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カカの天下  作者: ルシカ
407/917

カカの天下407「春一番」

 あれ……?


 あ、どうもトメです。カカと二人で夕飯の買い物へ行くところだったのですが……妙な子供を見つけました。


 電化製品屋の店先に置かれている、つけっぱなしのテレビ。流してるのはニュース番組か。


 そのテレビに、話しかけてる子供がいたのだ。


『この事件の被害者は約二百人を超えており――』


「そうですかそうですか、それは大変でしたね……」


『事件解決の目処はいまだ立っていない模様です』


「なんと! が、頑張ってください!」


『次のニュースです』


「なな、なんと! まだ悲惨な出来事があったのですか!? いいですよ、クララでよければいくらでも聞きますから!」  


 歳は……カカより下だな。小学一年生上がったかどうかか? ランドセルでも背負ってればわかりやすいんだけど、白色のワンピース以外は何も身に着けてないし、見た目だけじゃわかんないや。


「変な子だね」


 カカの小さい頃には負けるよ。


「話しかけてみよう」


 お、変な子同士、やっぱ気になるのか。僕も気になったからちょうどいい。


「いってこい」


「うん。ねね、そこの君。なにしてんの?」


 まったく躊躇なく話しかけるカカ。こいつって昔は人見知りだったんだけどな……いつのまにこんな遠慮のない性格になったんだか。


「はい? クララに話しかけてるのですか?」


「うん、君しかいないじゃん」


「いえ。ここにシゲルさんがいらっしゃいます」


 クララちゃんの視線の先には今まで見ていたテレビがある。シゲルってこのアナウンサーのことか。どっかで聞いた名前だな。シゲールとかシーゲルとかいう兄弟がいたりするんだろうか。


「こちらのシゲルさん、随分とつらい経験をしてきたみたいなのでクララが話を聞いてあげているのです」


 や、ニュースを伝えてるだけだろ。


「いろんな事件に巻き込まれて……その末にこんな箱に閉じ込められてしまったんです、きっと!」


 本気で言ってるのか?


 まるでテレビをまったく知らないみたいだ……って、あ。


 今日は四月一日、エイプリルフールじゃないか!


 だからこの子供もふざけてるんだ。きっとそうだ。今朝のカカみたいに。


 ちなみに今朝のカカは、『嘘をつく=逆の意味のことを言う』という公式をたてたらしく、朝っぱらからこんなやり取りをすることになった。


『あなたは背中がいっぱいだよ』


『こえぇよ! って、あぁ。私はお腹が減ったってことな』


『夕飯を吐きだしたい』


『ヤメテクダサイ! って、あぁ。朝飯を食べたいってことね』


 ややこしかったのですぐにやめたが。


 とにかくクララちゃんも、きっとそんな風にふざけて――


「クララはシゲルさんを慰めてあげたいです! でも声が届きません」


「当たり前だよ。テレビの中だもん」


「テレビ、とはこの箱のことですね! どうやったらこんな小さくなれるのですか!? どうやって箱に入るのですか!!」


 あれ、なんかマジっぽいぞ? 


「えっとね、この箱に入るためには身体を薄っぺらくしなきゃならないんだよ」


 そしてそんな別の時代からタイムスリップしてきたみたいな世間知らずな子に嘘を教える悪い子、カカ。まーこいつは普段はほとんど嘘つかないし、エイプリルフールだからたまにはいいと思うけどさ。子供の遊びレベルだし。


「でしょうね! 薄っぺらになるにはどうすればいいのですか!?」


「うん、箱に入るためにペッタンコにしてくれる工場があるから、そこに行けば――」


「薄くなってテレビに入れるのですね!?」


 や、ミンチになって天国に入ると思う。


「わかりました! クララ、早速シゲルさんを慰めるためにペッタンコになってきます!」


「あ、ちょっと――」


 意気込んだクララちゃんは、カカの静止も聞かずに電化製品屋の中に入っていった。


「……しまった。嘘っていう前に行っちゃった」


「店に入ってっただけだしな。入り口で待ってれば戻ってくるだろ」


「平面になって?」


「なってたまるか」


 そんな新技術があったらどうなる。


 狭いところに手が届くようになるな。


 それは便利だ。


 ……などと考えて暇をつぶしていると、やがてクララちゃんが戻ってきた。


「なんだかクララ、その歳ならまだペッタンコでも大丈夫だよって慰められました。お菓子ももらいました」


 自分の胸をさすりながら困惑するクララちゃん。どこをどう順番を間違えて説明したのかすごく気になる。


「うぅ、シゲルさんを慰めたいのに! クララはどうすればいいのですか!?」 


 クララちゃんは嘆きながらテレビを見た。


 映像が変わっていた。


 多分どこかの紛争地帯の映像でも流しているのだろう。派手な爆発音と共に炎が舞う画面――あ。


「し、シゲル……さん」


 お菓子を落とし、呆然と画面を見つめるクララちゃん。まずい、本気でテレビのことを知らないのだとしたら……


「シゲルさん……シゲルさあああああん!!」


 こう、なるよなぁ。


「あんまりです! あんなに不幸なことばっかりだった人が、最後は爆発だなんてえええ!!」


 泣き崩れるクララちゃんにかける言葉も見つからず、僕とカカはそろって困った顔になっていた。


「――シゲルさん? 声が、声が聞こえます!! 生きてるんですか!」


 あ、そういや映像だけだもんな。音声はあるか。


「あぁ!! し、シゲルさんが……お、女の人になってしまいました!」


 む、別のアナウンサーの番になったのかな? クララちゃんがテレビにへばりついてるもんだから見えない。


「そうですか……シゲルさん。シゲ子さんに生まれ変わったんですね」


「や、きっとシゲルーだよ」


 かける言葉も思いつかずに立ち尽くしてたくせに、そこだけは口出すのね、この妹は。


「よかったです。クララ、シゲルさんが幸せなら女になってもいいと思いま――あぁ! シゲルさんが分裂しました!?」


 あ、場面が変わっていろんな人が映ったのね。


「きっとシゲールとシーゲルだよ」


 だからさ、なんでおまえはそんなにシゲル物語を推すのかね。


「シゲルさん……これなら寂しくなさそうです。これなら安心です」


 涙をぬぐいながら安心して微笑むクララちゃん。


 なんて純真なんだろう。


「クララ、ペッタンコやめます! さっき慰めてくれた人の言うとおり、ボインボインになります!」


 そしてなんておもしろいんだろう。


「それでは!!」


「え、あ――」


 テレビと僕らにペコリとお辞儀して、クララちゃんは止める間もなく走り去っていった。


「な、なんだったんだ。あの子……」


「変な子だったね」


「カカといい勝負だな」


 突風のような子だった。


 また、会えるかな?


 実際の春一番、っていうのはもう終わってる時期ですが。

 春先に現れた突風みたいな子っていうことでこのタイトルに笑


 さてさて、いつぞやのとき以来、嘘には気をつかってきたはずのカカですが……今回は嘘を嘘と言う前に相手を逃してしまいました。

 ちゃんと捕まえて弁明できるのでしょうか。

 はてさて。

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