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カカの天下  作者: ルシカ
412/917

カカの天下412「以心電信柱」

「明日からまた学校かー」


「また一緒のクラスになれるといいねー、カカちゃん」


「わたしも……その……君らと」


「サユカン何か言った?」


「な、なんでもないわよっ」


「大きな声でハッキリ言ってみよー」


「絶対聞こえてたでしょ君らっ」


 まーね。あ、どもカカです。


 今日は春休み最後の日。そろそろ咲いてきた桜を眺めながら、いつもの三人で散歩しているところです。そろそろ改めてお花見する時期かな?


「あれー?」


「どうしたのよサエすけ」


「あそこに変な子がいるー」


 サエちゃんの指差す先には、一人の女の子が立っていた。


「変って、どこがよっ。別に普通の――」


 サユカンがツッコもうとしたとき、ボソボソと女の子の声が聞こえてきた。


「クララ知ってます。あなた、電信柱っていうんですよね?」


「へ、変な子っ」


 おー、こないだ見たクララちゃんだ。今日はピンクのワンピースか。


「何を電信してるんですか?」


 一人で必死に電信柱に話しかけてる。 


「クララには電信してくれないんですか?」


 悲しそう。


「カカちゃん……どうしよー。あの子おもしろい」


 私もそう思う。


「話しかけてみる? サエすけ」


「あ、いちおー顔知ってるから私が行くわ」


 そんなに知ってるわけでもないけどね。


「おーい、こんにちは」


「はい? クララに話しかけてるですか」


 電信柱に向けていた視線をこちらに向ける。


「あ、ペッタンコの人!」


「誰がだ!」


 ……はっ。そういえばこの間はそんな話をしてたんだっけ。


「ペッタンコねー」


「たしかにっ」


「二人ともどこ見てるのっ! サエちゃんもサユカンも似たようなもんでしょ!」


 まったくもう!


「あの。クララに何かご用ですか?」


 おっとと、話しかけておいて放ったらかしだった。


「ごめんごめん。クララちゃん何してたのかなーと思って」


「はい。こちらの電信柱さんに話しかけていました」


 それはわかってたんだけどね。


「でもこちらのお方、クララが話しかけてもなかなかお返事をくださらないのです!」


「あのねー、この柱から電信を受け取るにはそう簡単にはいかないのー」


 悲しそうなクララちゃんに微笑みかけるサエちゃん。


「サエすけ……遊ぶ気ねっ」


「間違いないね」


 私とサユカンは小声で囁きあい、少し後ろに下がった。


 見物するためだ。


「電信するにはどうすればいいのですか!?」


「んとー、半導体になればいいんだよー」


 よくわかんないけど、多分それ人がなれるもんじゃないよねサエちゃん。


「半分だけの胴体になるのですか!?」


 もっとなれないや。


「ナゾですフシギですミステリーです! クララもいつかなれますか?」


「うん、頑張ればきっとなれるよー」


 なったら怖いし!


「はいっ、クララ頑張ります。ところでおねーさんは電信を受け取ることができるのですか?」


「できるよー」


「ホントですか!?」


 うそだよ。


「ではおねーさんは半分しか胴体がないのですか!? で、でも見た目としては」


「半分は夢と希望でできてるんだよー」


「なるほどです!」


 納得した!?


「ではでは! こちらの電信柱さんはなんというお名前なのですか?」


 瞳をキラキラさせて腕をぶんぶん振りながら聞いてくるクララちゃん。サエちゃんは「んとねー」と周囲に視線を滑らせ――ボクシングジムに目を留めた。


「マッスル三世っていうのー」


 細長いくせにたくましい名前だ。


「一世と二世はどちらにいかれたのですか?」


「折れたー」


「クララしょっくです! ご愁傷さまです!」


 きゃー! としょっくなポーズをとるクララちゃん。いちいち動きが可愛いなーこの子。


「あ、電信柱があの人に電信してるよー。クララちゃん、代わりに伝えてあげてー」


 そう言ってサエちゃんが指差したのは、ちょうどジムから出てきた小太りの男の人。


「なんと伝えればいいですか?」


「えっとねー、『ちょっとそこのあなた。伝言です。トレーニングは終わったみたいですね。早くやせられるように頑張ってください』って言ってるよー」


 はい! と勢いよく手をあげて頷くクララちゃん。


「クララ覚えました。完璧です、行ってきます!」


 タタタタ、と小走りにその男の人へと駆け寄っていく。


「だ、大丈夫かしら。少し失礼なこと言ってないっ?」


「これくらいなら大丈夫だよー。小さい子の言うことだし、そんなひどいことにはならないでしょー。いざとなればカカちゃんもいるしー」


「お、いよいよ話しかけるよ」


 ちょうどよく立ってる電信柱に身を潜め、私ら三人は静かにクララちゃんを見守る。


「そこのあなた!」


「……ん? ボクのことかい」


「マッスル三世から伝言です!!」


「誰だよ!」


 誰だろう?


「あなたは……えっと、その……」


 あれ。もしかして、すでに言うこと忘れちゃった?


「あなたは終わってます!!」


 すんごい省略して言った!! 


「やせなさい!」


 どこが完璧なのクララちゃん!?


「それではクララはこれで……」


「待てよ!!」


 む、ちょっとマズイかな。さすがに男の人も怒ってるっぽい。いつでも飛び出せる体勢にしとこ。


「そこまでバカにされたら黙ってられないよ! どこにいるんだそのハッスル三世ってのは!?」


 微妙に変わってるし。


「え、えっと! それは……!」


 クララちゃん迷ってる。たぶん『正直に言ったら三世まで折られてしまいます!』とか思ってるんだろうな。


「どこなんだよ! キャッスル三世は!」


 その前にナニモノですかそのお方。


「それは……その……あ、あなたの、心の中に!」


「いてたまるか!!」


 同感だ。


「あ、こら!」


「クララ失礼しますー!!」


 あーあ、逃げていっちゃった。


「……サエちゃん、ちょっとやりすぎじゃない?」


「いくら小さい子は許されるからって――サエすけ?」


 サエちゃんはいつの間にかしゃがみ込んで肩を震わせていた。


「終わってます……やせなさい……マッスルハッスル……ぷっ、ぷくく……」


 珍しくすんごく笑ってる。


 や……確かにおもしろかったけどさ。


「サエすけっ、君ねぇ……ふ、ふざけるのもっ、いい加減に……し、しはははっ!」


 サエちゃんに釣られてサユカンも笑い出す。そしてさっきのクララちゃんを思い出してるうちに、いつの間にか私も笑っていた。


「はー、はー……どうしようカカちゃん。あの子ほしー」


「私も。今度お持ち帰りしようね」 


「さんせいっ!」


「マッスル三世ー?」 


「「ぶっ!!」」


 それから私たちはまた笑うのだった。


 ごめんねクララちゃん。


 君が面白くて可愛すぎるから!


 クララちゃん二回目登場です。

 飛ばしてます。

 ……飛ばしすぎ?(笑)


 さ。とにかく明日から新学期ですよ〜

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