カカの天下419「次のツッコミは君だ!」
「ツッコミをしてくれないか」
「はい?」
はい、トメです。
今日は日曜日。非番のキリヤと我が家でダラダラとコーヒーを飲みながらだべっていたのですが、ふと思いついたので言ってみました。
「いやな、最近思うんだよ。僕の周りにはツッコミがいないって」
「トメ君がいるじゃないか」
「だから、僕以外にだよ! 僕ばっかツッコミじゃ、いい加減疲れるんだよ。たまには僕もボケたいよ」
「そっか……トメ君もボケが始まる歳かぁ」
「そういう言い方は不愉快だからやめてくれる!?」
あ、またツッコんじゃった。
「とにかく! 僕の周りでツッコミができそうなのって、キリヤくらいなんだよ」
「ふむ、そこまで言うならいいでしょう。私がツッコんでみます。ですからどうぞ?」
「え? どうぞってなにが」
「ボケをお願いします」
えっと……どうしよう。いざ言われると何をどうすればいいのやら……
そうだ、とりあえず唐突なことを言えばいいんじゃないかな。
「タイヤキ食べたくないか?」
「食べたいです」
「じゃあ行こ――ツッコめよ!!」
「え、それボケだったんですか?」
「悪かったなセンスなくて!」
あぁ……またいつの間にか僕がツッコミに……
肩を落とす。しかしタイヤキを食べたいと思ったのは本当なので、キリヤと僕は家を出て商店街へと買いにいくことになった。
その道中。
「もっとツッコみがいのあるボケしてくださいよ。トメ先輩と違って私は初心者なんですから」
「プロになったつもりはないけど……でもそうだな」
ツッコみがいのあるボケ。そうだな、自分がツッコむ側だったらどうだろう。
うーん、何かアブナイこと言ってるやつにはツッコみやすいかな。
よし、ボケるぞ!
周りに何か材料は……お、小学生くらいの女の子が歩いてる。
「あの女の子、可愛いなぁ。ナンパしちゃおっかな!」
「うぁ」
「引くなよ! ツッコめよ!」
「でも先輩、ボケるにしたってもう少し考えたほうが……」
「そんな目で見るな!」
ううう、仕方ないだろう。なんか知らないけど普段から『このロリコンが!』っていう声がどこからか聞こえてる気がするから、あえて「それ犯罪じゃん」って言われて「だよねー、ないよねー」みたいな流れがほしかったのに!
「……犯罪だ」
「ボソッと言うな!」
ああうう、またツッコんでる……
「じゃ、じゃあほら! ちょうどいいのが来た!」
「はい? あの女性ですか」
「そうだ! あれは僕の姉でな、存在自体がツッコみどころ満載だからやりがいがあるぞ」
「なるほど、頑張ってみます」
キリヤの意気込みを確認した僕は、都合よく向こうから歩いてくる姉に声をかけた。
「あ、弟じゃん。やっほー」
「おっす、姉」
「その子だれ?」
「僕の友達でキリヤっていうんだ。ほらキリヤ」
いけ! ツッコめ!
「こんにちは、キリヤと申します」
「あれ、あんた東治の店員さんじゃん?」
「ご存知でしたか。あ、そういえば……お姉さまもお客さんとして見たことがあるような」
「うんうん。たまーに行くからさ。今度行ったときはサービスしてね!」
「はい、喜んで」
「じゃ、うちの弟をよろしく。じゃーまたねー」
「はい、ごきげんよう」
にこやかに手を振って別れる二人……
って!
「ツッコめって言ってるだろ!」
「え、今の方にツッコみ所なんてありましたか?」
「あるだろ! 姉の着ていた服は!? 持ってたものは!?」
「薄汚れた特攻服に木刀ですが。ケンカ帰りですかね」
「ツッコめよ!」
「え、別におかしくないかと」
「世間一般ではおかしいんだよ!」
「知りませんでした。さすが先輩。勉強になります」
「おまえわざとやってるだろ!」
はぁ……僕ほんとツッコミしかしてないじゃん……
「あ!」
向こうから歩いてくるあの人は! 今度こそ。
「よしキリヤ、あの女性だけど」
「ナンパするんですか」
「さっきの僕のセリフは忘れろ! いいか、あの人はかつて皿を売っていたサラさんという人なんだが」
「そんなわけないやん!」
「や、せっかくツッコんでくれたとこ悪いけど、本当」
あ、ちょっとしょんぼりした。
「ま、まぁまぁ聞いてよ。でな、彼女が鍋を売ったらナベさん、お釜を売ったらオカマさんって呼んでからかってるんだよ。今からそんな風にからかうから、僕にツッコめ。いいな」
「はい、わかりました!」
よし。
僕は買い物帰りらしいサラさんに片手をあげて声をかけ――ようとしたら向こうが気づいてくれた。
「トメさん! 奇遇ですね」
僕は買い物袋を見た。
大根が飛び出していた。
「やぁ、大根足さん」
さぁ行け。
キリヤはサラさんの脚をまじまじ見て頷く。
「なるほど」
「納得すんなよ!!」
「え、いや、ですが見事な」
「バカ! そこは嘘でも――あ」
とてつもなく不吉なオーラを感じて、おそるおそるサラさんの方を見る。
なんていうか、詳しく描写したら呪われそうな顔をしていた。
「私の脚……大根、ですか?」
「い、いや! 大根みたいに太くないよ! どちらかというと人参みたいに」
「凸凹してるって、言いたいんですか……?」
ヤバイ。
ネガモードだ。
「男なんて……」
瞳に涙を溜めたサラさんは、きびすを返して――
「男なんて……みんな燃えてしまええええええええ!!」
怨嗟の声をあげながら走り去ってしまった。
……後が、怖い。
「どうしてくれるんだよキリヤ……」
「え、私は燃えませんよ? 萌えましたけど」
「おまえもう黙れ!!」
はぁ……
やっぱ僕がツッコミでいくしかないのか……
「というかトメ君」
「なんだよ」
「ボケだのツッコミだの……あなたの生活ってコントなんですか?」
「言うな!!」
あらたなツッコミ講座ですが、トメのボケ力不足により失敗。
ですが最後のツッコミはうまいと思います(笑)
しかしキリヤ君……イイね!