カカの天下414「誰?」
「ほらほら、早く早く」
「ごーごー」
「ちょっとカカすけサエすけっ、引っ張らないでよ!」
しーらないっ、と言わんばかりにぐいぐいとサユカンを引っ張ってるカカです。
現在ただいまお昼休みでございます。給食を食べ終わった私とサエちゃんは、トイレから出てきたサユカンを捕獲し、とある場所へと向かっております。
「いったいどこ行くのよっ」
「ほら、近々クラブどこに入るか決めないといけないでしょ?」
「その下見だよー。去年の六年生の作品とかあるみたいだしー」
「な、なんでわたしまで一緒に行かないといけないのよっ」
私とサエちゃんの足がピタリと止まる。
「え……サユカン、私たちと一緒のクラブ、イヤなの!?」
「ま、まさかー、私たちの他に浮気相手がー?」
「なな、なんだってー!」
サユカンが呆れたような表情になる。あら、ちょっとわざとらしかったかな? ま、いいや。勢いでいこー。
「サユカン! 相手は誰なの!?」
「どこまでいったのー?」
「身元のハッキリした人なんだろうね!?」
「子供とかできてないだろうねー」
「実は……上に女の子が二人、下に男の子が一人いるんだよ!!」
「しかも未婚なのー?」
「待て待て待てっ! 何者なのよわたしはっ」
「「浮気者」」
「違うっ! わたしには君たちしかいないわよっ!!」
ハッ、と気がついたときにはもう遅い。
「そっかそっか。私たちしかいないんじゃ仕方ないね」
「クラブも私たちと同じにするしかないよねー」
「……まぁ、いいけどさっ」
ふてくされたフリをしながらも頷くサユカン。おーおー照れちゃって。どうせ私たちと一緒のクラブにするつもりだったくせに。素直じゃないこと言うからこうなるんだよ。
満足した私とサエちゃんは再び歩き出す。サユカンは頬を赤くしながら慌ててついてきた。
「それで、いったい何のクラブに入るのよっ。わたしは放送クラブとかおもしろそうだなって思ったけど?」
「あ、給食中に流してるやつね」
放送クラブ。主な活動は私が今言ったとおり、校内放送だ。給食中に今日の献立を紹介したり、音楽を流したり……決められた時間内なら他にもいろんなことを放送できる。授業として設けられているクラブ活動時間では、おそらく放送の企画を話し合うことが中心になるだろう。
「んー、みんなでラジオみたいにして流すのもおもしろいかもねー。カカちゃんのラジオ、略して『カカラジ!!』みたいな感じでー」
「そう言われると色々できそうで、いいかもね。去年のクラブの人たちより面白くする自信はある。でも……」
「やっぱり私たちはここだよねー」
いつのまにか目的地――とある教室の前に到着していた。
その教室の名前は、裁縫室。
「うん、やっぱ手芸部でしょ!」
「あ……そういえば、こういうの好きなんだったわね、君らっ」
この前あげた私たちのプレゼントでも思い出したのか、サユカンは納得したように頷いた。
「クラブとなればいろんな材料があるだろうし、もっと楽しくいいもの作れるかと思ってさ。ねーサエちゃん」
「ねー」
二人でニコニコ微笑みあう。二人の思い出の遊び、これを極めてきっと……よーし、頑張るぞ!
「なるほどねーっ。ところでカカすけ。ずいぶん意気込んでるけど、作りたいものでもあるの?」
「うん。きっと私の手で作り上げてみせるよ」
「何つくるのよ」
「妹」
「無理でしょっ」
えー。だってほしいもん。
「サエすけも何か言ってやって――サエすけ? どうしたのよっ」
む、サエちゃんがあさっての方向を見てる。壁際に提示されている六年生の作品には目もくれず。
「サエちゃん、何を見てるの?」
視線の先に目立ったものはない。
あるとすれば……ゴミ箱?
「なんか、変な気配がするー」
そう呟いたサエちゃんは、ふらふらっとゴミ箱に歩み寄った。
そしてそのゴミ箱の蓋を開けてみる。
すると、そこには――
「……や、やったわねカカすけっ。妹ができたわよっ!」
や、ごめんサユカン。ちょっと混乱してて、気の利いた返しができない。
だってさ。
ゴミ箱の中にさ。
クララちゃんがいたんだもんよ。
「――はっ! も、もしかしてみなさん、クララを見てるですか?」
そりゃ見るよ。そんなとこから出てくれば。
「なんでそんなところに?」
「きっと誰かに捨てられたんだよー」
「サエすけ……その言い方、妙にリアルだからやめなさいっ」
私たちがいまだ戸惑っている中、クララちゃんはマイペースにゴミ箱の中から「んしょ、んしょ」と出てきた。今日は濃いピンクのワンピース姿で、裸足だ。そういえばこの子、いつも裸足だったような……
「あの、クララちゃん。もう一回聞くけど、なんでこんなとこに?」
「はい。探し物の匂いがここからしたので、とりあえず入ってみました」
探し物……にしても、匂い?
「クララちゃんって、そんなに鼻いいのー?」
「はい。たとえばあなた!」
私?
「クララ、あなたからは辛そうな匂いがします」
「……あ、今日の朝ごはん、昨日のカレーの残りだったから」
次はサユカンを指差す。
「あなたからはトイレの匂いがします」
「失礼すぎるわねアンタ!」
「ここくるまえに行ったばかりだもんねー」
そう言われてみればサユカンってトイレの前で捕まえたんだった。
「じゃ、じゃあサエすけはどうよっ なんの匂いがする?」
「悪の匂いがします」
「この子やるわねっ」
「……んっとに、どいつもこいつもー」
さ、サエちゃん? 抑えて抑えて。
「危険の匂いがします!」
あ!
気がついたときにはクララちゃんは走り出していて、あっというまに裁縫室から出て行ってしまった。
「な、なんだったのかしらっ」
「んー、この学校では見たことないよね。今年に入学する一年生とかかな? ね、サエちゃん」
「んー……」
「あの、サエちゃん? もしかしてまだ怒ってる?」
おそるおそる聞く私の質問に、サエちゃんは神妙な顔で答えた。
「いやー。あの子、誰かに似てるようなー」
「えっ、誰かって……わたしたちの知ってる人っ?」
「だと、思うー。でも、誰だったかなー?」
サエちゃんはそれからも、しきりに首をひねっていた。
もちろん、私たちも。
クララちゃんが誰かに似てる? あんな個性的な子に似てる人なんか即わかるはずだと思うんだけど……それになんで学校に?
カカたちの心情はこんなとこですかね。
もしかして、あなたも?笑
……はてさて?