、特攻服を来たあの人が、クララの周りの悪い霊を全部、蹴っ飛ばしてくれたんです」
お姉さん?
……つよ。
「病気の原因はそれだったので、おかげさまでクララすっかり元気です!」
「そ、それはそれはー……困りましたね」
「はい、困りました」
木の陰から後ろを覗く。
そこではいまだにお涙モードのみんなが……
「今までお疲れ様……わたくしの、子供……」
お母さんは特に重症だ。
「……クララ、死んだほうがいいですか?」
「だめー」
「じゃあ二度と出てこなくていいですか?」
「そんなことしても無駄だよー。木はこれから元気になっちゃうんだからー」
「クララしょっくです!」
凹みまくりながらウンウン唸るクララちゃん。うーん、この子が不思議な存在なんだって、もうわかってるはずなんだけど……どこからどう見ても普通の子供にしか見えない。
「お母さんと遊びたい……でも雰囲気を壊すわけには!」
空気を読んでる。大人かも。
ちらり、と再びあちらの様子を伺ってみる。
校長先生はまだ木に語りかけていた。思い出話かな?
「インド象のフン、ワニのフン、豹のフン、フンの化石……各地から集めたフンを肥料にあげたのに……あなたは治らなかったわね」
なんか聞いてると治る気しないんですがー。
「おいしかったのはワニのフンです」
「ふーん」
いま初めてこの子が人外と思えた気がする。
……ん? 人外?
あ。
あー。
「ねー、クララちゃん。さっき言ってた私やお姉さんの力みたいなのって、校長先生にはある?」
「はい? お母さんにはないです。すっからかんです、文無しです。ロクデナシです」
文無しから先は違うと思うけど、まーいいや。
「じゃあさ。今から普通に出ていっても、クララちゃんがあの桜だってわからないんじゃない?」
カカちゃんたちは知ってるけど、そのあたりは私から説明すればいいし。
「とりあえず今は桜が残念でしたってことにしておいて、今日は一緒に楽しむ。そして後日、気がついたら桜が元気になっていた――こんな流れでどう?」
「それです!!」
言うが早いか、クララちゃんは飛び出していた。
そして校長先生の胸へ突撃――って急すぎでしょー!
「きゃ!」
可愛い声をあげて驚く校長先生。
「あらあら……おほほっ! どうしたの、お嬢さん?」
「あ、す、すいません……優しそうな人だったので、つい抱きついてしまいました!」
そんなにお母さんに会いたかったんだね、クララちゃん。
私は苦笑しながら木陰から出て、抱き合う二人へ近づいた。
驚きのあまり口をパクパクしているカカちゃんとサユカちゃん。困惑に首をかしげるトメお兄さん。
そして困った顔をしながらも嬉しそうな校長先生と、笑顔いっぱいのクララちゃん。
「先生、ご迷惑をおかけしてごめんなさい」
みんなの視線を集めながら。
「その子、私の妹でクララっていいますー。校長先生のこと、気に入ったみたいですのでー……よかったら、遊んであげてください」
そういうことに、しておいた。
暖かい風が吹く。
揺れる花はないけれど、木々が穏やかに歌ってる。
みんなで騒ぐには、これで充分。
さぁ、お花見だ。
今度こそ春を迎えよう。
楽しく。
そしてぽかぽか暖かく。
マヌケでおもしろくて可愛い、桜の精と一緒に。
ほろりとくる話になるかと思いきや……こんなんなりました笑
ちょいラブコメの次はちょいファンタジー、と好き勝手に書かせていただいてますが……読者様的にはいかがなのでしょうか^^;
私はすごく楽しいです(ぉぃ
今度こそ、今度こそはいつものほのぼのコメディでいきますので、またお楽しみください……あ、そういえばもうすぐ誕生日が……ま、まぁどんな風にするかはそのとき考えよう!
あと、忘れちゃいけない投票コーナー。明日が〆きりでございます。
そうですねー。16時くらいを〆きりにます。まだ投票してない方は奮ってご参加ください^^
作者が喜びます(またそれだけかい