カカの天下421「逆だぞ、がんばれタケダ」
よう、久々だな。タケダだ!!
……ほんと、久しぶりだなぁ。
んああ! それというのも、俺だけカカ君たちと違うクラスになったから! 神よ、俺に恨みでもあるのか!? それともただ単にドSなだけなのか!! おそらく後者だな!
くそぅ……いや、いくら悔やんでも違うクラスになった事実は変わらない。
なんとかカカ君に近づかねば。そんなことを考えながら廊下を歩いていた矢先、カカ君を見つけてしまった。
こちらへ向かって歩いてくる。これはすれ違いコース……声をかけるならば今じゃ! おのおのがた、でんちゅーでござる! この間テレビで言っていたが、要はかけ声なのだろうな、コレ。電柱がどうしたのかは知らないが、まぁいい。ともかく突撃!
「やぁ、カカ君」
「お、タケダ財布じゃん」
「余計な言葉をつけ加えるな!」
「じゃ財布」
「そっちを取るな!!」
な、名前を覚えてくれていただけでも良しとしよう。
「あ、あのなカカ君」
「なに。お金くれるの?」
「財布から離れてくれ! その、な。話があるのだ」
「む?」
よし、ここは単刀直入に思っていることを伝えよう。
「実はな、前々から思っていたのだ」
「何をさ」
「サエ君やサユカ君のことなのだが……君の友達と言うには役不足ではないかね!?」
言った! 言ってしまった!
カカ君は怒るだろう。しかし俺は正しいことを言った!
カカ君の隣に常にいるべきなのはこの俺、タケダなのだから!
さぁカカ君。反論するがいい。俺が愛をもって説き伏せてくれよう!
「たしかにそうだね」
……あれ?
認めちった?
「それで?」
「え……いや、その、それだけ、なのだが」
「あそ。んじゃね。トイレが私を待ってるの」
「そ、そうか。トイレによろしく」
予想外のあまりに、呆然と変な答えを返してしまった……
なぜだ? 俺はあの二人を、カカ君の友達にふさわしくない、と言ったのだぞ。あの友達想いのカカ君なら絶対に怒るはず……
「まさか、俺の知らない間に――救いようがないほどの邪悪に染まってしまったのでは!?」
「きゃあっ!?」
おっと、俺としたことが独り言を叫んでしまった。通りすがりの女生徒を驚かしてしまったではないか、悪いことをした。
「すまな――サユカ君?」
「う、タケダ君、だっけ」
露骨に引きつった顔をするサユカ君は、おそらく俺が苦手なのだろう。しかし、この際細かいことに構ってはいられない!
「サユカ君、折り入って相談があるのだ!」
「な、なによっ」
「カカ君のことで煮詰まっていることがあって――」
「煮詰まっているならそれでいいじゃないのっ」
「……え?」
「じゃあねっ」
逃げるように去っていくサユカ君……煮詰まってるのにそれでいいなんて……サユカ君、冷たい……彼女まで悪魔の道へと?
「タケダ君、そんなとこ立ってたら邪魔だよー」
「魔王がきた!?」
「……なぐるよー?」
おっと驚きのあまりに本音が!
「さ、サエくーん、きいてくれよー」
「はいはい、今度はなにー?」
俺は先ほどあった出来事をサエ君に話した。
「ははーん……タケダ君、言葉の意味を勘違いしてるでしょー」
「言葉の、意味だと?」
「そうそー。勘違いしやすい言葉なんだけどねー」
サエ君の説明を聞くと、こういうことらしい。
『役不足』の意味――与えられた役が軽すぎること。逆だと思っていた!
『煮詰まる』の意味――充分に議論、相談をして結論が出せる状態になること。逆だと思っていた!!
「カカちゃんは私とサユカちゃんのこと『親友』と思ってるからねー。きっと『友達』っていう言葉じゃ軽いと思ったんだよ。自分で言っててはずかしーけどー」
「そして俺が『煮詰まった』と、つまりは『もう結論が出せる』と言ったから、サユカ君は相談を聞く必要がないと思って去っていったわけか……」
というか、な。
というか、な!
というか、な!!
「なんで君らは普段バカなくせにそういうところだけ頭がいいのかね!?」
失礼を承知で叫んだ。
サエ君は深く、とても深く微笑んで――
「言いたいことはそれだけー? バカ以下のタケダ君」
俺の心を、容赦なく抉った。
リベンジだ。
「カカ君」
「ん、なに?」
そう、リベンジだ!
俺はサエ君から新たな言葉を教えてもらった。そう、勉強不足のせいで意味を勘違いしていた言葉たちだ。それらを使って――俺は今度こそ、カカ君を惹きつける!
「カカ君、前から思っていたのだが」
「また? なんなのさ一体」
さぁ行くぞ。
「君は頭でっかちだな」
頭がいい、という意味だそうだ! いい意味で!
「いつも大口をたたいてばかりだし」
立派な言葉ばかり言っている、という意味だそうだ! いい意味で!
「きっと心臓には毛が生えているのだろう」
度胸がある、という意味だそうだ! いい意味で!
よし、これは今まで俺が悪い意味だと思っていた言葉たちだ。
さて、さらに褒めるぞ!
「そのままでは犬死にするだろうな!」
とても意味ある死に方らしい。逆だと思っていた。
「無駄に足掻きながら生きていくがいい!」
懸命に価値ある生き方をしていけ、という意味らしい。逆だと思っていた。だって『無駄』とか言ってるのにな。不思議だ。
さぁ、ラストだ!
「カカ君……君はまるでゴリラのようだ」
ゴリラは美人らしい!
「むしろ、へのへのもへじだぞ!」
へのへのもへじはものすごく美人らしい!
「ウーパールーパーと言っても過言ではない!」
ともかく宇宙レベルで美人らしい!
さあ、どうだ。
カカ君の反応や、いかに!?
「で、どうだったー?」
「……無言で……股間を……蹴られ……ました……な、なぜ……」
「だって全部嘘だもん」
「やっぱりか!?」
道理でおかしいと思った!!
「あ、『役不足』と『煮詰まる』の意味は本当だよー?」
「そうかい……もうどうでもいいよ……うう……今度こそ汚名を挽回しようと、熱くなりすぎた……」
「汚名は返上するものでー、名誉を挽回するものなんだけどー……本当に汚名を挽回しちゃったね」
「うあああああああああん」
「よしよし、もっと楽しい言葉を教えてあげるからー」
「楽しいのは君だけだあああああああ!!」
がんばれ……俺……
負けるな……俺……
泣いてなんか、ないやい!
勘違いしやすい言葉、結構ありますよねー。
意外と意味が逆だったり。日本語ってムツカシイ。
そしてタケダ君の恋路もムツカシイ笑
さて、次回は――ついにクララちゃんの謎が明らかに!?