カカの天下405「トメ先生のツッコミ講座」
「――以上だ。わかったか?」
「おす!」
元気のいい返事でよろしい。あ、トメです。
いまカカにノリツッコミというものを伝授したところです。なぜこんなことをしているかというと、カカが春休みで暇だったから、ただそれだけです。
「簡単に言えば、ボケたあとに『って、そんなわけないやん』って自分で自分でツッコむんだね」
「そそ」
本当は他の人のボケにノッかってからツッコむのが正しいんだけどな。最初はこれくらいでいいだろう。
「じゃー早速試してみるか」
「うん。そうだね……最近あんまり話してないし、お姉にでも電話かけて試してみよっかな」
カカは自分の携帯を取り出し、ピポパっと操作。
「――あ、もしもし。お姉」
どうやら出たみたいだ。
「聞いて聞いて。あのね、トメ兄ったら最近変な趣味に目覚めたんだよ」
む……何を言う気だこいつ。まぁどんなこと言っても最後に『そんなわけないやん』って言えばいいんだけどさ。
「夜中に私の体操服を着て町内を全力疾走して、すれ違った通行人の人に敬礼しながら『世界が平和になりますように!』って叫ぶの。おまえみたいなのがいるから平和にならないんだよって感じだよねーあはは」
ピ。
「ってそんなわけないやん」
「って待てやそこな妹よ!! 電話切ってからソレ言っても意味ないだろが!」
「む、ノリツッコミにツッコまないでよ。ツッコミにツッコむって変でしょ?」
「そっちこそツッコミでボケるなよ!!」
あーややこしい。
「わかったよ、次はちゃんとやるよ。もいっかいお姉にかけるね」
「そうしろ」
まったくもう……姉はバカだから信用するだろうが。
「あ、もしもし。お姉?」
今度こそちゃんと言えよ。
「私のじゃなくてお姉の学生時代の体操服だったわ」
ピ。
「って、そんなわけないよねー」
「だからなんで切ってから言うんだよ!!」
「キレてるのはトメ兄でしょ!!」
「なんで逆ギレしてんだよ!!」
早く誤解を解かなければおそろしいことに!!
「はいはい、わかったわかった。もう一回かけるよ」
こうなったら……またカカが変なこと言う前に僕が割り込んで言うしかないな。
「あ、もしもし。お姉」
来た! よし。
「今の話ね、全部嘘だから――」
「って、そんなわけないだろ!!」
ピ。
「って、なんでそこで正直に言うんだよ! なんで切るんだよ!」
「びっくりして、つい」
「つい、にしてはタイミングよすぎだろうが! あぁどうしよう……きっと姉のことだから信じきってるよ……」
「大丈夫、いくら姉でもそんな冗談くらいわかってくれるよ。トメ兄が想像してるような市中引き回しの上、磔、獄門! なんてことにはならないよ、絶対」
「そ、そうかな」
「って、そんなわけないやん」
「そこでノリツッコミ使いますか!? 鬼ですねあなた!!」
「ま、ともかく間違いなく死刑だね」
「…………」
「…………」
「そんなわけないやんって言えよ!! ノリツッコミしろよ!!」
「しろと言ったりするなと言ったり……トメ兄はどうしてほしいのさ」
「もう何もしないでください頼みますから!!」
ほんっとにもーこの妹は!!
「わかったよ。何もしないし何も言わない。約束する」
頼むよマジで……姉に電話っと。
……よし、出た。
「もしもし、姉か?」
『死ねばいいのに』
怖いです!!
「や、今カカが言ったのはさ、ぜんぶ冗談なんだよ」
『あんたも肯定してたでしょが』
「それは――」
「そうだね!」
ピ。
「……ちょいとカカさん。なぜに僕の声マネをして、なおかつ勝手に僕の電話を切りやがりましたか? もう何もしないし言わないって約束したろ?」
「そんなわけないやん」
「そんなわけあれよ! たまには!!」
あ、メールがきた。
姉からだ。
『君の寿命はあとニ分』
カップラーメンができるより早いですね。
誰か「そんなわけないやん」って言ってください!
あ――
あああ――
みなさん。
さようなら。
って、そんなわけないやん!
……ないよな?
そんなわけないやん(なにが
カカはツッコミを覚えてもボケますね。
そんなわけないやん(あるだろ
トメってこれから死ぬみたいですよ。
そんなわけないやん(ホントに?
姉ってホワイトデーのプレゼント、ちゃんと用意してるんですかね。
そんなわけないやん(そんなわけあれよ!!